First region competition:Semi final round 1 - 3/10


大丈夫ですか!
と叫んだ紫希の声は、他に同じことを叫んだギャラリーの声でかき消された。




「野入!」
「っつう、あ・・・・!」

野入は派手に転倒した。
抑えている右足ふくらはぎには、真っ赤で丸いボールの跡。

「野入、大丈夫か!しっかりしろ!」
「和久野・・・すまん・・・足が、」




「柳、あれは。」
「初めて見るショットだ。データにはないが、おそらくバギーホイップショットの一種だろう。」
「違う。俺の言いたいことはそういうことではない。」
「わかっている。ショットそのものはバギーホイップショットの一種、で説明できる代物だが、あの使い方は・・・・」

「あれは狙撃だね。」

幸村は眉一つ動かさず、極めて冷静な態度で言った。

「前衛をブラインドにしてショットの瞬間手元を見せず、相手の足元を狙う。狙われた方はどちらのどこを狙われてるのか分からず対処が遅れる。自分を狙っているのか、パートナーを狙っているのか。腕を狙っているのか足を狙っているのか。もしくはどこも狙っていないのか。黙っていると当てられるし、避けるとポイントになってしまう。」

成程。
そうきたか。

ちら、と相手の方を見やると、悪いともなんとも思っていないような顔をしている。大丈夫かとか、ごめんなさいの言葉もない。
やはり意図的。

「どうする、幸村。」
「どうする?それはどういう意味で?」
「抗議という手段を取るなら今だが。」


「何故?」


「ーーーーー!」
「・・・・・」

真田と柳は口籠った。

何故。
そう問い返してくる一言の中に、幸村のこの成り行きに対するスタンスの全てが詰まっている。

幸村はこの展開に対して、色々考えていることはあるにせよ、少なくとも「不当だ」とは思っていないのだ。
抗議してどうなるものでもないという諦めではなく、土台抗議する理由が自らの中に見当たらないという目の色。

幸村にとってこの相手の戦法は「正当」なのである。
やりたいやりたくないは置いといて、やっても良いことの中に分類されているのだ。
流石に素晴らしいプレーだと褒め称える事こそないけれど、わざとだ卑怯者だあいつ等の出場権利を剥奪しろなんていう気はない。

(そうか。ここまでやるつもりは少なくともあるわけだね。)

華村は幸村が以前、勝利に対して貪欲な所は好感が持てると言ったのを覚えていたのだろう。それで今回、アピールも兼ねられる戦法を打ち出してきた。
少なくとも自分達は、勝利に対してここまでのラインのことなら普通にやる、と言いたいわけだ。

勿論相手によってはこれが悪手になる。
こんなやり方軽蔑する、と思われるリスクはかなり大きく孕んでいるが、華村は、幸村ならこのやり方に対して然程嫌悪感は覚えないだろうと踏んでこういう手に打って出たわけだ。
寧ろある意味では幸村側が自分のスタンスを見直す材料になるだろう、とまで思っている。

そしてそれは当たりなのだ。

現にほら。

「野入・・・」
「野入!」
「皆ごめん・・・」
「野入先輩、足の様子はどうですか。」

「・・・・本当に悪い。今日はこれ以上は無理だ。」

ああ。
あっさり1勝渡してしまった。

「審判、棄権します。」
「分かった。まあ他にどうしようもないだろうな。


立海大附属D2、野入孝之、負傷により棄権!よってこの試合は、城成湘南学園の勝利とします!」