その日の放課後。
部活中、可憐はドリンク作りに励んでいた。
「えーと、粉、粉・・・あった!とと、わ、あっ・・・!」
粉を入れてあるボトルに、肘がぶつかった。
倒れる、横になって溢れてしまう、と思った時、誰かの手がそれを抑えた。
「よっ!」
「あ!向日君!」
向日は可憐の顔を見ると、嬉しそうに笑った。
「ドジするようになったな!」
「えっ!?」
「なーんか、最近さ!お前じめじめした顔して、なんか悩んでるみたいだしお得意のうっかりもしねーし?皆心配してたんだぜ?」
「あう・・・」
ドジして喜ばれるというのはなんとも言えず微妙である。
「・・・元気無いように見えてた、かな?」
「凄く!」
「即答!?」
「おー!」
「ご、ご心配おかけしましたっ!」
「全くだぜ!」
「ううう・・・!」
「やらかさないのは良い事、とかいう奴も居るけどさ。俺達からしてみたら、ドジくらいしてて良いから、元気な方が良いって!」
「・・・うん。」
有難い。
自分を案じてくれる友人達。
「有難う、向日君!」
「おー!で?」
「え?」
「結局、何であんなに元気なかったんだ?」
「え”」
なんでと言われると恥過ぎて言いたく無い。
「い、いやー、えーと、そのー・・・」
「?」
「ち、ちょっと、勘違い?」
「勘違いだあ!?」
「勘違いっていうか!あの、その・・・だ、誰にも言わないでねっ?」
「おう。」
「・・・実は、忍足君と茉奈花ちゃんが今度、2人で映画に行くんだけど。」
「えっ」
向日はラケットを取り落としそうになった。
「それで・・・向日君、聞いてるっ?」
「・・・おう。うん。」
「それでね、私ったらそれでなんだか、寂しくなっちゃって。なんだか2人が急に遠くなっちゃった気がしたの。」
「・・・うん。」
「でもねっ!2人が遊びに行くのと、2人が私の事友達と思ってくれてるかっていうのは、関係ないんだ!って今日分かったんだっ!」
「うん・・・」
「それなのに私、勝手に1人で「私って友達なのかなあ」なんて思っちゃったりなんかしてて・・・本当に恥ずかしいよ。」
「・・・・・・」
それさあ。
それさあ。
それさあ。
(・・・何から突っ込んだら良いのかすげー迷うんだけど。)
この場合、突っ込んだ方が可憐の為なのか。
突っ込まない方が可憐の為なのか。
「・・・なあ、それさ。」
「ん?」
「その、侑士と網代が映画って奴。」
「うん!」
「・・・それ、デート・・・なのか?」
「うん!デートだよね!」
(だよなー・・・)
何処からどう聞いてもそうであろう。
「忍足君は成り行きって言ってたけど。」
「嘘吐けよ!」
「だよね?照れてるのかなっ?」
「いや、照れてるっていうかなんて言うかさ・・・」
照れがどうとかじゃなくて、可憐は気にならないのだろうか。
向日としては、可憐が忍足に心を寄せているのはなんとなく感じ取っていたのだが。
そして、その忍足は多分。
(・・・いや、辞めとこ!)
向日は頭を振った。
駄目だ。
この話題は深く考えても良い事は無い。
可憐と忍足は友達。
忍足と網代も友達。
可憐と網代は、勿論友達。
それで良いじゃ無いか。
うん、そうしよう。
「向日君?」
「あ!いや、なんでもねえ!」
「そう?」
「おう!気にすんなよ!」
「?うん。」
じゃあ戻るから、と言って向日は去って行った。
(ドリンク欲しかったんじゃないのかなっ?)
欲しかったのだが、忘れてしまった。
その程度には驚く話だったのだ、向日にとっては。
(・・・元気なかった、かあ。)
上手く隠しおおせていたつもりだったんだけどな、と我ながら思う可憐だが、確かにそこそこ上手く嘘はつけていた。
ドジさえなければ誰も気がつかなかったかもしれない。
「・・・・・・」
可憐は暫し手を止めた。
いや、止まってしまった。
思い出すのは昼の事。
あの時は半分パニックで、怯えていたのもあって、男子なのにも関わらずつい見知った顔に飛びついてしまった。
でも忍足はギュッと抱き締めてくれた。
安心させようとしてくれた。
『よう頑張ったな』
『もう大丈夫』
『遅なってごめん』
『ほんまに良かった』
「・・・・あ!」
持っていた空のボトルを落とした。
いけない、ボーッとしてしまった。
(さ、流石にちょっと恥ずかしいなっ!男の子とあんなに近かった事なんてなかったし・・・い、いけないいけない!忍足君は親切でああしてくれたんだからっ!)
この事は考えるのは止めよう。
頬の熱が引かないまま、可憐はドリンク作りに戻るのだった。