「よしじゃあ次行こうwえーと?」
「ほら、ナポリタン。」
「ナポリタンだってwじゃ、最初はグーw」
「「じゃーんけーん・・・・ぽん!」」
「おっしゃあ!」
「あーーーーん!もー!負けたー!また負けたー!」
「ふふっ!白熱してるね、良かったじゃないか春日。」
「ええ、作った側としては嬉しいんですけど・・・」
もうそろそろ昼食も終わり。
そろそろお腹が落ち着いてきた所で始まるのは、誰かこの大皿ちょっと残ってるの浚ってー。という話。
よく遠慮の塊と名付けられるこの残りのおかず達を、丸井と紀伊梨は一切の遠慮なく要求し、勝負し、そして平らげ。
「よう食えるの。」
「ここまでくると感心しますね。」
「丸井は男児故に分からなくもないが、五十嵐はあの細い体のどこに入っているのだ?」
「代謝が良いのだろう。運動部ではないが、それでも五十嵐の普段の運動量はなかなかのものだ。」
「それを差し引いても食べすぎじゃないか・・・?」
もしアイドルになれなくても、美人大食い芸人的な触れ込みでワンチャンいけそうと思えてしまう。丸井に張り合う紀伊梨の食欲はそういうレベルだ。
「紀伊梨、そろそろ勝ったら。次で10連敗だけど。」
「紀伊梨ちゃんだって勝ちたいんだってばー!好きで負けてるわけじゃないんだかんねっ!」
「ま、安心しろって♪次も負かしてやるから。」
「いやーーーー!」
「流石に惨いなw次は不戦勝とかでも良いんじゃないのかw」
「ううん・・・あ。春日、デザートは余分があるんだよね?」
「はい。」
「じゃあ、おかずを丸井が全部獲得したら、デザートの余りはじゃんけんしないで五十嵐に譲るって事でどうかな。」
「え!じゃあ次は譲る。」
「えーーーー!それもなんか嫌なんですけどー!何その勝者の手加減みたいな空気ー!そーいう所紀伊梨ちゃんはちょっとどうかと思っーーー」
「あーーーーーん!皆ごめーーーん!ただいま~~~~~~!」
ダイニング中に響き渡る、紀伊梨より若干低い声。
右手に習い事の荷物、左手に振る舞う用のスイカを持った皐月がようやっと帰宅した。
「皆いらっしゃい!寛いでね!ゆっくりしてる?きゃー、食べ終わってる!だよねだよね、こんな時間だもんね!ごめんねおばさん遅くなっちゃって、もう~~~~!」
「おばさん、お帰り。」
「ただいま千百合ちゃん、ごめんねー!お料理完全に皆に任せちゃったよね、本当にごめーん!大変だったでしょー!あっ、棗君そのお皿はそっちじゃなくて・・・っていうかお皿置いといてくれて良いんだよ!不甲斐ないおばさんに、これくらいはさせてよ~!」
「そう言われましてもw」
「おばさん、これだけ取っておきましたので。後で良かったら食べてください。」
「ああん、紫希ちゃんの気遣いが染みるよ~!そうなの、電車で立ち往生しちゃったからおばさんお昼どうしようかと思ってて!」
「おかーさん、その西瓜食べて良いのー?」
「ああそう、スイカ!紀伊梨有難う!忘れてた、スイカ食べよう!おばさん切るから、皆座ってて!」
「ふふっ。五十嵐にそっくりだろう?明るいお母さんで・・・あれ?どうしたんだい皆、黙ってしまって。」
「あ、いや。その・・・」
「思いの外お綺麗で。少々驚いてしまいまして。」
「そういや、モデルだって言ってたっけか。」
美人だ美人だと聞いてはいたが、確かに美人。これはモデルをやってたと言われても普通に頷くレベル。紀伊梨も容姿は良いが、皐月は又別格というか、容姿以上に立ち居振る舞いがモデルのそれなので何倍も綺麗に見えるのだ。
「やだ、皆こんなおばさんに綺麗だなんて、有難う♪えーと。えー・・・」
「ああ彼は、」
「あ、幸村君黙ってて!皆も何にも言わないでね!むむむ・・・」
「え、」
「あ、ちょっとじっとしてて!むむむむむ・・・」
丸井を目の前にぐぐぐと顔を寄せる皐月。
美人の顔が寄ってくると、気まずい上に恥ずかしいのだが。
「・・・・む!丸井君!かな?」
「そうですけど、」
「やったー、当たり♪じゃあこっちの子は柳生君?」
「正解ですよ。」
「きゃー、ビンゴ!じゃあ君は真田君かな?それで君が桑原君?そっちの君が柳君で、こっちが仁王君?」
「おー!おかーさんすごーい!花丸100点!です!」
