ポキポキポキ。
ポキポキポキ。
紀伊梨の家で昼食にありつく中、スマホの通知音が鳴る。
「可憐ちゃんですか?」
「うん!えーと・・・おおおお!凄いすごーい!可憐たん達、今日はべ様の家でフレンチだってー!ほらほら、凄いよ凄いよー!」
「わあ、凄い・・・やっぱり本格的ですね!」
「こんななんでもない日に昼からフレンチかよw」
「肩凝りそう。」
「凄いね、レストラン以上だよ。」
「確かに洒落ているが・・・これで足りるものか?」
「コース料理は少なく見えて、デザートまで食べると案外満腹になる。まあ自宅なのだし、追加は言えば出てくるのだろう。」
「見ても何の料理なんだか良くわからねえ・・・」
「まあ美味い事は保証されとるし、材料が分からなくても良いんじゃろう、こういうのは。」
「ですが、純粋に興味はありますね。どういった味の一品なのか、食べてみたいとは思います。」
「やっぱ、食べてなんぼだからな。飯って見るもんじゃねえし・・・黒崎?なんだよ、人の事じっと見て。」
「いやあ、ちょっと感心しててw良く喋りながら食えるなw」
器用なもので、丸井は喋っていても絶対に食べる手を止めない。
ぼうっとしていたらどんどん減っていく大皿の中身に、棗までもがちょっと危機感を覚えている。
「前から思ってたんだけど、あんたもうちょっとゆっくり味わって食べれば。」
「そーだよー!ブンブンと食べてると凄い慌てちゃうんだよ!」
「味わってるっての!美味いから箸が進むんだよ。」
「箸が進んでるってレベルじゃないけどw」
「なあ、春日・・・」
「はい?」
「俺が言うのも変と言えば変だけど、こう・・・良いのか?何か空しくならないか?」
「?空しく・・・?」
「ま、時間をかけて作っても食われるのは一瞬じゃからの。」
「ああ、そうだね。作っても作っても・・・みたいな疲労感を覚えてもおかしくないとは思うよ。」
「いえ、そんな!私、こう、わーっと食べてもらえるの好きですよ?食べたくなさそうな顔でだらだら食べられるより、よっぽど良いです。」
「それはそうかもしれませんが・・・」
「そんな感謝の心のない奴には食わさずとも構わん!」
「落ち着け真田、ものの例えだ。」
それこそ紫希は、父の真が結構ガツガツ食べる方なのである。
お仕事お疲れ様お父さん、今晩何が良い?と母が聞けばスペアリブ!とかカツカレー!とか角煮丼!とか注文して、ガーっと掻き込んで、あーっ!食べた食べた、ご馳走様!やっぱり雪乃のご飯は世界一だね!みたいなタイプ。
兄も結構嫌いなご飯だと箸が遅い。
だから紫希としては、箸が早い分には全然構わない。遅いと美味しくないのかなと思って怖いから。
「そういうもんなの?」
「ううん、逆にゆっくり食べられる方が居た堪れなくないですか?こう、身の置き所がないというか、品定めされてる感じがして・・・」
「・・・・・・」
そうかな、と思い。
その直後にそうかも、と思う千百合。
もし例えば自分が幸村に手料理を振る舞うとして、殊更ゆっくり食べられたらどうだ。
いくら美味しいとか味わいたいからとか言われても、良いからさっさと食い終われと思わないか。
いや、思うと思う。多分思う。恥ずかしいしまずいのかなとか思って不安だし。
そうだ、大体ゼリーもそうだった。
ゆっくりゆっくり嬉しそうに食べやがって、もう喜んでるのは十分わかったからさっさと食べ終えてくれよと食べられてる最中何度思ったかしれない。
「いやでも、それにしても早過ぎない。」
「言っておくけどな、俺だってそういつもいつも早食いになってるわけじゃねえからな?ゆっくり食べる時だってあるんだよ。」
「それはいつだ?」
「食べてたい時。」
「うにゅ?」
「ほら、あるだろい?こう、ずっと何か食べてたい時って。」
