「プレイ!」
「・・・・」
「長沢!」
「!ああ、」
「大丈夫だよ。」
「・・・おう!」
なんて言ってみたものの。
「・・・は!」
「行ったぞ長沢!」
「わかってる!」
(実際キツイぜ、こりゃあ!)
3年の長沢。
彼は補欠である。
負傷が治りきらない野入と入れ替わりで入ったが、正直に言おう。
ダブルスなんて、殆どした事ない。
まして、和久野となんて尚更である。
(だって俺達、ずっとシングルスだったもんな。)
「・・・・ホッ!」
「いけいけー!頑張れー!」
「いやあwどうなる事かと思ったけどw」
「普通にダブルス出来てんじゃん。」
「お上手ですよね。」
ダブルスに補欠が入るって、ペアとのコンビネーションの問題があるのに、そんなあっさり入れ替わって大丈夫なの・・・とちょっと不安だったビードロズ達だが、なんだ普通に勝負出来てるじゃないか。
ああやれやれ一安心、と胸を撫で下ろして試合を観戦する。
しかし実際、到底安心どころではなかったりする。
「ふうっ!」
「あ・・・」
氷帝がリターンしたショットが、絶妙なコースを通り過ぎていく。
どうする。自分が取るか、と迷ったその一瞬がもう命取り。
(しまった、やば・・・・)
「任せろ、長沢!・・・フン!」
「ゲーム立海!3-1!」
「サンキュ。」
「おう。」
(やばかった、マジで。)
(おい、聞こえないようにしろよそういう事は。)
(分かってるよ。)
頑張って取り繕ってるけど実はやばいくらい穴だらけだなんて、誰にも知られるわけにはいかない。
敵にばれたらつけこまれるし。
味方にばれるの超怖いし。
(いやまあ、ばれてんだろうけどさ。)
何せうちの1年生は、頗る優秀なのだ。
それこそ、常勝を掲げる立海でレギュラーの座に居た上級生を押しのけられるくらいには。
多分戻ったら説教だ。
あそこが良くない、この時のカバーが雑、なんて。
(まあそれも勝ってからだな!)
「・・・うら!」
「30-0!」
「くそ!」
「焦るな、北野。」
「わかってるよ!」
そうは言われても焦るのが氷帝側のペアである。
なまじ弱くないだけに、余計にむかつくのだ。
(そっちが急造コンビなのは割れてるんだよ!)
元々補欠が入った時点で、ペアとしてはあまりよろしくないのはわかっていた。
ところがどうだよ。
「フッ!」
「ゲーム立海!4-1!」
(こいつら・・・・!)
ある意味では、芸のない集団なんだろうと思う。立海というところは。
コンビネーションがなっちゃいない(それでも平均以上のレベルではあるが)し、色々隙が見えまくりだし。
でも、それを全部地力で穴埋めしているのだ。
テニスは強ければ良いんだ。
強ければ勝つ、当たり前だ、なんて何処かの出版社の頭が言いそうな事を体現するようなテニス。
「くそ・・・くそ!」
「北野落ち着けってーーー」
「お前はなんでそんな落ち着いて居られるんだよ!」
「北野・・・」
「わかるだろ!馬鹿にしやがってあいつ等・・・」
仮にも自分はレギュラーになってから、ずっとずっと今の相手とペアを組んで来てたのに。
それなのにまさか、こんな正念場でぽっと出のコンビに負けるなんて惨めすぎる。お前らのダブルスなんか、いくら磨いたってその程度よってことだろ。
しかも、自分達はーーー
「北野!」
「!」
「頭を冷やせ。勝負を投げるな。」
そんな事言ったって出来ない。
相棒には悪いけど。
「何かあちらさん空気悪いねw」
「およ?喧嘩かにゃ?」
「喧嘩ではないみたいですけれど・・・やっぱり負けているとピリピリするんだと思います。」
「自分以外に人間居るもんね。八つ当たりでもしてるんじゃない。」
厳密にいうと八つ当たりとはちょっと違うのだが、空気が悪い事は観客席から見てわかる程度にはぴりぴりしている。
まあ負けてるんだから気楽にいけよと言う方が無茶だよねわかるよ、みたいな心境になる4人だが、実のところ4人はまだわかってないというか知らない。
氷帝学園の氷のごとく冷たい掟を。
それがわかるまで、もう少し。
「ゲーム立海!5-1!」