First region competition:After the game - 5/8


「あー・・・だいぶ楽になってきたわー・・・」

黒崎家の二階では、自室のベッドで棗が横たわっている。
傍らには紫希が居る。
幸村含む5人の間柄では、お互いにお互いの部屋は勝手知ったる他人の部屋だ。

「何か欲しいものありますか?」
「お茶もうちょい欲しいw」
「どうぞ。」
「やばい、介護されてる感あるw思いがけず老人気分wサンキュw」

なんて軽口叩く棗だが、お茶飲むにしたって起き上がるのしんどいから横になりながら飲んでるくらいである。

「・・・・・」
「あれ?どした?」
「・・・ごめんなさい、棗君。」
「何がw俺は何を謝られているんだw寧ろ謝るのはこの場合俺だろw」
「でも、倒れたのは私のせいですから。」
「なんでよw熱中症がお前のせいだなんて、この世の誰も思ってないわw」

「でも、棗君が最近お忙しいのは間違いなく私のせいです。」

棗の目が、はたと真剣な色に変わる。

「・・・それは違うわ。」
「いえ、そうです。」
「違うってw」
「違いません。私がキーボード下手だから・・・上達しないからこんな・・・」

ぎゅ、と膝の上で拳を握る紫希。

紫希のキーボードの件は、紀伊梨と千百合はおろか他の全員に他言無用である。
唯一の例外がたまたまあの場にいた丸井で、それ以外の人間にはビードロズであろうがなかろうが、どこからも漏れないように誰にも言っていない。

だから、キーボードの指導を仰げるのは棗しか居ないのだ。

元々棗はドラムに編曲にと二足わらじを履いていたのに、紫希の件で今一時的に三足になっている。
間違いなく疲労している。

おまけに、何時まで経っても殆ど出来るようになりはしないのだ。

「・・・あのねwそうだとしても、出来るって踏んだのは俺なんだから、それは俺の責任の範囲内なんだってば。無理しないのも自己管理のうちで、今回は俺がそれ出来なかった、それだけの話なんだよwお前のせいじゃない。」
「私のせいです。一人でやれれば良かったんです、手を借りないと出来ないようなことをしようなんて思うから・・・・」

せめて。
せめて自分がもっと早く上達出来ていたなら。

棗につきっきりで見てもらわなくても自主練出来るようになれれば、もっと棗は楽ができるのに。

「おいおい落ち着けってwお前今いろいろと頭の中で混じってるぞw」
「混じって・・・?」
「俺が疲れてるのはそうよwそれの原因の一つがキーボードのこと増えたからっていうのはあってるよwでも全部じゃないんだし、それがなくなったからって一気に楽になるようなもんでもないよw」
「でも、」

「あのな。はっきり言うけど、俺がキーボードの件で異様に疲れてるように見えるなら、それは俺じゃなくてお前自身がその事でどちゃくそに疲れてるからなんだよ。出来ないもんだから焦ってるんだよ、本当に疲労してんのは俺じゃない。お前。」

「ーーーーー」

はっきり言う。
紫希は下手だ。

そしてその上、焦っている。
発表するんだから完璧にしなくちゃ、見られるようなレベルにしなくちゃと焦って焦って、思うように出来ない事で更に焦って、の悪循環。

紫希自身それは分かっている。
でも出来ない。
焦るのを辞めた方が幾らかマシとわかっているけれど、人間じゃあ焦るの辞めましょうねと言って辞められるわけもない。

伸びない実力。
消えていく、自分の時間に人の時間に、労力に。

そして煩いくらいに大きく聞こえる、海原祭りの足音。

時間は有限。
いつまでも練習は出来ない。

それどころか、これに棗をかかずらせて、最早間接的にフェスの邪魔しているといっても過言ではないんじゃないだろうか。

そうして焦って焦って焦りまくっているところに、今回のこの件である。

(タイミングがまずかったなー・・・あーあ、やっちまったわw)

これで紫希は、ただでさえ焦っている状態から更に焦る。

(自主練の量を増やさなくては・・・もう、棗君にも指導は辞めて頂いて・・・でも・・・やらなくちゃと言っても、実際棗君なしで練習が進むのかどうか・・・文化祭・・・9月なのに・・・)

もうそこまで来てる。
とても間に合わない、が現実になりつつある。

さりとて、それならと辞めるのも難しい。
辞めてどうなる。
そもそも作詞に対する自分のスタンスを確かめるためにやろうと決めたのに、ここで辞めたらその件が有耶無耶のまま決着つけられないままになってしまう。
その状態で来年も再来年も詩を書くのか。
本当に?
そんなんで良いの?
皆こんなに一生懸命やってるのに、自分だけそんな宙ぶらりんな事で良いの?

いや、良くない。
そんなの、自分で自分が許容できない。

でも、だけど、でも・・・・の間を紫希が行ったり来たりしている間に、棗はちょっと起き上がってんー・・・と口の中で呟いた。

すると、部屋にノックの音が。

「もしもし。開けるよ。」
「あ。はいよー。」

ドアが開くと、母純子が顔を覗かす。

「おばさん、お邪魔してます。」
「お帰りw遅かったじゃんwアイス早く、アイスw」
「そーなんだよ。久しぶりに買い物行ったら、どこに何が置いてあんのかさっぱりわかんねーでやんの。スーパーになんか行くもんじゃねえや。紫希ちゃん有難うね、今日は。見ててもらって。」
「いえ、そんな!本当に、私の、せいなんで・・・」
「・・・は?紫希ちゃんのせい?あれ、お前熱中症だよね?」
「いやまあちょっとw長い話だからまた今度ねw」
「あ、そう?まあ良いけど。それはそれとして紫希ちゃん、もうそろそろ帰んないと。夏とはいえ流石に暗くなってくるし、危ないし。」
「あ、はい!」
「待ってて。おばさん車出すよ。」
「いえ!そんなの大丈夫です、自分で帰れますからお気遣いなく、」
「いや、ここまで面倒見てもらったんだからそのくらいするって。待ってて。」
「あ、おばさんーーー」

本当に良いですから、と言おうとした矢先に、棗がベッドの上から紫希の肩を掴んで引き留める。

「棗君、」
「待って待ってw帰る前にこれだけは言っとかんと。」
「え・・・?」
「お前さ。俺もいっぺん指導を辞めるから、練習なあなあにしてさ。」
「なあなあ・・・!?」
「待って、最後まで聞けwそんでさ、練習はそこそこにちょっと遊び呆けてみろよw」
「ええええ・・・」
「適当な事言ってるわけじゃないからねw


楽しくやろう。ビードロズの基本方針にもう一度乗っ取れって事ですよ。」