「ただの食いしん坊じゃねえかw」
「違うっての!なんつうかな、こう・・・」
「ああ、でも俺もそういう時があるよ。」
「初耳だぞ。お前はどちらかというと、小食な方だと思っていたが。」
「ううん、違うんだ。足りないから食べ続けたいとか、そういうわけじゃないんだよ。どう言えばいいかな、時間が惜しいと言うか・・・例えば、デートの時なんか。」
千百合は飲んでいた味噌汁がうっかり気管に入りそうになるのを感じた。
「ランチの後に今日は解散、みたいなスケジュールの時、どうしてもゆっくり食べたくなってしまうんだよ。食べ終えたら店を出なくちゃいけないし、店を出たらその日のデートはもう終わりだし。」
「ああ、成程。食事そのものというより、食事をしているその状況を保持したいということですね。」
「その場の空気も食事の内っちゅう事かの。」
「ほじ?ほじってなーに?」
「保ち続けるということだ。」
「たも・・・?」
「分からなかったか。」
「ええと、もっと分かりやすく言うと、そのままにしておくとかそのまま続けるという風な意味合いの言葉です。」
「そのまま・・・あ!そっか、千百合っちとご飯を食べてて、そのままずっと一緒に食べていられたら良いのにって事ですな!オッケーオッケー!わかったお!」
「五十嵐・・・」
「紀伊梨、お前、本気でお前の分のデザート私が食べてやろうか。」
「ちょっと待って、なんでよー!」
「此奴に譲るくらいなら俺にくれよ。」
「それも嫌だ、あんたらにやるくらいなら兄貴に横流しした方が何倍もマシ。」
「「そこまで!?」」
なんでこんな話になってしまったのだろう。全く、とんだ藪蛇だ。
というか、最近藪蛇多くないか。もう会話を放棄してやろうか。いや、駄目だ。自分が放棄しても意味ないんだ、幸村の口を塞がないと。
「藪蛇ですなあwちょっと同情するぞ、妹よーーーっとおお!?」
「ちっ。」
「お前、フォークは止めろよ!マジで刺さったらどうするんだ、馬鹿!」
「ええと、ええと、えええ・・・ま、丸井君!」
「ん?」
「丸井君も、そういう時があるんですよね!どんな時ですか?」
千百合の心の平穏のために、どうにかして話題を逸らそうと必死になる紫希。
何でも良いから何か千百合や幸村と関係ない話を広げてくれ、と内心でお願いしながら会話を振る。
「ブンブンもやっぱり彼女とデートする時ー?」
「いや別にそうとも限らねえし、そもそも今彼女居ねえし。最近だと・・・あ。春日と家庭科室でお茶した時とか。」
「え、」
藪蛇二発目だわwと棗は実に遠慮なく笑いながら言う。
「え、ええと、えと、光栄、です・・・」
「いつの間にそんな事してたのw俺全然知らないんですけどw」
「えーーー!ずるーい!紀伊梨ちゃんも呼んでよー!」
「お前どっちにしろ補修だっただろい。柳生まで巻き込んで。」
「ああ、あの時でしたか。その節はご馳走様でした、とても美味しかったですよ。」
「え、いつ!?いつ!?」
「6月ですよ、五十嵐さん。雨の日です、コンビニから戻ってきたらクッキーの袋が置いてあったではありませんか。」
「・・・・・あー!はいはい!思い出したー!」
「つくづく手の早い奴じゃのう。」
「あの、本人的には普通なんだあれは・・・」
「はあああ・・・・」
「まあ落ち着け。」
「それ以前に、お前は何をさっきから苛ついている。仲が良いのならそれに越したことはないだろう。」
「あるから苛ついてるんだよ。」
「まあまあ。そう目くじら立てなくても。」
「精市は逆になんでそう落ち着いてんの。苛々しろとまでは言わないけど、気にならないの。」
「それは、俺は気にする理由が特にないからね。」
「紫希側にしわ寄せが来んのよ。」
