氷帝も危なげなくS3で勝利を収め、3タテで決勝進出を決めた。
試合が終わると、後輩3人組は見せてくれて有難うとお礼を言って帰って行った。
「ただいま・・・」
「あ!おかえり、可憐ちゃん♪」
「お疲れさん。どないやった?」
「ああ、うん・・・何か、色々あって・・・」
「「?」」
「あの、日吉君が・・・テニスに詳しすぎて、私聞かれても何も答えられなくってっ。」
「「あー・・・」」
まあ無理もねえわな、な顔になる忍足と網代。
先日の跡部邸でのフレンチの時に、日吉若という少年が強いプレイヤーであることはわかっていた。タイプとしては、脳筋・感覚派というよりはどちらかというと分析・思考派であることも。
可憐のーーーというか、テニス初心者の手に余りそうな感じの少年だなあというのは予想がついていたのだが。
「鳳君の質問には答えられたの?」
「うんっ。と言っても、鳳君は逆にほぼ質問してこなくってっ。多分、私に聞いてもわからないだろうからって察されたんだと思うけど・・・」
「それは思い込みすぎちゃう?」
「ううん・・・見てないからわからないと思うけど、私結構露骨に気を使われちゃってたから・・・」
思い出してまたずうん・・・と落ち込む可憐。
ああマジで、今日の後輩の面倒を見るというミッションは本当に良いところなしで終わってしまった。
「・・・って、あっ!そうそう、あのねっ!今日詩織ちゃんも来てたのっ!皆で一緒に見たんだよっ!」
「あら!あの子も熱心ねえ、嬉しい限りだわ!うんうん。」
「健気やなあ。」
「・・・うん、健気だよね・・・」
「「?」」
確かに健気だ。
健気なんだけど、相手はあの日吉だ。
いや、別に日吉だって決して悪い子ではないけれど、日吉の方はまさか神宮が自分のためにこんなに熱心なんだなんて思いもよらないだろう。
「そういえば、木崎さんは見ないけれどどうしたのかしら?」
「あっ、やっぱり見てないっ?私も今日千歳ちゃんのこと思い出したんだけど、私がみかけてないだけで来てるのかなって思ってたんだけどっ。」
再度言うが、木崎は来てすら居ない。
今手が離せない状況なのだ、あっちでは。
「まあ、地区予選の時成り行きが成り行きやったからな。もし顔合わせたら気まずいみたいなのあるんちゃうやろか。」
「えっ!?わ、私のせいっ!?」
「ああ、ごめん。そういう話したかったわけやないねん、堪忍な。」
「大丈夫よ、可憐ちゃん。こう言うとなんだけど、もし地区予選の時トラブらなかったとしても、きっとどこかの時点で誰かと似たような事になってたわ。それに。」
「それに?」
「木崎さんは、多分そういう事は悪い意味で気にしないというか・・・そんな事より片思いのあの人!って感じじゃないかと思うな~。また会ったら会ったで、ふん!何よ、私謝らないからね!そっちが悪いんだから!みたいな感じよ、きっと。ね。」
「ああ・・・」
「いかにも言いそうやな。」
(本当に千歳ちゃんって、鳳君の前だとどんな感じなんだろうっ?ううん、多分取り繕ってるんだろうなとは思うんだけど、取り繕えてるのかな・・・?)
