「あ、可憐たーん!こっちこっち、こっちだよー!」
今日のお昼は、ずっとやりたかった可憐とビードロズでの5人お昼である。
レジャーシートを寄せて広げて、一足早く準備を終えている4人の所に可憐がようやく合流した。
「皆、お疲れさまっ!」
「いや、こっちの台詞でしょ。」
「可憐ちゃん、お疲れ様です。」
「なんかごめんね、急にw」
「ううんっ!私誘って貰って、すっごく嬉しいよっ!」
「ねーねー、まーちゃんは?やっぱ無理?」
「あ、うん・・・茉奈花ちゃんは跡部君と打ち合わせがあるんだってっ。来たがってたんだけど・・・」
「やっぱり、お忙しいんですね。」
言いながら弁当を広げて、手を合わせて頂きます。
ここは一応木陰を選んでいるので、ちょっとは涼しい。ちょっとだけ。
「いっただきまーす!おにぎりおにぎり!こんな日はおにぎりが美味しいよねー!」
「まあね。塩分欲しいよね。」
「塩分で思い出したけど、桐生ちゃんさっき大丈夫だったの?」
「えっ?」
「さっき、すれ違った人がお話していたのが聞こえてきたんです。氷帝で熱中症のトラブルがあったらしいって・・・」
「あっ!そうそう、そうなのっ!」
氷帝のトラブルは口伝いに人から人へ、学校から学校へと渡っていった。
特にこういう類のトラブルは、他校にとっても決して他人ごとでは済ませられない。
「うちのマネージャーの子が熱射病で倒れちゃってっ!一緒に清掃してたんだけど・・・」
「ねっしゃびょー?」
「まあ暑いと倒れるんだって覚えとけば良いよw」
「可憐ちゃんは大丈夫なんですか?」
「うん、私は平気っ!でもその子は結局病院に行かないとって事で、もう先生に付き添われて行ったんだけどっ。」
「まあね。倒れたんだったら病院行くもんだし。」
そもそも熱射病だというのも言うなれば素人判断なのだ。
別に黒羽は医者じゃない。どんなに熱射病の可能性が高くても、病院で「そうですね」と言ってもらうまでは断定は出来ない。
「だから、皆も気を付けてねっ!私寧ろ皆の方が心配だよっ!観戦って同じところでじっと見てるものだしっ!」
「むん!これは、追加のジュースを買ってきた方が良いって事ですな!」
「言っとくけど、オレンジジュースとか駄目だからね。」
「駄目なの!?」
「何のために買いに行くんだよ、ポカリかアクエリにしとけ。」
「棗君も気を付けてくださいね。今日そんなに調子が良くなさそうですから・・・」
「大丈夫だって、大丈夫大丈夫wこれマジでそーいうんじゃないからw」
「ええっ!?棗君体調悪いのっ!?」
「桐生ちゃん、俺の話聞いてるw大丈夫だってばw」
「えー!でもでも、きょーのなっちんなんか静かだお!」
「違うんだって、ほら、あれよw俺はこの後の城成湘南戦に気を揉んでるわけよw」
「城成湘南っ?」
話を知らない可憐は目をぱちくりする。
城成湘南。確か、トーナメント表の記憶に寄ると立海と同じく神奈川から出てきた学校だったと思われる。
ただ。
こう言っちゃなんだけど。
「城成湘南って、そんなに強かったっけっ?確かに弱くはないけど、今年の立海の実力なら負けるかもって程じゃ、」
「いや、俺も勝つとは思ってるのよ勝つとはねwただね、勝ったから良いってもんじゃない問題が・・・あるよね?」
「まあ。」
「えー!勝ったらこの話お終いじゃないのー!?」
「えっ!?何っ!?何っ!?」
「実は今、幸村君がスカウトされてるんです・・・」
「そーそー!そんでさ、そんでさ、ゆっきーが来ないからって今度は千百合っちをつれてこーとしてるんですよ!」
「えええっ!?」
「あ、危ないです!」
「ああっ!有難う紫希ちゃん・・・」
びっくりし過ぎて膝で水筒を倒しそうになる可憐。
スカウトだと。
そういうことも偶にはあると噂には聞いていたが、まさか本当にあるとは。しかも千百合まで。
「でもどうして千百合ちゃんが・・・」
「細かく言うと私が、って言うより私に説得して欲しいんだってさ。城成湘南は行く価値のある学校だから私と一緒に転校しよ、って言わせたいわけよ。」
「ううん・・・そう、なのっ?なんだかえらく遠回りっていうか・・・」
「多分、もう正面からは頼めないと感じたんだと思います。こういう間接的な手しか打てないんじゃないでしょうか。」
「ゆっきーって駄目な時は駄目ー!ってめちゃんこはっきり言うもんねー。」
「彼奴も大概はっきりした性格してるからなあw最初に呼び出しされた時にきっちり袖にしたんでしょw」
「そうなんだ・・・・」
つくづく幸村精市という男は異次元的だと思う。
あの王者立海において、1年生にして3年生を押しのけてS1の座に居るだけでも恐ろしい実力が伺えるのに、こうして方々からそれを裏付けるようなエピソードが次々出てくる。
しかしこう言っちゃなんだが。
「私ねっ、この間神奈川にお買い物に来た時に幸村君とバッタリ会ったんだけどっ。」
「あれ、そうだったんだ。」
「うんっ!でも、初めてちゃんとお話ししたけど、幸村君ってそのう・・・そんなに強そう、って空気じゃないよねっ?あっ!弱いって言ってるんじゃなくて、そのう、雰囲気がっていうかっ!」
可憐にとってテニスの強いーーー普通以上、規格外に強い者と言うと、筆頭株は跡部なので、どうしてもそれに引きずられるのだ。強い人というとあんな風に、俺様で堂々としていていかにも強いですオーラを常に纏っているような感じ。
「まあ彼奴普段は物腰柔らかだからなあw」
「ものごし?」
「人と接するときの態度の事です。」
「ほーほー!態度が柔らかい!うん、そーだよねん!怒ると怖いけどー、でもでも、テニスしてる時も怒ってるわけじゃないし!」
「そうですね。幸村君は大体いつもとっても優しいですし、怒ると怖いといってもそもそも滅多に怒ったりしませんし。」
「だよねっ!私もそんな感じがしたなあっ!」
「あ、でも。」
千百合がアスパラのベーコン巻きをつつきながら言った。
「敵に対して容赦はないかも。」
「あー確かにねw彼奴自分の邪魔する奴はさっさとどいて貰った方が良いでしょって感覚あるねw」
「ああ、それはそうかもです・・・・」
「そうなのっ!?」
「そーそー!ゆっきーってけっこー負けるの嫌いだよねー。」
「そうなんだ、そんな風に見えないのにっ。」
「まあ、そもそもそんなに何かに負ける事ないから目立たないけど。でも負けず嫌いなのはその通りよ。」
「へえ・・・・」
負けず嫌い。
その言葉の響きと幸村が、可憐はどうしても重ねられない。優しい幸村の一面しか見たことないのだ。
「跡部君も負けず嫌いだし、強い人って負けず嫌いな人多いのかなあっ?」
「まあそりゃあそうなんじゃないのw」
「あ、でも芥川君は強いって聞きましたけど、そういうタイプでもないのでは・・・」
「彼奴はそれこそ例外ってやつじゃない?うちなんか全員纏めて負けず嫌いだし。」
「うんうん!しょーぶの世界はきびしーですなあ!」
実際は、厳しいなんて言葉ではとても済まされない。
それをまだ、5人はーーー可憐でさえも知らないで居た。