「大丈夫だよ。千百合は丸井が春日を振り回してるように思ってるんだろうし、それは事実だけど、春日もあれでいてなかなか丸井を振り回してるんだから。一方的に割を食ったりはしないさ。」
とはいえ、これで納得しろというのは難しいと幸村も思っている。
見かけ上、どうしても丸井の方が行動が派手なので。
「でもさ!でもさ!じゃあブンブン、もしあの日紀伊梨ちゃんが補修じゃなかったら紀伊梨ちゃんも誘ってくれた?」
「いや、それとこれとは別だけど。」
「ほらーーーー!もー!ブンブンそんなんばっかりじゃんか!紀伊梨ちゃんだって一緒にお呼ばれした・・・あ!」
紀伊梨の目がキラン!と輝いた。
「そーそー、言うの忘れてたー!ねーねー、夏になったらさ!皆でお泊り会しよーよ、お泊り会!おっとまーり会♪おっとまーり会♪」
「そういえばお前のやりたい事リストにそれあったなw」
「2日間空けろという事ですか?」
「良いじゃーん!紀伊梨ちゃん達テニス部じゃないんだから、合宿とかにはついていけないんですお!だからお泊り会やるのー!」
「五十嵐。」
「んお?」
「気の毒だから言いにくいんだけれど、今年のスケジュールで2日続けて部活休みのタイミングは無いよ。」
「え”」
紀伊梨の表情が一気に固まる。
「?無くはなかっただろう、幾度かあった筈だ。柳、そうではなかったか?」
「ああ。全国前は流石に難しいが、その後なら休みが入る予定だが。」
「え!あるの!?」
「あるよ、全国の直後にね。つまり、お盆の直後だけれど。」
「・・・ああ。駄目じゃん。」
「そうだ、駄目だわw」
「え、なんで!?」
「紀伊梨ちゃん、紀伊梨ちゃんのお家って、いつもそのタイミングでセーシェルでは・・・」
「・・・・あーーーー!」
そうだった。そうだった。そうだった。綺麗に忘れてた。
自分は毎年、その辺の日程でセーシェルに旅立つのだ。
「えー!どーしよどーしよ、紀伊梨ちゃんだけ残って・・・あーでもセーシェルも行きたいー!でもお泊り会・・・でもセーシェルー!」
「セーシェルとお泊り会って比べて迷うもんなのか・・・」
「ま、普段から遊ぶことに関しては貪欲だからな彼奴。」
「まあこれで決まりじゃろ。お泊り会はお盆の直後、五十嵐抜きでやるっちゅうことで「なんでそーなるのよーーー!そういうの止めよーよ、仲間はずれ良くないよー!」
「でも紀伊梨以外は皆いけそうじゃない?」
「まあ、そこを無視すれば解決しそうではあるね。」
「じゃあそれで一度組んでみよっかw皆、又空けられるか分かったら俺か幸村にでも「やだーーー!紀伊梨ちゃんの事置いていかないでー!」
「冗談です、冗談ですよ!ね、皆、冗談ですよね!紀伊梨ちゃん抜きでなんてやりませんよ、紀伊梨ちゃんが居てくれなくっちゃ寂しいですから。」
「ううう・・・あーーーん!紫希ぴょん、皆が意地悪するおー!紀伊梨ちゃんの味方は紫希ぴょんだけだおー!」
「おやおや。少々苛めすぎましたか。」
「しかし、実際どうする。」
「まあ、現実的な事を考えるのであれば夏休み中にというのを端から諦めるべきだな。秋の方が部としてはまとまった休みが増える。」
一応、テニスにもオフシーズンというものはある。
多くのスポーツがそうであるように、テニスも秋・冬は実戦練習よりも筋トレに重きを置く練習メニューになる。
筋肉は原則使ったら同じだけ休まさなければいけないので、自然強制休みが増えるのだ。
「成程。確かに、夏に行わねばならん理由は特にないな。」
「今年はシルバーウィークもあるしの。」
「シルバー・・・?ああ、そうか。日本は春の連休をGWって呼んでるんだったな。」
「ほら、解決策が見えたぞw良かったなw」
「うん!やったー!秋にお泊り会だー!そうそう、そんでそんで!夜は紫希ぴょんと千百合っちと3人でパジャマパーティーしよーね!」
「え、いやだ。」
