First region competition:Semi final round 1 - 1/10


「ええと、アクエリアス・・・・あっ、ありました。」
「紀伊梨ちゃんボタン押したいー!押していい?押して良い?」
「ふふっ!はい、どうぞ。」
「やたー!」

午後試合前。
昼食を食べ終わった4人は可憐と解散し、ちょっと今日は予想より喉が渇いて飲み物心許ないねという話になり。
万が一にも試合を見逃せない千百合と棗は観戦席で待機しつつ、紫希と紀伊梨は飲み物を買い足しに来た。

「何本にするー?2本買って、半分ずっこするー?」
「いえ!一人1本、ちゃんと買いましょう!さっき可憐ちゃんからも熱射病の話を聞きましたし、『大丈夫だろう』っていうのは今日は止めた方が良いと思います。」
「おー!そっかー、そうだよねー!なっちんも今日なんか調子悪そうだしなー!」
「そうですよね。明日はお休みですし、今日何事もなければ良いんですけれど・・・」
「明日は日曜だもんねー!なっちんも偶にはお寝坊すれば良いんだよ・・・っと!4本!お買い物かんりょー!」
「じゃあ、戻りましょうか。」
「うん!」

と言って、2人がさっと振り返ると。
そこの角に、恐らく同じ用事で自販機を目指して居た者の影が。

「あ!」
「あれ?いっちー!いっちーだ!」

「あ・・・・」

郁はすごく微妙な、いろんな感情が綯い交ぜになった顔をした。
そして内心は表情の通り大忙しだった。

しまった、見つかったという気持ち。
でもどこかで見つけて貰えてホッともしていた。

「あの、一条さん。」
「・・・なんだい。」
「いっちー、試合見に来たの?だよねだよね!」
「暇だったからだよ。鈴奈が来いと煩いし。」

嘘である。
確かに林から良ければ来ないかと言われたが、そんなに喧しく言われたわけでもなく、一言さらっと誘われただけ。嫌だと言って来なかったとしても、林は何も言わないだろう。

「今からお昼の試合だお!ねーねー、一緒行こう一緒に!」
「あ・・・紀伊梨ちゃん。良ければ先に行ってて貰えませんか?」
「うお?なんで?」
「ちょっと、一条さんとお話したいことがあるんです。でも、千百合ちゃんと棗君をあんまりお待たせするわけにも行きませんから・・・」
「んー・・・わかった!じゃー紀伊梨ちゃんは紀伊梨ちゃん達の分のジュース持って行けば良いんだよね?」
「ええ、お願いします。ごめんなさい、お任せしてしまいまして。」
「ううん!じゃー紀伊梨ちゃん先に帰ってるね!紫希ぴょんといっちーも早くねー!」
「ふふふっ。はい、急ぎます。」

3人分のアクエリアスを持って立ち去る紀伊梨の背が見えなくなるのを、紫希は待った。

落ち着け。
これは千載一遇のチャンス。

「・・・それで?話とは何だい。」
「ええと、一緒に観戦しませんか?その・・・私と2人で。」

郁にちゃんと観戦してもらうには、それが一番良いと紫希は知っていた。
紀伊梨達には申し訳ないが、郁の件のことは3人も知っているから、きっとわかってくれるだろう。

「別に気を使わなくて良いさ。」
「お一人の方が良いですか?あの、一条さんも皆も一緒に5人でっていうのは止めた方が良いと思うんです。」
「何故?」
「幸村君は千百合ちゃんの事、すぐ見つけますから。」

ええ・・・と零す郁だが、紫希は真剣である。
本当なのだ、これは。
どんなにギャラリーが多くても、幸村はあっという間に千百合がどこに居るか見つけてしまう。

「それに、ちょっと次の試合は千百合ちゃんにとって大事な試合なので。だから、最前列で見るんです。ですから私達と一緒だと、テニス部にあっという間に見つかります。」
「・・・・・・」
「でも、一人で見るより二人で見た方が楽しいと思うので・・・その、同伴者が私では不足もあるかと思うんですけれど・・・」
「ああ、いや。そういうわけじゃない・・・うん、まあ・・・そういう次第なら、僕としては春日さんと2人の方が良いな。」
「本当ですか?」
「ああ。」

(やった・・・!)

しないけど、紫希は内心でそれはもうガッツポーズしていた。

「あ、あの!因みに一条さん、観戦経験の方は・・・って。そういえば、以前お手伝いをされていましたよね、その時に・・・」
「ああ、いや。試合は見ていないよ?」
「えっ?」
「ああそうか、春日さんはマネージャー経験が無いんだったね。あれは意外と試合中の作業も多くて、観戦どころじゃ無いんだよ。まあ頑張れば見られなくもなかったが、そこまでいうほど興味もないし。・・・いや、別に今興味があるわけでもないんだが。」
「・・・では、ちゃんと腰を据えてご覧になったことは・・・」
「無いね。」

(やった!これは尚更好条件です!)

