全日本中学生テニス選手権大会、関東大会午前の部。試合開始時刻は10時。
現在時刻、11時30分。
そろそろS3に突入か、早いところであればS2の段取りが始まるころだろうか。
「・・・・・・・」
「・・・ねえ、桐生さん?」
「・・・・・・・」
「俺が言うのもなんだけど、そんな気を落とさないでーーー」
「無理だようっ!どうしようどうしようどうしようっ・・・!」
大丈夫だと思ったのだ。
再三言うが、遠いとはいえ一本道。
受付だって道中にある。
だから絶対迷ったりなんかしないって、千石も居るから一緒に確かめながら行けば大丈夫だって。
道案内と書類の提出、一度にちゃんと出来ると思って。
思って。
そしたらこの有様だ。
「あのー、受付のおじさん?あの、なんとか見逃してあげるわけにいかないかな?」
「うーん、気の毒とは思うけど規則だからねえ。
やっぱり、書類不備のままじゃ通せないねえ。」
「ああああああっ・・・・!」
そう、道には迷わなかった。
道には。
代わりに、提出書類に抜けがあったのが此処にきて初めて発覚したのだ。
「どうしようっ!どうしようっ!どこかで落としちゃったんだっ!どこで落としたんだろう・・・もう、私のバカバカバカッ!」
「うーん、結構歩いて来ちゃったからなあ・・・探しながら戻るにせよ、簡単に見つかるかどうかだよね。」
「ううう・・・ううう・・・」
「そうだ!おじさん、紙は無いですか?今ここで彼女が書くっていうのは、」
「それはまあ良いんだけど・・・でも顧問の捺印欄があるんだよね。持ってるかい?」
「きょ、今日は先生出張で・・・!」
「あら・・・」
アンラッキー、なんて千石にしては極めて珍しい言葉が思わず零れたり。
「ううん・・・まあまあ!桐生さん、俺も一緒に探すから!」
「本当っ!?あ、でも千石君、千石君はコートに帰った方が、」
「良いの、良いの!さっきも言ったけど、山吹は午後試合だからまだ余裕があるし。それに、親切にしてくれた可愛い女の子を放っておくなんて、俺には出来ないしね。」
「ううん・・・でもかなり時間がかかっちゃうかも、」
「大丈夫大丈夫!」
千石は朗らかにウインクした。
「きっとちゃんと見つかるよ!俺は人よりほんのちょっと、幸運の女神さまに気に入られてる男だからね。」