「なんで!?」
「面倒。後、誰より先に紀伊梨が寝ると思う。」
「お昼寝します!」
「赤ちゃんかw」
「パジャマ?何それ?」
「パジャマパーティーです。寝る時間に皆でパジャマで集まって、こう・・・お茶をしながら話したりして夜更かしを楽しむんです。」
「へえ。何か女子の趣味って感じだな。」
「実際その通りだ。パジャマパーティーというのは基本的に十代の女子が楽しむものとされているからな。」
「お茶を飲みながらお喋りっていう部分が、いかにも女の子らしいよね。」
「確かに、男子では夜更かしするにしてもお茶という発想にはなかなかなりませんね。」
「そうなんですか?」
「まあ、多くは映画を見たりゲームをしたりになると思うよ。」
「そうだな。会話に花を咲かせるという風にはなかなかならない。」
「お茶ってことは紅茶とかコーヒーとか、お茶請けにクッキーとかそんな感じなんだろい?男だとコーラとサイダーと、あとポテチみたくなっちまうけど。」
「ああ、確かに男の子はそうかもしれません・・・」
「あ、それも良いなー!お茶とクッキーと恋バナもセットも可愛いけど、コーラとポテチとス/マ/ブ/ラで朝まで大乱闘も楽しいよねー!」
「お前さんはそういう所がいまいち美少女になりきれんのじゃろうな。」
「私どっちもしないで寝てたいんだけど。」
「うむ。夜更かしは体に良いものではない。」
「まあまあ、息抜きだ。偶の事なんだし、良いんじゃないか?」
「というか妹はあれだろwパジャマパーティーになると分の悪い話題が出るから嫌なんだr、いでーっ!脛止めろ本気で痛いから・・・弁慶の泣き所・・・・」
「弁慶なんてそんな良いものじゃないじゃん、お前。」
パジャマパーティーって言ったら恋バナだよね、と紀伊梨の言う事は正に定番だが、千百合的には是非ご遠慮願いたい話題。
「えー?千百合っちコイバナ嫌ー?」
「嫌に決まってるだろおたんこなす。スマブラコースの方がまだマシよ。」
「俺逆にスマブラやりたくないんですけどw対戦系怖いもん、協力して進める奴にしよーよw」
「おい、スマブラ?とはなんだ?」
「テレビゲームの略称だ。正式名称は、大/乱/闘ス/マ/ッシ/ュブ/ラ/ザ/ーズという。」
「五十嵐が持っているんだ、格闘型の対戦ゲームだよ。自分のキャラクターを操作して、相手のキャラクターと戦うんだ。4人まで同時にプレイ出来るから、1対3だね。」
「しかし、黒崎君が乗らないとは意外ですね。」
「確かにな。黒崎なら、こういうのは乗り気だと思うんだが・・・」
「お前らは幸村とスマブラする怖さを知らんからw」
「ああ・・・」
「そちらでしたか・・・」
別にスマブラに限った話じゃない。
幸村は対戦ゲームは大体勝つ。
「いやだな、ビギナーズラックだよ。」
「絶対違うわw」
「他のゲームでも大体勝つじゃない。今まで色んなのやったけどさ。」
「しかし、スマブラで持ち主が勝てんかったら大概どのゲームでも勝てんじゃろ。」
「まあなwぷよぷよとかパネポンとかパズル系は頭良いやつのが有利だしw」
「桃鉄とかマリパみたいなのも運味方につけてる奴が有利だしね。」
「今度は勝つもーん!今までやったことないやつ・・・あ!ソニックレーシングしない?カービィのエアライドでも良いよ!」
「もういい休めwこれ以上黒星を増やすなw」
「・・・ふふふっ。」
そろそろ尽きてきたお茶を継ぎ足すべく、一人コンロお湯を沸かしながら、紫希はうきうき気分で笑った。
楽しいことの準備の話は、また格別に楽しいものだ。
ただ、コイバナというのは確かに偶にやる分には楽しいのだが、不公平なところが少し引っかかる。現状恋人が居るのが千百合だけなので、どうしても話題が偏るのだ。
