一方其の頃氷帝側では、若干立海に比べて試合運びが遅くなっていて今からS3が始まるところであった。
もうDは2つ勝っているので、もうこのS3を勝てば今日は終わり。
やっぱり跡部は出ず、残念という思いを隠しきれない日吉ははあと溜息を吐いた。
「日吉君っ!」
「日吉、ただいま。」
「ああ、戻ってきましたか。今S3が始まったところ・・・・あの。」
「えっ?」
「増えてませんか。」
「あ、あははっ!途中で会ったの、一緒に行こうって事になってっ!日吉君ともお友達、なんだよねっ?」
「あ、あの・・・こんにちは、日吉君!」
ほんのり顔を赤くして挨拶する神宮だが、気の毒なことを言うようだが日吉は「暑そうだな、まあこの気温だし無理もないが。」くらいにしか思っていない。
「まあなんでも良いですが、本当にもう始まりますよ。飲み物は買ったんですか。」
「あ、うんっ!」
「ねえ、日吉。神宮さんも此処で見させてあげて良いよね?」
「は?」
「ほら、まだスペースは空いてるし。僕が椅子を譲るから。」
「い、良いよ鳳君っ!私は立って見られればそれでーーー」
「駄目に決まってるだろ、何を言ってるんだ。」
「「え、」」
バッサリと切って捨てる日吉に、そう来ると思っていなかった可憐と鳳は思わず声が出た。
「待ってよ、どうして、」
「お前は馬鹿か。此処は特別席なんだぞ。俺達が見学に行きますとアポを取ったから、わざわざ空けてくれてるんだから、他の奴を知り合いだからと言って勝手にほいほい中に入れてちゃ逆に失礼だろうが。」
「それは、」
「大体、お前のそういう所はそうでなくても良くないんだよ。友達だから、とか言ってなんでもなあなあに済ませるんじゃない。公私混同するな。友達を贔屓したいなら別の時にやれ。」
「そ、れは・・・・・」
正論。
ド正論である。
神宮はここまで駄目と言われると思っていなかったのと、それを言ってるのが好きな人というダブルパンチでちょっと涙ぐんでいる。
「あ、あの・・・あっ!じゃあ、詩織ちゃんは私の椅子に座ってよっ!ね?」
「いえ、良いです・・・」
「良いから良いからっ!だってそのう・・・ほらっ!詩織ちゃんは中等部に上がったらテニス部に来てくれるんだよねっ?後輩の面倒を見るのは、先輩の義務だからっ!」
「・・・・・」
「・・・ねっ?」
何も言わず、ちょっとぺこっと頭を下げて椅子に座る神宮。
こういうところ、神宮は本当に木崎と真逆だなあと可憐はつくづく思う。多分木崎なら今の場面、もう良いですから!と言って走り去る事だろう。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
(き、気まずい・・・!)
ただでさえそんなに空気は良くなかったのに、尚更空気が悪くなってしまった。
神宮はすっかり落ち込みモード。日吉は日吉で、何か自分がいじめしてるみたいになってしまってちょっと気づかわし気に、且つちょっと憮然としてるし。
鳳なんて、自分が神宮の事情しか考えないで余計な事言うもんだから、なんて今にも溜息吐きそうな、自分に嫌気が差したような顔をしている。
どうしよう。
どうしたらいいの、こんな時。
(な・・・何か話題をっ!でも、日吉君も入れて盛り上がりそうな話題なんてテニス関連しかないし・・・テニスのことは、日吉君や鳳君の方がよく知ってるしっ・・・)
待って、後輩ってこんな難しい存在なのか。
同級生ならああ気詰まり・・・で済むような場面だけど、自分は先輩だと思うと何とかしなくちゃなんて不必要に焦ってしまう。
ええと、ええと。
何か、何か、とおろつく可憐の耳に、丁度後ろを通りすがった男子部員の声。
「おい、聞いたか?」
「何が?」
「立海が決勝進出を決めたらしいぜ!」
「・・・!それって本当っ!?」
ばっと振り向くと、同じく1年生の男子が可憐と同様、少々興奮気味に頷いた。
「じゃ、じゃあ私達ここで勝てたら・・・」
「ああ!決勝は立海とだ!王者の名を奪還するチャンスだぜ!」
(やっぱり勝ち上がってきたんだ・・・!)
そうなるだろうな、とは思っていた。
でも実際こうして、あっちは決まったぞ!と言われると急に実感が沸いてきて、表現しようのない何かーーー空気感や緊張のようなものに迫られている感じがぐんと強くなる。
「そっか・・・そうなんだ・・・・」
「あのう・・・何のお話ですか?」
「あっ!ごめんね、ええと、今やってる試合は準決勝で、ここで勝てたら次の試合は決勝になるんだけどっ!その相手が、もう決まったのっ!立海大附属中学だよっ!」
「「「立海・・・・」」」
その言葉を、後輩三人組はそれぞれ咀嚼するかのように呟いた。
「・・・そこは、強いんですよね?」
「うんっ!毎年関東大会を優勝で通過して全国進出を決めてるんだよっ!関東の王者って言われてるのっ!」
「すごい・・・」
「強そう・・・」
鳳と神宮は一気にトーンダウンした顔になる中、あくまで強気な日吉はさほど目の色を変えない。
「でも勝つんでしょう?確かにその立海とかいうところは強豪なんでしょうけど、今年の氷帝には跡部さんが居ます。今までとは比較にならないほど、うちはレベルアップしていると思いますが。」
「・・・・・」
「・・・なんですかそのだんまりな態度は。まさか自信がないとか言わないで下さいよ。」
「・・・ううん、正直あんまり自信はないかな・・・」
「はあ!?」
「わ、私だって負けるとは思ってないよっ!でも、勝てるとしてもそんなに余裕綽々な勝ちは無理っていうか・・・競り合いになると思う。確かに跡部君はすごいプレイヤーだし、今年の氷帝はすごく強くなってるって先輩たちも言ってるしっ!だから、日吉君の見立ては間違ってはないけど・・・」
ただ、日吉は立海のことをあまりにも知らない。
氷帝は確かに飛躍的に力を付けたがーーーそれは立海側も同じなのである。
幸村。真田。柳。
あの3人が束になってかかってくるのだ。跡部の実力を以てしても、圧勝はとても無理。
「そんな・・・・」
鳳がコートに目を向けると、S3の試合が氷帝の文句のつけようもない勝利で終ろうとしていた。
その姿に余裕が見えれば見えるほど。
これほどの力を持ってしても尚鎬の削り合いになる、立海の実力の底知れなさがわかる気がするのだった。