そりゃ好きな人の前だと態度がきちんとしてしまうというか、普段より多少良い子になってしまうのは多かれ少なかれ皆ある事とは思うが、木崎のそれは大分ふり幅を大きくしないと鳳のお眼鏡には適わないのではと思う。
完全にただの推測だが、鳳の好きなタイプってどちらかというと、それこそ神宮みたいなおしとやかタイプというか・・・少なくとも素の木崎みたいなのがもろ好みというのは考えづらい。
鳳に木崎の事をちらっと聞いてみようかとも思ったのだが、神宮は木崎と仲が悪いらしいので、今日あれ以上空気が悪くなりそうな話題を出す勇気は流石になかった。
思わず考え込む可憐を見て、網代が何か悪いことを企んでいるようなにやりとした笑顔になった。
「日吉君じゃないわね・・・多分鳳君、ね。」
「何がなん?」
「木崎さんの好きな人よ♪」
「!?」
「ドンピシャ!当たり、ね♪」
やった!と小さくガッツポーズをする網代は、可愛い素振りで結構えげつない事をあっさり言う。
「そうなん?」
「え!?え、いや、あの、私は知らなーーー」
「うん?」
「・・・・・・・・うん。」
例えもし知らないと言い募った所で、網代の中ではもうそれは99.9%くらいの確率の正解だと手ごたえがあるのだ。
それがありありと出ている網代のおかしそうな表情に、可憐は知らぬ存ぜぬ振りが最早遅いことを悟った。
「やだ、誰にも言わないわよ。大丈夫、安心して?こう見えて口は堅いのよ?」
「なんでわかったん?」
「ふふん!女の勘よ♪・・・っていう冗談はさておき、勘は3割って所かしら。主な手掛かりは詩織ちゃん、ね。」
「詩織ちゃんっ?」
「あの子、大人しいでしょう?しかも地区予選の時は一人で見に来てたじゃない?ということはテニス関連で女子の友達が居ないのかな、と思ってたのよ、ね。でも、かといって男子の友達を一人でガンガン作れるタイプじゃないわ。それこそ、目的や友達のつてがなければ男子の方にはなかなか近づかないタイプよ。」
「ああ。せやから、3人で一緒に見れる位仲がええんやったら日吉か鳳のどっちかが好きで、それで今友達まで持っていけてるいう話になるんか。」
「そう。まあ詩織ちゃんみたいな子は、日吉君みたいな子と鳳君みたいな子とどっちを好きになってもおかしくはないけれど、逆に木崎さんは、ね。日吉君タイプを好きにはならないんじゃないかしら、あの子。日吉君も体の弱い子を優しく気に掛けるタイプでもないでしょう。鳳君の方がよほど自然だわ。」
「茉奈花ちゃん凄い・・・!」
(ちょっと怖いねんけど。)
よくもまあこれしきの事でそこまでわかるものである。
この鋭さ、ちょっと恵里奈を思い出す。
「あらなーに?侑士君、その顔は?」
「なんでも。」
「ふーん?まあいいわ。それはそれとして、これが当たりということは詩織ちゃんが好きなのは日吉君の方なの、ね。」
「一切見てへんけど、前途多難そうやな。なんや、靡きそうにないいうか。」
「ああうん、その通りです・・・」
見立て通り過ぎてコメント出来ない。
「まあまあ♪簡単に靡いちゃったらつまんないわよ。駆け引きも恋愛の楽しみなんだから、私たちは静観と行きましょ?あー、でも良いわね。皆青春してるんだわ。詩織ちゃんしかり、木崎さんしかり、真理もそうだし。」
「あっ!そうだ、真理恵っ!忘れてたっ!覚えてるうちに連絡、連絡・・・」
「あら?何か急ぎ?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけどっ!あのね、お昼に紫希ちゃん達に手作りお菓子のアドバイスを教えて貰ってっ!」
「なんやコツ的な話なん?」
「ううんっ!お菓子そのものっていうか、上手い人を入れて皆で作った方が楽しいし失敗しにくいってっ!だから黒羽君に何かあげたいならそうした方が良いよって・・・・茉奈花ちゃんっ?」
可憐を見ながら両手を口元にあてて、はた。という顔をする網代。
なんだ。一体どうした。
「それだわ。」
「えっ?」
「それよ!良いわそれ、ナイスアイディアよ!私もやりたい!入れて!可憐ちゃんもやりましょ!ね!」
「えっ?えっ?う、うん、えっ?うん、良いけど・・・」
「やったあ、決まりねっ!真理と、あとあかりも入れるとして、上手い人っていうのが問題ね・・・あかりもこういうのは苦手だし真理は勿論そうでしょうし。可憐ちゃんも確かあんまり経験がないって言ってたわよね?困った・・・これは難問だわ。」
「あの、茉奈花ちゃん、」
「そうだ!ダメもとで紫希ちゃんに頼んでみましょう!」
「えっ!?」
「勿論嫌そうだったら辞めるけれど、言うだけはタダだわ!もし一緒してくれるなら、こんなに心強い味方は居ないわよ!紀伊梨ちゃんと千百合ちゃんも誘っちゃお♪今日のお昼は私会えなかったし!」
「そら確かに春日さんが居ったら楽やろけどーーー」
「そうでしょ?そう思うわよね?正に一石二鳥の策だわ、私冴えてる♪」
るんた♪るんた♪と鼻歌交じりでスキップでもしそうな勢いの網代。
何かよくわからないが、何かに火がついているのは確かであろう。
「・・・なんやようわからへんけど、楽しそうやな。」
「うん・・・・」
「・・・まあ、茉奈花ちゃんの事は置いとくとしても、楽しいやろうとは思うから。春日さんらが、ええなて言うてくれたらええな。」
「うんっ!それは私もそう思うっ!」
浮かれモードの網代を見ながら、後で紫希達のグループラインで話をする事を可憐は脳内メモに書き加えた。