「やったー!私すごーい!あ、スイカスイカ!本当に皆座っててね!取り分けも何もしなくて良いから!これくらいはおばさんがやるんだから!」
「如何にも五十嵐の母という雰囲気だな。」
「この親にしてこの子供あり、という所だな。見た目も中身も。」
「違うところっちゅうたら、五十嵐と違って知性を感じる点か。」
「まあ、大人だからな。五十嵐も大人になったらあんな風になるんじゃないか?」
「「「・・・・・」」」
なるかな。なれるかな。
いや、微妙なところだぞ実際。
と思ってはいても親の前で流石に言えないけど。
「あー、でも今、皆の事一度で当てられたのは嬉しかったなー♪今度沙知花さん達に自慢しちゃお!今度のお祭り、着付けの時に会うんだし!」
「あ。俺の母は、今回は居ません。」
「えっ?」
「父の仕事に着いていくんです。俺は自分で着られますし、妹にも着せられますから。」
「そうなのっ!?やだ、居らっしゃると思って持ってくお菓子4人分用意しちゃった!これはじゃんけんだなあ・・・」
「む・・・そうか。お前達は皆古い付き合いだったな。」
「そうw俺達の両親皆顔なじみよw」
「母親勢はちょいちょい集まってお茶してるぽいよね。」
「4人とも、仲が良いですから。」
「むーん・・・」
「不満そうだな。どうかしたか。」
「おかーさん達どーしで仲良いのは良いんだけどー!時々なんか恥ずかしーことまで知られてるんだもん!小さい頃おねしょしたこととか、おかーさんのルージュ悪戯してお化けみたいな顔になった事とかさー!」
「ああ、小さい頃の恥系の話か・・・」
「その辺はもうしょうがねえだろい?」
「というか、お前さんは同じことを人にやっとる気がするんじゃが。」
「我々皆、一目で当てられてしまいましたからね。」
紀伊梨は普段どんな風に自分の事をこの母親に話してるんですか。
と聞きたい気もするが、それこそ触れるのが怖い気もする。
「でも、着付けされてた側だったのにもう着付ける側に回るなんて・・・皆こうして段々大人になっていくんだね。なんだかちょっと寂しい・・・って!そうだ、テニス部の皆もお祭り行くんだよね?行くでしょ?」
「はい、その予定です。」
「そっか!あのね、おばさん紀伊梨に見せて貰ってるんだけど、新しい浴衣すっごく可愛いの!紫希ちゃんと千百合ちゃんのもどんなのか知ってるけど、もう3人とも超可愛いからね!とびきり綺麗可愛くなるオーラがすっごいしてるから!男子の皆は期待しててね!」
「お、おばさん・・・・」
「こうなるからおばさんに服の話すんなっつったじゃんか。」
「えー?良いじゃん可愛いのは本当なんだしー!」
「いやでもこれ、振られた方は困るだろw」
この場合、期待してますと言うのは如何にも恥ずかしいし。というか期待ってこの場合一体何やねんと思うし。
かといって期待してませんというのは、親の目の前であまりにも失礼。
そんな中、全く何の気負いもなく堂々と返事が出来るのが一人。
「はい、楽しみにしてます。」
「うんうん!まあ幸村君は千百合ちゃんが新品の浴衣っていうだけで可愛いと思うから、安心して楽しみに出来るよね!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「およよ?どったの皆、黙っちゃってー!」
「紀伊梨ちゃん、」
「おいwつついてやるなwあで!おい、今のは俺は潔白だろ!」
「やかましいわボケ。」
皆ニヤニヤしたいのを必死に堪えているのだ。
流石に今笑うのは可哀想だし、笑った挙句に今度自分に話題の矛先向くのも面倒だし。
「あ、そうそう!今年はおばさん、はりきってヘアメイクもしちゃうから!」
「「え。」」
「おー、やったー!」
「えへへ、頑張っちゃうよ!だから紫希ちゃんも千百合ちゃんも、どういう髪型が良いかおばさんに言っといてくれたら準備するよ!」
「いえ、あの、私は別に、」
「やだ紫希ちゃんったら、相変わらず遠慮深いなあ♪良いんだよー、おばさんこれでも元モデルなんだから!多少難しいヘアアレンジでもやっちゃうよ!ね!皆も紫希ちゃんの夏祭りスタイル楽しみでしょ?」
楽しみでしょ?と言われると。
