Rudeness 2 - 7/8


普通の学校に生徒専用の会議室なんて絶対無いが、此処はあの氷帝学園である。
此処に在学する限り、あらゆる場面の全ての物資に於いて、そんなものある?などと言う疑問など抱くだけ無駄だ。

「遅うなって。」
「ごめんなさい・・・」

会議室には、凡そ関係者と思われる人間が全員揃っていた。

呼び出した跡部に渦中の網代は勿論、あの上級生グループも居心地悪そうに佇んでいるし、呼出に加担した加納、伊丹に内川に榎本も居る。

そしてもう1人。

(・・・あの人、誰だろ?)

「「可憐!」」
「可憐ちゃ~ん!」
「わあああっ!?」

伊丹達は忍足を押しのけるようにして、可憐に飛びついた。

「み、皆・・・」
「大丈夫だった!?本当に何もされてない!?」
「何か言われたでしょ!泣いてるジャン!」
「いやあの、これは、」
「あ~ん、良かった~!」

3人は心底ホッとした。
可憐が大切な友人故に網代を守っていたのに、その末に可憐の方が傷つくなんて事になってしまったら、本末転倒過ぎて泣くに泣けない所だった。

「可憐ちゃん・・・」
「あ、茉奈花ちゃん。大丈夫だった・・・」
「大丈夫だったじゃないわよー!自分の心配をしてよ自分のー!」

もー!と叫んで抱き着いてくる網代。

昼休み、網代が一度切ってしまった電話は跡部の呼び出しであった。
千倉は本当に単に用事があっただけの一生徒だったが、勘違いして間に入った内川に事の次第を聞いて大層驚いた。

そして内川が覚えていた加納の名前に網代が反応し、跡部と合流して加納を捕まえ、話を聞いて網代は血が下がった。

全員捕まえて、結局可憐には何もしていないと聞いても、網代は可憐の姿を今目で見るまで、心臓が止まりそうだった。
今回の件、可憐は完全に自分の巻き添えである。
もし怪我していたら。酷い事を言われていたら。
そう思うと。

「ごめんね可憐ちゃん、私の所為で・・・」
「ま!茉奈花ちゃんの所為じゃないよ!」




「そうよ悪いのは私なの。」




あの、唯一誰なのか見当もつかなかった女生徒がそう言った。

「はじめまして、桐生さん。元マネージャーの落合結月です。」

落合結月。

氷帝テニス部の、元マネージャーにして、リーダーの女生徒。

「私達が、何故部活を辞めたかは知ってる?」
「はい・・・」
「そう、なら話は早いわね。」

落合はゆっくり息を吸った。

「・・・実はね、今日跡部君に言おうと思っていたの。網代さんの下という位置づけで構わないから、もう一度マネージャーにさせて貰えませんか、って。」
「えっ!?」

「・・・解決する、言うたんはこれやな?」
「ああ。」

元々マネージャー達は落合を慕い、自分の意思半分、もう半分は落合が居ないマネージャー活動というものがイメージ出来なかった、という要因で辞めた。

だから、逆に言うと落合が跡部の条件に「はい」と言えば、それは他の者達に取っての所謂「負け試合」ーーー自らを納得させるきっかけになる。落合が言うのなら仕方がない、と。

「確かに、完全に納得したのかって言われると嘘になるわ。でも、私やっぱりテニス部のマネージャーをやるのが好きだった。だから、もし間に合うのならもう一度。」

もう一度、出来るかもしれない。
そう思った。




そう思った、矢先だった。




「・・・でも、もうそんな事は言わないわ。」
「えっ!?」
「こんな事になってしまったんだもの。入れてくれ、なんて今更言えないわよ。元リーダーとして・・・例え私が考えた事ではなくてもね。」

結月、と弱々しい声がグループの方から聞こえてきた。

「結月、私達そんなつもりじゃ、」

「じゃあどういうつもりだったのかしら。」

落合の声音は冷たかった。

「こんな事になるなんて・・・思わなくて・・・」
「じゃあどんな事になると思っていたの?」
「どんなって、」
「こんなやり方で仮に元に戻ったとして、どうするつもりだったの?卒業迄バレないと思っていたの?そんなに長い間下級生を脅し続けるつもりで居たの?貴方達がしようとしたのはそういう事よ。」

その言葉にグループの1人、真由子と呼ばれていた女子が顔を上げた。

「ーーーじゃあ、逆に聞くわよ!あんたはどういうつもりだったの!?あの時嫌って言ったじゃない!それで後になってから従います、って何よ!」
「ちょっと真由子!」
「いいや、言うわよ!そんなんだったら、最初からそう言えば良かったじゃない!結月が最初に言う事を聞くって言ってくれてたら、私達だってーーー」




