First region competition:First round 2 - 2/7


「うん?」
「どないしたん?」
「ううん、紀伊梨ちゃんからLINEが・・・あっ!良いなあっ!」
「何々?・・・わ!凄い、ちゃんとしたホームパーティーじゃない!」
「ほう。なかなかのレベルじゃねえか。」

可憐のスマホを覗き込むと、紀伊梨が撮った神奈川の食卓風景が綺麗に撮れている。
これから皆で食べるよ!というメッセージもあるが、皆というのがなかなかの人数であることがこの量から窺い知れる。

「出来上がり綺麗やな。これ全部一から作ってるん?」
「そうだってっ!紫希ちゃんがお料理上手だから、皆で指示を聞いて作ったって書いてあるよ。カレー美味しかったなあ・・・」
「あ、分かるわ。誰か得意な人が一人でも居ると、こういう時ははかどるのよ、ね。」
「残念だが、今日はカレーは出ねえぞ。フレンチだそうだからな。」
「あ、うん・・・」
「こっちもこっちで豪勢やけど。」
「贅沢の方向がちょーっと違うのよ、ね。」

なんて会話する一同は、今リムジンの車中。
跡部邸に向かっているところである。

「景吾様、これより敷地内に入ります。正門を開けさせますので。」
「ああ。おいお前ら、降りる準備をしろ。車寄せまで2、3分って所だ。」

(自宅に車寄せがあるのっ・・・!?)
(そもそも、門から家までの距離が車で2、3分てどんな距離やねんな。)
(まあ、跡部君の家は単純な広さだけ見ても皇居を超えてるそうだから。)

「おい、聞いてるのか?」
「「「聞いてます。」」」

なんて言ってる間にも、リムジンは滑らかに邸宅を目指す。





「「「「お帰りなさいませ、景吾様。」」」」
「ああ、ご苦労。」
「「「・・・・・」」」
「?おい、どうした。さっきから3人揃って、何を呆けてやがるんだ。」
「いや、呆けるやろこれは。」

出迎えてくれる執事とメイド。
天井高何mあるんだかわからないような大空間になっている玄関。
振り向くと、大ホテルのそれかと見紛うような大きな前庭。

そう、ここは跡部邸。

世の中に居る金持ちには、金持ちは金持ちでもその中で色んなタイプというやつがあって。
跡部はその中でも、いわゆる「ファンタジー型金持ち」タイプ。絵に描いたようなと言おうか、漫画やアニメなんかで出てくるちょっとリアルさに欠けてるレベルの生活してる金持ちなのだ。
もう、見るもの聞くもの、全部が「これ現実なんだ・・・」とポカン顔になるようなものばかり。

「ご学友の皆様方、この度はようこそいらっしゃいました。」
「お疲れでしょう、ご自宅と思ってお寛ぎください。」
「何か不足がありましたら、なんなりと仰せを。」
「あ、え、はいっ!」

(現実とは思えないわ、ね。)
(こんな生活しとったら、そら庶民の事なんかわからんわ。)

「お召し物の方をお預かり致しましょう。」
「お履物はこちらに。」
「お荷物はこれで全てになりますでしょうか?」
「え!え!あの、あの!」
「すいませんけど、一個づつ言うたって貰えます?」
「私達、慣れてないものでして。」
「アーン?慣れだの、そういう問題でもねえだろ。気後れする理由なんざねえ、堂々としてろ。」
「無茶言わないでっ!」

こっちは一般家庭生まれ一般家庭育ちの一般人なんだから。
というか、一般人じゃなくてそれなり以上の金持ちであったとしても、果たして跡部邸のこの扱いを自然に受け入れられるかどうかは。

「食堂はこっちだ。行くぞ。」
「可憐ちゃん、足元気つけや。」
「えっ?」
「ああ、毛足の長い絨毯って結構足取られちゃうのよ、ね。スリッパだから尚更だわ。」
「気をつけますっ!」
「安心しろ、転んでおじゃんになったからと言って惜しいような物はその辺には置いてねえよ。」
「跡部君には惜しくなくても、私には惜しいよっ!」
「まあ、それでなくても転ばへんに越した事はあらへんで。転んだら痛いねんから。・・・多分やけど。」
「ふふふっ!確かに、転んでも痛いかどうかは微妙かも、ね。」

転んでも痛いかどうかは微妙。
そのくらい跡部邸の絨毯は良質だった。廊下なのに。
廊下とは言っても、大きな窓に磨き上げられた装飾がっちりの壁面に、これはもう最早廊下にしておくには惜しいくらいの豪勢さなんだけど。