それに折角テニス部の皆が居るのだから、それこそゲームの方が全員参加できて良いのかもしれない。ポテチとコーラで。
「・・・お腹はコーラでいっぱい、朝まで聞くんだAC/DC、」
「なんて?」
「・・・・!」
心臓が止まるかと思った。
「ま、丸井君どうして・・・」
「え、お茶。届かねえんじゃないかと思って。」
丸井が指さす先には、ちょっと高い戸棚に置いてある茶葉。
そうだった、確か一度目に沸かして貰った時は棗に取って貰ったんだった。
いや、有り難いんだけどそれよりも。
「ほらよ。」
「あ、有難うございます・・・あの。」
「ん?」
「・・・聞いてました?」
「ああ、歌ってたの?」
やっぱりか。
ああ恥ずかしい、顔が熱い。
「聞かなかった事にしてください・・・」
「なんで?」
「恥ずかしいからです!こんな気の抜けた所・・・」
「ははは!別に良いだろい、気張るような場面でもねえのに。」
「そうなんですけど・・・」
「で?なんて?朝まで聞くんだ、の後なんて言った?」
「あうう・・・AC/DCです。」
「エーシ?」
「AC/DC、です。オーストラリアのロックバンドです。今の曲はフジファブリックのTEENAGERという曲なんですけれど。」
「ああ!朝まで聞くんだAC/DC、って言ってんのか。」
「はい。タイトルの通り十代の勢いというか、言葉にしようのないエネルギーのようなものを歌った歌なので。どっちかというと十代と言いつつ高校生辺りのイメージだと思うんですけれど、なんだかこう・・・目に浮かびませんか?コーラを沢山飲んで、徹夜でロックを聞いて・・・」
「お前はしなさそうだけどな。」
「う・・・で、でも、夜にこっそり家から抜け出すくらいは・・・」
「お!歌詞のそいつ、夜遊びすんの?」
「夜遊び・・・そうですね、でも不良っぽい感じじゃないんです。どっちかというと楽しそうで、悪戯好きみたいな感じで・・・夜には希望がいっぱい、こっそり家から抜け出そう、って言うんです。」
「へえ・・・」
「その後がさっきの部分で、お腹はコーラでいっぱい、朝まで聞くんだAC/DC、です。」
「その後は?」
「ええと・・・確か、あ!それでもいつも物足りない、とにかく君に触れられない、です。」
頭に浮かぶ、一人の少年。
彼は正にお年頃というやつで、じっとしていられない衝動を抱えて、悪戯を決行する。
大人にばれると怒られる。夜に黙って外出したり。ジュースをたらふく飲んだり、寝ないで音楽を聴いたり。
そういうのがドキドキして、なんだかいっぱしの大人になったようで楽しくて。
でも、どれだけ好きな事をしていても、満足しきる事は出来ない。
あの子が今、隣に居ないから。
「・・・何か、分かる気もすんな。」
「ふふっ!そうですよね。私も実際自分ではしませんけれど、そういうのってわくわくするんだろうな、っていうそういう気持ちは聞いてるだけで分かるような、」
「おい、お前らはいつまでここでお喋りしてるんだw」
ハッと意識が引き戻された。
いつの間にか棗が真後ろまで来ていた。それより、ああもう沸騰してる。
「ご、ごめんなさい!すいません、すぐやりますから、」
「いや、お茶早くって言いたいわけじゃなくてねw話すのならあっちで座って話したらって事よw」
「あっち行ったら歌って貰えねえじゃん?」
「こっちでも歌いません!」
「なんだ、録音でもないのに歌ってたのw珍しいw」
「止めてください、もうしません、絶対もうしませんから・・・!」
「そうも言ってられんぞwほらほら、人前に慣れる練習だ、練習w」
その棗の言葉に。す、と紫希の表情が陰る。
「・・・あれ、紫希?」
「おい、どうしたんだよ?」
「あ、いえ!なんでもないです、なんでも・・・」
「「?」」
そうだ、練習。
練習しないと。
遊んでる暇はない。
練習、しない、と。