千百合は、棗と共に少年と移動した。
紫希、紀伊梨、千石は「良いから行ってろ」と言われ立海の試合コートに向かっている。
多分今頃、ダブルスが始まりだす頃だろう。
「俺は平川貴也。城成湘南の2年でS3だ。」
「ああそ。で?」
「もう単刀直入に言うけどな。
・・・先生から、幸村精市の引き抜き手伝いを頼まれてるだろ。断ってくれ。」
これはちょっと予想外。
同時に少し見開いた千百合と棗の目を見て、平川は流石にそっくりだなと思った。
「・・・は?」
「えw何?お前は先生の方針に背こうとしてんの?」
「そうだよ。言うなよな。」
いや、言うとか言わないとかじゃなくてさ。
「もうちょっと解るように言えよ。呼び出しといて。」
「分かってるよ。・・・先生から聞いてるか、まあ聞いてなくても一緒か。うちはスカウトで入部してくる奴が多いんだよ。想像つくだろ。」
「まあそうでしょうねw」
「だからレギュラーの入れ替えが激しい。そうでなくてもうちは入れ替えが頻繁なんだ、コーディネーションが終わった奴から入れられていくからな。」
「「そのコーディネーションってなんだよ。」」
「それは聞いてないのか・・・まあ良いや。ザックリ言うと選手のスケジュールから能力から何から、全部個別でシステム管理してると思ってくれ。取りあえず、うちはレギュラーに入れたからって、安穏としてられないんだよ。厳密にいえばそれはどこの学校だろうとそうだろうけど、うちは特にそうなんだ。」
「はあ。」
「で、話を戻すけど幸村精市だ。もしもの話、お前と幸村が本当にうちに来たとしたら、まず間違いなくS1でレギュラーに入る。コーディネーションがもし終わってなくても、入ると俺は思ってる。ビデオで試合は見たけど、幸村はそれだけの逸材だ。そして俺はS3。どういう事かわかんだろ?」
順当に考えて、幸村がもしS1に入ったとしたら元々S1だった選手はS2になる。そしてS2だった選手はS3になり、S3の選手は・・・・
「・・・あんた、あぶれんの。」
「そう。」
平川は事もなげに言った。
「え、待ってwお前自分がレギュラーで居たいから、幸村来させんなって言ってるわけw」
「だからそうだっての。」
「幾らなんでもそれは情けなくないかw」
「情けなくない。」
「情けなくないんだ?」
「俺は、俺が強くなれればどうでもいーんだよ。城成が優勝しようが敗退しようが知ったこっちゃねえ。」
もし幸村が城成に来れば、学校にとっては大きな+になる。
だが、平川個人にとってはそうではない。
レギュラーの座を明け渡せばその分だけ大試合の経験は減り、自分の弱体化に繋がる。
「マジでw意外に忠誠心無いw」
「そっちに居る奴ら、皆あの教師の肝いりかと思ってたんだけど。」
「そもそもあっちが悪いんだ。強くしてやる、ってスカウトしたくせに下を育てる気がない。素質のある選手に自分のコーディネーション理論を合わせてみて、結果的に強くなった順に並べて上から取っていく、それだけだ。それで大会を勝ち抜けなかったら、選手側の素質が足りないと言わんばかりにまたスカウトに走り回んだよ。」
勿論、まさか面と向かって華村もそうとは言わない。
でも、言われなくても伝わってしまうことがある。
「・・・・」
「・・・おいおい、マジか。」
「俺は嘘は言わねえよ。俺に得もねえし。まあただ、正直言って幸村が同じ目に遭うかって言われるとそれはない可能性のが高い。彼奴はそれこそ肝いり中の肝いりだ。コーディネーションが合おうと合うまいと、レギュラーの座は揺らがないだろうぜ。」
「・・・あんた、正直ね。」
「隠してどうすんだ。どっちにしろ、またお前は先生と接触すんのに。」
「ふうん。」
千百合は段々話を聞く気になっていた。
最初は何だこいつと思ったが、この平川という奴、なかなか良い。
分かりやすいというか、話に筋が通っている。目的にブレがないから話が分かりやすい。下手に日和る人間より、平川のような性格の方が千百合は好きだった。
その筋が結構自己中なのは置いといて。
「で。話を戻すけど、俺は幸村に来られたら都合が悪いんだ。だからお前から先生の方に断ってくれ。」
「嫌って言ったら?」
「・・・まあどうしようもねえよ。強制は出来ねえからな。」
「ふうん。」
さて。
千百合の選べる選択肢は幾つかあるが。
「・・・でもま、断るわ。」
「え!?」
「なんでお前が驚いてんだよ。」
「いや、驚くわ!聞いたでしょ、こんな環境が幸村の+になると思うかよ!」
「さあね。」
「さあってお前ね!」
それを今日、プレゼンして貰いにきたのだ。
全ては今日。
「・・・それは、先生に断らないって事か?」
「そういうわけでもないよ。普通に断るパターンあるし。ただ、あんたのこの話聞いてこれを理由に断ることはないって感じ。あんたにとってどうかと、精市にとってどうかは関係ないから。」
「ああ、成程な。」
と言う事は、別にオッケーすると決まったわけでもないのだ。
よしよし。
(・・・こんな事でホッとする、か。)
「ちっ。」
「はあ?」
「あ、悪い。お前らじゃねえよ。なんつうか、いつから俺こんなんになっちまったんだろうって思っただけで。」
「話す限り、おたくさんは割と最初からこんなような気もしますけどw」
「うっせえ!」
たく、と言う平川の顔は幾分すっきりしている。
「話はこれで終わりだ。悪かったな、時間取らせて。」
「全くだわ、こんなくそ遠いところに呼び出しといて。今から第1コートじゃS3に間に合うかどうか微妙じゃん。」
「まだ始まらねえだろ。時間的にはD1が始まりだすかどうかくらいだぞ。」
「うちはいつも大体時間かからないんだよ。」
「結局今日もダッシュかよw」
「そうだとしても選手じゃねーんだし良いだろ。」
「「良くないわ。」」
何言ってんの此奴、な目で見られて、平川はちょっと。
立海の選手が羨ましくなった。