バシャ!
と涼しい音と共に顔から冷たい水が滴り落ちる。
「タオル。」
「ありがどう、おじたりぐん・・・」
一度洗うと、泣き腫らした顔は大分すっきりと落ち着いた。
綺麗なタオルが丁度あってラッキーだった、気持ちいい。勝手に汚してごめんね、と心中で部員に謝りつつ。
「ちょっとはすっきりしたやろか。」
「うん、大分すっきりしたよ・・・。」
なんだか顔と一緒に頭までちょっと冷やせたようだ。
まだ、悲しいし辛いけど。
でもさっきまでの、何もかもが頭でぐちゃぐちゃしてるような状態とは違う。
(いっぱい泣いちゃったなあ・・・)
凪いでたなんて気のせいだった。
気のせいというか、処理しきれなくてピンときてなかったのを「思ってたほどショックじゃないな」と勘違いしてただけ。
決壊すればみっともないくらい大泣きしてしまった。
「ごめんね、泣いちゃって・・・私選手でもないのに・・・」
「さっきも言うたけど、関係あらへんて。」
「そんな事ないよっ、だって私がこんなにショックなのに、」
「俺はそんな言うほどショックでもあらへんけど。」
「え”。」
そんな。何故。
と顔に書いてある風な可憐に、忍足はちょっと笑ってしまった。
「跡部とかもそうやろけどな。俺らはなんちゅうかこう・・・勝負慣れいうか、ある意味では負けに慣れてんねん。」
「慣れてる・・・」
「可憐ちゃんは、ほぼ勝ってるとこしか見てへんから、そういうイメージついてるんやと思うわ。でも、どんな強いプレイヤーでも、普通はそうなるまでようさん負けてるもんやで。」
可憐は言うなれば、まだ勝負の世界に入って日が浅いのだ。
今まで勝ちっぱなしだったのが珍しいだけで、普通は勝ったり負けたりを繰り返す。
確かに敗北の味は冷たく苦い。
しかしその冷たさも苦さも、ある意味では散々慣れ親しんだ味。
別に本当は慣れたいものでもないけれど、勝負というのはそういうものだ。
可憐はまだその領域に居ない。
勝つとか負けるとかじゃなくて、勝負の場にやっと慣れてきたかどうかくらいの所。
(まあ今回の負け方は、初めての敗北の形としてはショック大きかったやろな。)
今までずっと3タテで勝ってきたのに、まさかの3タテし返されるという事態。
ショックは左程でもないと言った忍足は、それは嘘ではないけどショックではなくて結構な焦燥を覚えていた。
贔屓目とか抜きに、氷帝は客観的に見て決して弱くない。
それどころか、強豪、全国区と呼ばれるに相応しい実力がちゃんとある。
それがまさか、あそこまでコテンパンにされるなんて思ってもみなかった。可憐には今勝負がどうのと言ったけど、シビアに見ると今回の試合は勝負というにはあまりに勝負させて貰えていない。
しかも、Sは実力順で入った1年生だなんてーーー
(・・・いや、今は考えてもどないしようもあらへんな。)
「・・・兎に角今日は残念やったけど、これから先も『もう二度と負けへん』いうのんは無理やわ。監督の方針とは結構真逆の事言うてまうけど、これからも俺らはどっかで負ける事もあるやろと思うし。」
「うん・・・」
「落ち込んでもええし、泣いてもええけど、大事なんはその後やで。」
「その後?」
「そう。
次は勝ったるで、って思って、また練習せなな。」
(次・・・!)
可憐はハッと顔を上げた。
そうだ。
これで終わりじゃない。
次がある。
今度こそ勝たないと。
「せやろ。」
「・・・うんっ!」
段々心が落ち着いていくのを感じる。
そうだ、落ち込むだけじゃいけない。
落ち込んだ後、行動を起こさないと。
「えへへっ。」
「?」
「忍足君って、次は勝つぞ!とか思ったりするんだねっ。あんまりそういうの拘らないんだと思ってたよっ。」
可憐の抱く忍足のイメージは、スマートでクール。
負けたら負けたで、まあしゃあないわくらいのものかななんて勝手に思っていた。
「俺結構負けず嫌いやで。」
「えっ!?」
「ほんまやて。まあ今は度を越した負けず嫌いが周りにようさん居るから、そんな風に見えてへんかもしれへんけど。」
でも負けず嫌いなのは本当。
ある意味では負けず嫌いが過ぎるから、努めてクールになろうとしてる所もある。
結局の所、負けず嫌いじゃなきゃ戦い続けることなんて出来ないのだ。
それは、皆どこか一緒だと忍足は思っている。