First region competition:Lunch time - 1/5



立海はお強い。
圧倒的にお強いので試合がちゃっちゃか終わる傾向にあるが、立海レベルとは言わないまでも氷帝も大概試合展開が早い。
なので、本格的に昼食時間へと縺れ込む前に纏まった時間を取ることができた。

「聞いてる奴らも居ると思うが。」

氷帝用のテントの下で跡部が話し始めた。
ここは扇風機もミストもあるのでそこそこ涼しい。

「今日は一人マネージャーから病人が出た。今は榊監督に付き添われて、最寄りの病院に向かってる。症状は熱射病。桐生と居合わせた六角の奴が介抱して、軽症で助かったが。」
「熱射病?日射病だろ?」
「いいや、熱射病だ。倒れた新城は日陰に居た。」
「ああ・・・」

可憐の隣に居た忍足が溜息交じりに嘆いた。
大体どうしてこうなったか予想はつくというもの。

「地区予選でも桐生は事故で怪我をしたが、はっきり言ってこういった暑さ由来の事はそれとは別だ。基本的には事故じゃねえ、自分で十分防げることだ。各自無理はするな。自分で自分に気を配りながら、午後もやっていくぞ。以上、解散。」

跡部が言い終わると、皆は思い思いに騒めき出す。

その中でも特に新城と仲の良い金町は、可憐の所にまっすぐ向かってきた。

「可憐!真理恵は・・・」
「あかり、大丈夫っ!大丈夫だからねっ!」
「可憐ちゃん。」
「茉奈花ちゃんっ!」

網代は真剣な顔である。網代は特に、単純に心配な気持ちとは別に、マネージャー達を纏める責任も抱いている。

「お疲れさま。大変だったみたいね。」
「ううんっ!私は別に・・・私より黒羽君の方がテキパキ動いてくれたし、やっぱり一番疲れてるのは真理恵だからっ。」
「可憐ちゃんは大丈夫なの?」
「うんっ!私は忍足君から気を付けろって言われてたから、それが良かったんだと思う・・・」

新城だって帽子は被ってたし、飲み物だって飲んでた。
でもやっぱり、ちょっとくどいくらいに注意を受けて丁度良いくらいなのだ。特にこんな、暑いだけでなく蒸す日には。

「うーん、やっぱりそうね・・・侑士君!ちょっと!」
「なんや。」
「注意喚起のことで、ちょっとね。まだ7月だっていうのにこんなじゃあ、8月はもっと悲惨なことになるわ。意識改革を徹底しないと。手伝って。」
「ああ、ええで。それはせなあかん事やし。」
「そうだよね・・・真理恵ってば、暑くなるのはこれからだっていうのに。皆に迷惑かけて、あのバカ!」
「あはは、まあまあ・・・あ!そうだ、黒羽君に改めてお礼を、」
「もう居らへんで。」
「えっ!?」
「何処へ行ったの?」
「いや、何処へいうか単純に帰ってん。さっきの試合で六角は負けたさかい。俺もお礼言おう思うて探してんけど、もう帰りましたよ言われたわ。」
「そ、そうなんだ・・・」

さっぱりした性格だとは思っていたが、去り際までさっぱりしている。

「どうしようっ、またお礼に行った方が良いかなあっ?」
「いや、可憐が行くことないよ。ないよね、茉奈花?迷惑かけたのは真理恵なんだから真理恵が行けば良いんだよ。」
「うーーん、そう、ね。そっちの方が筋が通った話ではあるわね。」
「そ、そうかな?・・・って、あ!真理恵からLINE!」

大丈夫だろうか。
急いでスマホを開くと、ごめんとか、今病院だとか、診察終わってなんとか大丈夫だった、みたいなメッセージがわーっと並んで・・・そして最後に。

「あっ。」
「「「?」」」
「真理恵行くってっ!六角に行って、お礼を言いたいってっ!」
「え・・・マジ?」
「えっ?本当だよ、ほらっ!」

金町がマジ?と言ったのにはわけがある。
仲が良いだけにわかっているのだが、新城は基本的に面倒くさがりなのだ。
だから例え世話になったとしても、自らわざわざ千葉の端っこまで赴いてお礼なんて、そんな殊勝なことを言い出すなんて・・・と金町はどうしても訝しんでしまう。

が、その釈然としない感情は可憐のLINE画面を見た途端あっさり失せた。

「・・・・」
「あれっ?あかり、どうしたのっ?」
「なんでもないっ!」
「えっ!?」
「あのバカ!人が心配してるってのに!損した気分だよ、全く!」
「ええっ!?え、え、ちょっと、」
「あら、なーに?なんて書いてあるの?・・・あら。」

皆で覗き込むLINE画面には新城からのメッセージ。
黒羽君って手作りのお菓子とか喜んでくれるかな!?とある。

「もう隠す気もあらへんな。」
「えっ?何がっ?」
「可憐、気づいてよ!これは真理恵の作戦だよ、作戦!」
「え、なんのっ?」
「うーん、つまり、ね?真理は、今回助けて貰って黒羽君にときめいちゃってるのよ。だからお礼を兼ねてアプローチをかけたいんでしょう、ね。」
「え!?えええ・・・」

そうか。いや、金町じゃないけどマジか。
確かに助けて貰ったんだからそれをきっかけに好きになっても無理もないといえばないけれど、でもちょっと急すぎやしないか。というか、今倒れたばっかりなのにそんな事考えてる場合じゃないだろ。

「まあでも、大したことなさそういうか、元気な証拠やろか。」
「まあ、ね。真理は逞しいから。」
「逞しい?図太いっていうんだよ、これは。忍足君も茉奈花も良い風に言い過ぎ!」
「う、ううん・・・」

まさかこうなるとは思っていなかった。
今にして思えば、事務所に居た時も顔が赤かったっけ。自分って鈍いんだろうか、なんてちょっと落ち込んでしまう。

「話が戻るけれど、それこそ皆が真理みたく逞しいわけじゃないから。今日の”お客様”達にも、暑さには十分注意するよう言っておかないと、ね。」
「「お客様?」」
「幼稚舎から見学の生徒が来んねんて。」
「そうなのっ!?」
「あ、とは言っても私達は殆ど何もしなくて良いのよ?ただ、最低限の事だけはしてあげたいっていうか、ほら。ね?」
「折角来たのに、ギャラリーに邪魔されていっこも見えへんかったまま終わりました、とか可哀想やん?」
「「ああ・・・」」

可憐と金町がちら、と周囲を伺うと、自校他校問わず跡部目当てのギャラリーが大勢こっちを伺っている。

「いっぱいだねっ。都大会の頃はこうでもなかったのになあ・・・」
「まあしょうがない事よ、ね。有名税ってやつだわ。」
「あんまり嬉しないな。」
「そうかな?私は嬉しいよ?もしかしたら、雑誌にとかに大きく取り上げられたりするかもしれないし!写真とかにちらっと姿が写って、それが載っちゃったりして・・・ふふ♪」
「あかり・・・」
「あら、意外とそうなるかもしれないわよ?今年は各校レベルが高まってるのを感じるし、今年全国で優勝すればそんなつもりはなくても脚光を浴びるでしょう、ね。」
「まあ、目的はそれやなくても副産物としてはついてくるやろうな。」

雑誌に写真とか全国優勝だとか、ついこの間まで全く縁のない事だったのに。
でも今、それに手が届くところまできている。

(どこまで行けるのかな、私達・・・・)

てっぺんまでに決まってるだろ。

王のお声が聞こえた気がした。