「・・・だってさ。」
「えー!じゃあ紫希ぴょんと一緒に見らんないのー!?」
午後試合直前。
これより始めます、のアナウンスが流れた頃、紫希から郁と離れて見る旨のLINEが入った。
「まあ見ないわけじゃないんだしw離れてるだけでどこかには居るからw」
「そーだけどー!でもさみしー!」
「別に一緒に見れば良いのに。バレるバレるって、そうそう見つからないわよ。」
「「見つかるよ!」」
「お前は何を言ってるんだwお前のせいで見つかると言っても過言ではないんだぞw」
「千百合っち知らないのー!?ゆっきーって千百合っちのこと見つけるの、めちゃめちゃ上手いんだかんね!」
「・・・・ああそう。」
恥ずかしい。
知らんわそんなの、と投げやりになりたくて仕方がないが投げやりになってる場合じゃない。
この試合はいつもの試合と違う。
ある意味では自分の為に華村が披露してくれる試合でもある。
これだけはちゃんと見ておかなくては。
「それではこれより、立海大附属対城成湘南学園、D2の試合を始めます!」
「プレイ!」
紫希と郁もまた、審判の掛け声を少し離れたところで聞いていた。
「始まりました・・・!」
「ふうん・・・時に春日さん。」
「はい?」
「鈴奈からうちは強いとよく聞いているが、実際どうなんだい?この試合は勝つのかな?」
「ええと・・・私もあまり詳しくはないんですけれど、なんでも関東ではいつも優勝しているらしいです。ですからおそらくこの試合も勝てるんじゃないかと。」
「へえ・・・」
(毎回優勝か。なかなかじゃないか。もっとも、相手の強さも僕はあまり知らないがーーーー)
ドン!
「ーーーーえ、」
「15-0!」
「・・・春日さん、今のは、」
「はい。ええと、テニスはポイント制なんです。15、30、40まで取って、さらにその次ポイントを取れば1ゲーム取得になります。今のは向こうの方のサーブで、入ったのであちらに15ポイント、こっちは0ポイントのままです。」
「いや、うん。そうなんだがそうじゃなくて、今のサーブ・・・」
「?はい。あちらのサーブです。ですけど、やっぱり強いというか結構早いですよね。返すのが難しそうです・・・」
「結構・・・・」
結構早い、で片づけていいのか、初めてテニスをまともに見る郁には分からない。
結構どころのスピードじゃなくなかったか。
「ま・・・待ってくれ。勝てるのか本当に・・・」
「え?ええ、確かに相手の方も強いですけれど・・・あっ!大丈夫ですよ、先にポイントを取られたからと言って負けるわけでは、」
「いや、だってーーー」
ドッ!!
「15-15!」
「ーーーーー」
「やった!返しましたよ、これで15-15・・・一条さん?」
(いやおかしいだろ、なんで返せるんだよ)
さっきのあっちからのサーブも早かったのに、それを普通に上回るスピードのリターン。
待って、おかしい。なんだあのスピード。
(待ってくれ待ってくれ、テニスってこんなに早いのか、)
そもそもの話、郁は然程テニスに詳しくない。
というか、スポーツ全般詳しくない。兄の一条直樹が駅伝好きだから、精々陸上長距離のことをちょっとだけ聞きかじってる程度だ。
「その・・・春日さん。妙なことを聞くんだが。」
「全然構いませんよ。私に分かることでしたら、なんでも聞いてください。」
「うん、ああいや、あの、初歩的な話で悪いんだが・・・あれはどうやって追いついているんだ?」
「え?」
「なんというかその、追いつけないだろう。相手が打ってからだと。あのスピードでは。」
「はい、それは勿論。ですから予め動くんです。練習を重ねていくと、段々相手の走る方向や体の向きを見て、大体この辺に返ってきそうだな、って分かるようになるんです。」
「ええええ・・・・・」
しかも、練習を重ねて動きの予測が出来るようになったとしてもそれで終わりじゃない。返せなきゃ意味がない。
追いつくのにはスピードが要るし、返球にはテクニックとパワーが要るし、それを続けるにはメンタルとスタミナが要る。
(そんな事出来るのかよ・・・・いや、やってるのか、此処に居る全員。)
しかしそれにしたってーーーー
ドカ!
「え・・・」
「・・・・!だっ、」