「何故この前衛のタイプに、この後衛を組ませて居るんですか?その条件ならコントロールに自信のある選手を、優先して組ませるべきだと思いますが?」
「2人ともライン際のボールの処理がなかなかのレベルですが、これは個人的な特性ですか?それとも練習メニューをこなして、こうなるようになっているんですか?」
「あの前衛のフォームはかなりクセがありますが、あれは誰も指摘しないんですか?それとも敢えて放っておいているんですか?」
「・・・わかりません・・・」
可憐はズーン・・・と項垂れていた。
日吉の一切の容赦のない質問攻めにあって、でも殆ど何も答えられなくて、ただいま絶賛打ちひしがれ中なのである。
「日吉、もうその辺にしておきなよ・・・・」
「はあ?何が「その辺」だ。俺達は見学に来てるんだ。遊びに来てるんじゃないんだぞ。」
「そうだけど・・・でも、マネージャーさんにそんな専門的な事を聞いたって、」
「さして難しいことは聞いてないだろうが。わからない方がおかしいんだ。」
「ごめんなさい・・・」
さっきからずっとこう。
もういちいち一言一言が突き刺さりまくって、こんな所で思いがけずメンタルぼろぼろ。
「はあ・・・もう良いですよ。今度機会があった時、分かる人に聞きますから。」
「ごめんねっ・・・!」
「あ・・・ええと、あの!すいません、俺、喉が乾いちゃったんで。なので、自販機に案内して貰えませんか?」
「あ、うん・・・それならちょっと行こうかっ。」
「日吉、何か要る?」
「緑茶。」
「分かった。」
(あーあ・・・)
めちゃくそに気を使わせてしまっている。
情けない、後輩の役に立てずもう一人の後輩には気を使わせて。
席を立ち、少し人の群れから離れた辺りで鳳は眉を下げた。
「あの、すみません、日吉の事。」
「えっ?」
「その、日吉はいつも誰に対してもこう・・・結構言い方がきつくて。根はあれで、優しいところもあるんですけど・・・」
「あっ、良いの良いのっ!ごめんね、私が頼りないもんだから、鳳君にも気を使わせちゃってーーーー」
「えっ、鳳君?」
誰。
いや、この声は聞き覚えがある。
「あっ、詩織ちゃんだっ!」
「神宮さん!」
「やっぱり鳳君!それに、先日の先輩!」
其処に居たのは神宮詩織だった。
地区予選の時見学に来ていた、中等部に行ったらマネジになりたいと言っていた少女。
そして木崎千歳と険悪な仲の少女でもある。
「2人とも、知り合い?なんですか?」
「うん。地区予選の時見学に来て、その時お世話になったの。お久しぶりです、先輩。」
「うんっ!また来てくれたんだね詩織ちゃんっ!」
(そういえば千歳ちゃんってあれから見ないなあ・・・会わないだけで来てるのかなっ?あっ!もしかしたら、付き添いが見つからなくて来れないのかもっ!前、一人で見たくないみたいな事言ってたもんね・・・)
実際は今、木崎はテニスと全然関係ない事ーーーバンドの事で現在ごたつき中なのである。
可憐がそれを知る由などないが。
「あ・・・あの、鳳君。鳳君って今日は・・・一人?」
「ううん、日吉も居るよ。」
ぱあっと顔の華やぐ神宮。
(え?)
「じゃ、じゃあ・・・」
「あ、でも!ちょっと今日はその・・・俺達2人とも見学目的で来てるから、俺達用のスペースで見させて貰ってるんだ。だから、お喋りは難しいと思う・・・かなり集中してみてるし。」
「・・・・そっか。」
(え、え、え、ちょっと待って、)
「し、詩織ちゃんっ!」
「はい?」
「ごめん、ちょっと良いかなっ!鳳君もごめんね、少し待ってねっ!」
「はあ・・・?」
可憐は神宮の手を引いて、鳳から少し離れた。
もしかして。
もしかしてもしかしたらまさか。
「あの・・・詩織ちゃん?」
「はい。」
「そのー・・・私あの、地区予選の時に詩織ちゃんと千歳ちゃんの事色々聞いたんだけどねっ?そのう、詩織ちゃんって好きな人がいて、その人がテニスするんだよねっ?それってもしかして・・・」
「あ、そのう・・・い、言わないで下さいね?・・・日吉君、です・・・・」
やっぱり。
マジか。いや待て、だとすると。
「じゃあじゃあ、千歳ちゃんが好きな子っていうのは・・・」
「はい、鳳君の事です。」
(えええええ・・・・・!)
マジかよ。
どこからコメントすれば良いのかわからないんだが。
(鳳君・・・鳳君かあ、鳳君なんだあ。確かに鳳君、優しいし穏やかだもんねっ。如何にも病気がちの女の子に声とかかけそうだよ・・・)
でも逆に鳳は木崎のあの性格を知っているのだろうか。いや、隠しているのか?
多分隠している。あの性格丸出しでは鳳みたいなタイプは殊更寄って来ない事くらいは、流石の木崎でもわかるだろう。
「そ、そっか・・・有難う、ごめんね変なこと聞いちゃってっ。誰にも言わないから・・・」
「はい・・・」
「あのう、2人とも・・・」
「ああっ!ごめんね鳳君、お待たせっ!話終わったから大丈夫だよっ、戻ろうっ!」
「?はい。」
こうして可憐は、思いがけず思いがけない事を知ってしまったのだった。
しかしかといってもうどうしようもない。聞いてしまったものは聞いてしまったのだから。
(ううんまあ、私が知ったからって別にどうなるものじゃないし、どうしてあげることも出来ないけどっ。ううん、けど気になっちゃうなあ・・・そっか、鳳君かあ・・・)
好きになる気持ちはわかる。
というか、木崎の視点から見ると、確かに素敵に映るだろう。
でも脈ありそうかと言われると正直ちょっと。猫被るって言っても、そういつまでもは被り続けてはいられないだろうし。
何とも言えない思いというか感想を抱きながら、可憐は鳳と、それから神宮とも連れだって戻るのだった。