こういうのはやはり、ちゃんと目で見てみるのがとても説得力を持つ。
もう観戦したことがあって、その上で興味ないと言われるとかなり辛いが、ちゃんと見たことないというのなら印象を変える絶好のチャンスだ。

これでちょっとでも男子テニス部というものがどんな所かわかってくれれば嬉しいのだが。

とは言いつつも実際に見直すかどうかは郁次第。
紫希に出来るのは見直してもらう機会を作るだけで、そこから先は外部からの努力ではどうにもならない。

祈るような気持ちになる紫希だが、郁はちょっと違うことを考えていた。

(春日さんと2人・・・それならバレない、か・・・・)

紫希の気遣いは流石というか、自分が何を求めていてどうして欲しいか良くわかってくれてると思う。
郁からすると渡りに船というか、もう願ってもない話だ。

どうせテニス部に見つかったら、また話しかけられる。
いや、話しかけられなくとも少なくともテニス部間で話題にはなるに違いない。
なんだ、マネージャー乗り気になってるのかとか。
もしくは、あんなに態度悪かったのに一体急にどういう風の吹き回しだ、とか。

そういうのを郁が嫌がっていると紫希は思っていて、それをシャットアウトする為にこう申し出てくれているのだ。
まあ多分時間差で後からはどの道バレるだろうが、人のうわさも七十五日。こういうのは時間をおくと古い話題として然程取り沙汰されないので、それだけでも大分違う。

ただ。
ただ。

「・・・観戦して、それで終わったら、今日はもう試合はないだろうから皆帰るんだろう?」
「えっ?ええ、そうですね。まあ、帰ると言っても私達、家には帰らないと思いますけれど。」
「え・・・・」
「学校へ行きます。今日はちょっと、そのう・・・皆で、幸村君にお話があって。」

テニス部は試合が終わって片づけをしたら、送迎バスで学校へ向かう。
ビードロズはいつもならそのまま帰るが、今日は事情が違う。

今日は城成湘南戦。
千百合と幸村がどういう最終結論を出すのか、紫希達としては気になってしょうがない。週明けになって顔を合わせるまで待てなんて、そんなのそわそわしてしまってとても無理。

「ですから、駅まではご一緒出来ます。」
「・・・・・」
「勿論、帰りは一人が良いとお思いなんでしたらそれでも全然・・・一条さん?」

今紫希は、自分達は学校に寄ると言った。
それを聞いて郁の胸に去来したのは、何とも言えぬひんやりした重い感覚だった。

自分はそのまま帰る。
だからこのまま普通にしていたら、会えない。

紫希達は学校に寄る。
だから紫希達はこの後会える。

もし紫希達と一緒に居れば。
そうすれば、自分も会えるかもしれない。


誰に?


「・・・僕も学校に寄るよ。」
「え?」
「序だ。最近は全然鈴奈ーーー僕の友達のマネージャーと帰れていないからね。ここまで来たんだ、偶には良いだろう。元々生徒会だけだったから、あの頃は一緒に帰れていたのにこの所はもうテニス部に取られっぱなしさ。」

勝手に口が動く。
言わなくて良いことを喋る。
それがそのまま自分の無意識下の必死さと繋がっている。

いや。
最早無意識ではなくなってきている。


見ないようにしているだけ。


郁の内心など全く知らないままに、紫希は無邪気に微笑んだ。

「では、紀伊梨ちゃん達にはテニス部の皆に言わないでおいてもらいましょうか。その鈴奈さんという方だけ呼び出し出来ればテニス部の皆さんにはバレずに、」
「いや、良い!」
「え?」
「あ、そのーーーー今更だろ、あまりに。それに、大勢に見つかるのは避けたいから観戦は春日さんに同伴させて後ろで見るが、帰りはそのーーーどうせ皆まばらなんだし、鈴奈はいつも遅いしーーーー」

矛盾。
どっちつかず。
中途半端。

なんなんだお前、一体何をどうしたいんだと問われれば、なんだっていいだろ僕の勝手だと今の郁は答えるだろう。

でも紫希は突っ込んでは来るまい。

「ええと、それじゃあ今日は帰りはずっと一緒ということで良いんですか?その、学校まで。」
「・・・ああ。」

こうやって、よくわからないけど掘り下げないで流してくれる。
許容してくれる。

ああ良かった。

紫希が相手で、本当に良かった。