「そうよ、だから私が1番悪いの。」




皆が言葉を失った。
落合は静かに、静かに、涙を流していた。




最初に従うと言っていれば。




事の次第を教えて貰ってから、叫び出したいくらいその事を考えた。

そして分かった。
だから、網代の下に着け、と言われたのだ。

あの時、大きな決断を迫られて、最後の最後に自分を取ってしまった。
皆が倣うと何処かで分かっていながら、そうした。
本当は、皆の為に+になる事を1番に考えなければならなかった。自分の事ではなく。

それこそが、リーダーの仕事だと思ってた筈なのに。

(落合さん・・・)

落合は涙を拭った。

「・・・そんな訳だから、跡部君。」
「・・・・・・」
「戻して貰えないかしら、って頼みに来たけれど、やっぱり取り消すわ。」
「・・・・・・」
「もう何もしてあげられないけれど、頑張って。応援してるーーー」
「お前、何か勘違いしてないか?アーン?」
「・・・え?」

(お前!?)
(お前て・・・)
(上級生に向かって・・・)

この遠慮の無さ、正に跡部景吾である。

「勘違いって・・・」
「俺は、網代の下に着くという点を守るのなら、後は好きにして良いと言っただろ。」
「でも、」
「だから、其処から先は俺様が決める事じゃねえ。網代と・・・それから桐生の判断する事だ。」

全員が一斉に可憐と網代の方を向いた。

「どうだ。」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

正直、迷う所ではある。

許す、許さないという事もあるし、入れる事が果たして部の為になるか?という事は、ある程度シビアな目で見ねばならない。

「・・・可憐ちゃんは、どう?」
「私?」
「私は、はっきり言って、メリットも大きいしデメリットも大きいと思うの。」

何せ、マネージャー歴は向こうの方が長いのだ。手を貸して貰えれば絶対に捗る。
それに、部の為になるかどうかという点で見ればある意味では今回やった事は然程大きい事ではない。
マネージャーに対して良くない存在かどうかと、選手にとって良くない存在かどうかはある程度別の話だからだ。

だから自分達に酷い事をしたとしても、選手の為に全力を尽くしてくれるのなら・・・という思いはある。

「・・・うん。私もそう思う。」
「そうよね。どうしようかな・・・」

悩む可憐の頭に、思い出される事が一つ。

(・・・そうだ。)

「ねえ、茉奈花ちゃん。」
「うん?」
「アレをやって貰うのはどうかな?」
「アレ?」
「ほら!ちょっと前に聞かれた・・・」

網代もピンときた。

「・・・成る程?そうしようか!うん、良い考えと思う!」
「具体的にどうする?」
「そうねえ・・・」

可憐と網代がごにょごにょと相談するのを、上級生達は不安げな顔で眺めている。
唯一、落合だけは不安というより困惑の顔だが。

「ーーー良し!決まったわ!」
「・・・ええと、私達、何をしたら良いの?」
「あの、テストをして貰いますっ!」
「テスト?」
「そうよ。後で又コピーを渡すけど、可憐ちゃんの書いたマネージャーマニュアルがあるの。ページにして大体、30ってとこかしら。」
「・・・それを覚えるの?」

網代はにっこり笑って言った。

「丸暗記して貰います♪テストは口頭試験で、空で言って貰うわ。」
「はああ!?」
「あら、嫌なら良いのよ先輩方?」

網代は笑顔を崩さない。

「でも、なんと言っても経験者なんだし、名簿の暗記もあるけれど、2、3年生は分かるんじゃないですか?」
「・・・そうね。試験はいつかしら?」
「今此処に居ない人達は、何もしてないから。戻る意思があるかどうかを聞いて、明後日の放課後に試験します。」
「・・・私達は?」
「勿論、明日の朝練迄です。」
「それだけ!?」
「それだけあれば十分でしょ?今言いましたけど、0から覚えるわけじゃないじゃないですか?」

「なあ、茉奈花ちゃん怒ってへん?」
「怒ってるよ・・・」

「網代さんって、キレるとああなんだ・・・」
「美人が怒ると怖いよね~。」

榎本の言う通りだった。
異議を申し立てれば申し立てる程、笑顔に凄みの増す網代に誰も何も言わなくなった。

「言っておきますけど、私貴方達の事は当分許すつもりはありませんからね。」
「・・・そうね。チャンスが貰えるだけ、信じられないくらい有難い事だわ。肝に命じます。」
「後ろの貴方達は?やるの?やらないの?」
「「「「「・・・やります。」」」」」

宜しい。
そう言った網代を見て、落合達は、これからこうやって活動していくのだなあという事が身に染みて分かったのだった。