「ああ良かった、怪我などしないまま勝てそうです・・・」
「・・・ああ、それは良いが・・」
「一条さん?」
(ちょっとハイレベル過ぎやしないか?)
そもそも郁は、佐川と東雲の方を見て「何あれ早っ!」と思っていたのだ。
ところが敵はそれを上回るスピード。
ええこんなの勝てないじゃんと思っていたら、こっちのペアはパワーを乗せて相手をねじ伏せていく。
ほらまた。
ドン!
「15-40!」
(またこっちのショットが入った!)
「・・・・・」
食い入るように試合を見つめる郁を見て、紫希は内心でガッツポーズをした。
これは良い感じだろう。良い感じと判断していいはずだ。
少なくとも、テニスの試合には興味を惹かれている。
無理やり一生懸命見ているんじゃなくて、思わずといった風に見てくれてる。
これはかなり大きな一歩だと思う。そう信じたい。
(後は・・・・プレイしている選手の方に、もうちょっとだけ目を向けてくれれば凄く嬉しいんですけど。いえ!焦らない焦らない、ゆっくり無理をしないで・・・)
こういう事は焦ると碌なことにならない。
慎重に慎重に、相手が嫌だと思ったらすぐ引っ込められるように注意して・・・と思っている紫希は、全然気づいていない。
郁とテニス部の距離は、急速に縮まりつつある。