正直、そんなに前のめりで楽しみなわけじゃないけど。反面、制服と一切変わらんとまで言う気もないけど。
まあ、有体に言えば普通です、としか言いようがないんだけど。
と、各々同時に同じような事を思い。
同時に目線がすっと、同じ方向へ流れる。
「「「「「・・・・」」」」」
「え?何だよお前ら?」
「「「「「いや、別に。」」」」」
少なくとも自分は普通程度にしか楽しみじゃないんだけど、お前はどうなの。
と聞きたいような、返事はもう聞かなくても分かってるような。
「おかーさーん、私も私もー!」
「やってあげるけど、紀伊梨はまず浴衣の時暴れるのをやめなさい!普段と同じ服じゃないんだよ?飛んだり跳ねたりして、すーぐおはしょりぐちゃぐちゃにしたり、アクセ落としてきたりするじゃない!」
「う!だってー!」
「だってじゃありません!もう。元気なのが紀伊梨の良いところだけど、もうちょっと落ち着きがないと駄目だよ?もう中学生になったんだから。」
「・・・・・えー。」
「ダ・メ・で・す。浴衣にソースつけて帰ってくるなとは言わないけど、泥をつけて帰ってくるのはそろそろお終い!あ、千百合ちゃん!・・・じゃないや、幸村君。」
「はい?」
「千百合ちゃんの髪型なんだけど、どんなのが良ーい?」
「あの。」
おかしいだろ。質問の矛先がさ。
周りの奴らも笑ってんじゃねえ、張り倒すぞ。
「それ私に聞くやつじゃないんですか。」
「え?だっていつも千百合ちゃん、なんでも良いですって言うから。それなら、幸村君に聞いた方が早いかなーって!」
「・・・・・・」
「あ!もしかして今年は希望があるの!?良いよ良いよ!おばさんやっちゃうよ!」
そう言われると別に希望がないのは確かなのだ。
この辺やっぱり慣れてるというか、お互いに親子ともども長い付き合いなので。
「というかー、皆もどうする?」
「「「「「「「え?」」」」」」」
「男の子だってスタイリングして良いよね!やっちゃう?やっちゃう?良いよ!おばさん男の子だってコーディネート出来ちゃうよ!蓮で慣れっこだからね♪」
「いえ、遠慮します。」
「結構です、お気遣いなく。」
こう言われて誰が乗り気になろうか。
スタイリングそのものはまあやってくれるならと思う者も何人か居るが、女子の友達のお母さんにされたいとは思うまい。
「誰だって断るでしょこの流れはw」
「な~つ~め~君~?そーいう事言っちゃう子は、おばさんが飾り付けちゃうぞ~?」
「後生ですからw」
「あの。お気持ちは有り難いんですが、今回は少し。俺達は部活の後になってしまいますから、着替えるだけでいっぱいいっぱいです。それほど時間は。」
「あ!そっかー、皆はフリーの日じゃないんだもんね・・・大変だね、本当に。有難う、忙しいのに一緒に遊んでくれて。」
大体こういう遊び関連の事はわが子か棗辺りが言い出して人を巻き込むということを、皐月は長年の経験から見透かしている。
それがリフレッシュになるから良いことでもあるけれど、実際ばたばたしてしまうのはテニス部の面々だからやっぱり申し訳ないなと思ってしまうのも親心。
それすらも見透かしたように幸村は優しく微笑む。
「良いんです、有り難いですから。付き合いが良いとはいえない俺達を、こうして遊びに連れ出してくれてるんです。」
本心且つ、そつのない返し。
親じゃないけど、本当に大人っぽくなって・・・と皐月はなんだか感慨深い。
「ですから。」
「・・・ですから?」
「棗は是非飾ってやって下さい。一日空いてると言ってたんで。」
「え”」
にーっこり笑ってポン、と肩を叩かれる棗。
「きゃーっ!やった!棗君も目を離したらすーぐ逃げちゃうから、困ってたのー!」
「え、ちょっと、」
「良かったじゃん?かっこよくして貰えよ♪」
「ブンブン君!?」
「いやあ、羨ましいの。」
「楽しみですねえ。」
「礼はきちんと言うのだぞ、黒崎棗。」
「お、おい、」
「棗君・・・」
「良いから良いから。ほっとこほっとこ。」
「やったー!なっちんも一緒にお洒落しよー!」
「ちょっと、誰か」
「誰か助けてとお前は言うが、日頃の行いだ。甘んじて受け入れろ。」
「そんな!」
もう、言ってる間に祭りの日が近づいてくる。
夏本番は、もうすぐそこ。