「・・・・」
「跡部?」
「外に何かあるのっ?」
「いや。いつもなら庭に居るんだが、今は居ねえな。」
「え、何がーーー」


「ワン!」


「きゃっ!」
「と。」

「此処に居たか。帰ったぜ、マルガレーテ。」
「クウ。」
「あーっ!わんちゃんだっ!」

可憐の目がきらりと光った。
自らも犬飼いである可憐は、他所の犬を見てもテンション上がる。

「わああっ!初めまして、お名前はマルガレーテ?で良いのっ?よろしくねっ、マルガレーテッ!」
「キュン。」
「あ、あれ・・・」
「おい、まさかとは思うが上に乗るなよ。幾らお前が小さいとは言っても、マルガレーテにそこまでの力はねえぞ。」
「乗りませんっ!ねえ、前から思ってたんだけど跡部君って私のこと何だと思ってるのっ!?私、確かにドジだけど馬鹿なわけじゃないからねっ!」

「・・・ああ、びっくりした。何かと思ったわ。」
「大型犬やからなあ。大丈夫やった?」
「ええ、有難う♪アフガンハウンドかあ、日本じゃ珍しいわ、ね。」
「確かに、その辺で見れる犬とちゃうな。アフガンハウンドて言うん?」
「そうよ、如何にも部長様らしいわ。」
「フン。」

悪戯っぽく笑う網代に、跡部は「分かってるじゃないか」とでも言いたげな不敵な笑みを返した。

「跡部君らしいっ?」
「歴史があるやとか、綺麗やけど運動も得意とか、そういう話やろか。」
「それもあるけれど、なんと言っても性格よ。アフガンハウンドは、犬としては珍しい性格と言われているの。」
「犬という生き物は、基本的に群れで生活してた名残から主人に服従していると落ち着くもんなんだ。だがアフガンハウンドは、自分の判断で狩猟犬として生きてきた本能から自立心が強い。例え主人の命令でも、間違いだと自分で判断すれば従わない。」
「そうなのっ!?か、賢い・・・!」
「確かに犬らしゅうはないかもしれへんな。今も、跡部が帰ってきて嬉しそうやけどその割には騒がへんし。」
「それもアフガンハウンドの特徴だな。基本的に誰が相手であろうと、媚びない。騒がない。はしゃがない。分別があり、溌剌としてて、なんでもない素っ気ないような顔をしておいて・・・」
「しておいて?・・・ひゃああっ!」
「こうして、悪戯をする。可愛い奴だろ?」

いきなり手を舐められて可憐は飛び上がった。
不意をつかれた。完全に油断してた。話をする跡部に意識が向いているのを、マルガレーテは持ち前の賢さで分かっていたのだ。

「うふふっ!本当にお利口さんだわ、可愛い♪」
「可憐ちゃん、大丈夫なん?」
「うんっ!ちょっとびっくりしたけど・・・でも、良かったっ!私、わんちゃんにこんなにツンとされたこと無かったから、嫌われちゃったのかと思っちゃったっ。」
「あら、大丈夫よ。嫌いな人に構うような犬種じゃないわ、ねえ?」
「さっきから詳しいじゃねえか、アーン?」

跡部の言葉に、マルガレーテの頭を撫でながら網代は少し目を細めた。

「・・・ちょっと、ね。昔の知り合いが飼ってたのよ、アフガンハウンド。まあ、もっともその子は躾に相当苦労してたようだったけど、ね。」
「アフガンハウンドはそういう犬種だ。一から躾けるのはプロでも難しい。予めトレーナーに躾けられているアフガンハウンドを最初から飼う人間も多いな。」
「まあ、独立心が高いと手綱はなかなか取らせてくれへんやろな。」
「そうなんだっ。賢過ぎるのもなんだか大変だねっ。」
「クウ。」

分かれば良いのよ、分かれば。
そう言いたげに食堂に向かう4人についてくるマルガレーテの様子に、可憐と忍足はついつい笑ってしまう。本当に跡部によく似合う。

「マルガレーテの躾は誰がやったのっ?跡部君っ?」
「アーン?当然だろ、俺様が飼うんだ。他の誰に躾けられるってんだ?」
「あははっ!そうだよね、跡部君はそうするよねっ!」
「キュウ。」

「・・・・・」
「どないしたん?」

ぼんやりとマルガレーテを見ながら歩く網代。
こういう網代は珍しい。

「・・・ううん。色々、思い出しちゃって。」
「・・・昔の知り合いの話?」
「うん。あ、本人の名誉の為に言っておくけれど、その子は何も悪いわけじゃないのよ?ただ・・・」
「・・・ただ?」

「・・・あの子が居たから、私テニスを辞めちゃった。みたいな所があるのよ、ね。」

本当はもっと続けたかった。でも出来なかった。
それは決してあの子が悪いわけじゃないけれど、あの子が居なければ自分は今でもコートに立っていたかもしれない。

「・・・さ!ここから先の話はまだシークレットよ?解放するには、レベルが足りません。」
「さよか。」
「む。自分で言わないって言っておいてなんだけれど、そんな興味なさそうにされると、それはそれで腹が立つわね。」
「別に興味ないわけやあらへんけど、そんな顔してる女の子にズケズケ切り込んでいかれへんやろ?」
「あら、紳士。」
「おおきに。」

「おい、お前らはいつまで喋ってるんだ?もう着いたぞ。」
「マルガレーテも一緒にご飯食べようっ!」
「ワン。」

さあ、今日のランチは高級フレンチである。