「プレイ!」
「・・・はっ!」
「フッ!」
『さっきショットを躊躇ったでしょう。何故なの?』
だって。
もし打ったら、打ったその分だけ自分はレギュラーの座から遠ざかるんだろ。
それをわかってて誰が打つんだよと思う自分がどうしても出てくる。
本当はそんな場合じゃないのに。
今は勝たなきゃいけないのに。
自分のレベルアップのためには、誰が相手でも全力で挑まなくちゃならないのに。
「は!」
(来た!)
「お!何か変な事してる!」
「変な「事」言うなw「構え」って言ってやれよw」
「何かすごいショット打つのかなー?」
「そうなんじゃない。」
「おお!ゆっきーピーンチ!」
「ピンチっていうほどでもなくない?」
「えー?だってゆっきーはほら!得意のミラクル攻撃!みたいのないじゃん?」
そう、幸村には技がない。
華村の最後のアピールはこれ。
今幸村が持っていない武器を、自分なら与えてやれるということ。
「タアッ!」
幸村は腕の角度を見る。
振る瞬間のラケットの動き、方向。
(スピンショットだね。)
幸村は後方に位置取りし、平川が打ったのを見て右サイドへ走った。
スピンショットは縦に高く跳ね上がるショットだ。
これを返すには、一度バウンドして威力が弱まったところを叩くのが定石。
だが。
(きた。よし、方向的に丁度真正面ーーーー)
バシュッ!
「ーーーー!」
バッ!と振り返る逆方向のサイド。
派手に跳ねたボールがガシャ!とフェンスにぶつかった。
「0-15!」
「・・・・・」
通常。
スピンショットというのは、大雑把に言うと「高く派手に跳ね上がるショット」である。
変化がきついのは縦・高さ方向。
クレイコートでのイレギュラーバウンドでもない限り、妙な飛び方はしない。
ここはハードコートだから、尚更変な方向に跳ねたりしない筈なのだ。
だが、今。
「柳、今のショットは。」
「データにない。隠し玉だな。おそらくあの構えから打つことによって複雑な回転がかかり、それによってああなるのだろうが・・・」
(そうよ。)
華村は悠然と微笑んだ。
(通常のスピンショットは、山なりに高く跳ね上がる以外の変化はほぼない。回転がかかっているから打ち返しづらくはあるけれど、方向を捕まえることそのものは造作もないわ。けれど・・・)
平川のスピンショットは違う。
複雑な回転をかけることで、バウンドした後どこへとも知れぬ方向へ勢いよく跳ね飛んでいく。
「これが俺のスピンショットーーー『スパーク』だ。」
その威力。
そのランダム性と勢いは、まるで火花のごとく相手を攻撃する。
「・・・スパーク。成程、その名の通りのショットだ。」
幸村は考えながらラケットを軽く振る。
スパーク。
スピンショットの一種。
特性は、バウンド後のイレギュラーな飛び方。
明らかに頭で対策を考え中の幸村に、平川は思わず聞いた。
「返せるかよ。」
「返します。」
即答すると、平川はちょっと目を見開いた。
なんだその反応は。
難しいですねとか、多少時間はかかるかもしれませんが、とか言うとでも思ったのだろうか。言うわけないだろ、そんな温いこと。
(これを返さないことには、俺は勝てない。)
なら返さねばならないのだ。
何がなんでも。
「・・・はっ!」
幸村のサーブ。
「フッ!」
平川のリターン。
そしてラリーが始まるが、勿論いつまでもは続かない。
隙さえあれば、平川は必ず「スパーク」を打ってくる。
「・・・ウラア!」
(来た!)
「あー!またあのびよーんって跳ねていくやつやりそう!」
「返せんのかね。」
「返せなかったら終いだもん、返すでしょ。」
「お前なあ、そんな簡単にーーー」
「彼奴、返す気だぞ!」
聞こえてきた観客の声に、3人は意識をコートに戻した。
(流石ね、幸村君。スパークの弱点ーーー滞空中は方向を変えられない点をあっさり突いてくるなんて。)
そう、スパークが発動するには一度着地する必要があるのだ。
空中に止まっている間はただのスピンショット。
幸村はその弱点を正確に見抜き、バウンド前のスパークに向かっていく。
だが。
(かかったな!)
平川はほくそ笑んだ。
スパークは確かに、着地しない限りその威力を発揮できない。
が、着地さえすれば場所はどこでも良いのだ。
そう、それがコートでなくラケットの面だったとしても、「着地」には違いない。
「はあっ!」
ビシ!と吸いつくように幸村のラケットにスパークが食い込む。
いつものスピンショットの処理と違う感覚が伝わってくる。
ボールがラケットからイレギュラーバウンドしようとしているのだ。
「・・・・・・!」
ぎ、とラケットにこもる力が、瞬間強くなる。
集中しろ。
集中しろ。
かかってる力を殺して、こっちが打ちたい方向の力をちゃんと伝えろ。それが出来れば返せる。
負けない。
負けられない。
自分は勝つ。
「・・・っあ!」
腕を振り抜く。
ボールが跳ね返る。
ーーーちゃんと、平川のコートにだ。
ドン!
「15-15!」
審判のコール。
こっちのポイントだ。
「・・・はあ。」
幸村が息を吐いたと同時に、わっと歓声が沸いた。