「このたわけどもが!」
正に雷という形容詞がピッタリの怒号に、4人はびくっと肩を竦めた。
ああ怖。
これだからバレるの嫌だったのに。
「いや・・・」
「その・・・」
「ごめんなさい・・・」
「なちゃい・・・」
「謝って済むか!」
そう、もう済まない。
今から学校行ったところで、6限の始まりに間に合うかどうかというところ。
「お前らは学生の本分をなんだと思っているんだ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・!」
「勉学は義務だ!お前らは義務を放棄しているのだぞ!」
「へい、仰る通りで・・・」
「こんな事を周到に計画する前に、もっとやらねばならない事をやらんか!」
「・・・・・・」
「そもそもだな、」
「弦一郎、そろそろーーー」
「うえ・・・うええええん!」
「「「「「「あ。」」」」」」
とうとう決壊した。
「どーじでそこまで言われないといげないのざー!おがーざん行って良いって言っだのにー!」
「紀伊梨ちゃん、紀伊梨ちゃん大丈夫ですか、落ち着いて、」
「紀伊梨ぢゃん約束じだもん!行くがわりにでずど頑張るって約束じだもん!うええええん!うえええええん!」
「お前の泣き方は相変わらず赤ちゃんだなw」
「紀伊梨、鼻垂らすなって。」
「お、おい・・・」
「あーあ、泣かしちまった。」
「当分泣き止みそうにありませんね。」
「これは気の毒じゃの。」
「まあ、そもそもは俺達を見に来てくれたわけだしな・・・」
「おい貴様ら!」
「「まあ落ち着いて。」」
こういう時、いつも最終的に真田を落ち着かせるのは幸村と柳である。
「弦一郎、仮病はいけないことだよ。いけない事だけど、この場合それを叱るのは親であり先生なんだから。俺達が怒る権利は無いといえば無いんだから、言い過ぎは良くないよ。」
「む・・・しかしだな。」
「お前たちも煽るのは程々にしておけ。」
「十分程々じゃね?」
「このくらいでかっかするのは罪悪感がある証拠じゃな。」
「煽り直すなよ!」
「まあまあ、真田君も悪気があってやったわけでは。」
そう、真田は別に悪気があるわけじゃない。
この真面目男は、良かれと思っていること以外はしない。
しかしだ。
「ひぐっ!ひぐっ!うえええ・・・ふぐっ!」
「ええと、ティッシュ、ティッシュは・・・」
「足りないwどうしよ、ハンカチかw」
「花凛さん、箱ティッシュ貰って良い?」
「うぐ・・・」
此処まで泣かれるとちょっと話が変わってくるというか、まるで自分がいじめしているよう。
そんなつもりじゃなくてもそうとしか見えないし、周りは泣ーかした泣ーかしたみたいな目で見てくるし。
「・・・五十嵐、」
「うあああああん!」
「ちょっと、泣き直すからあっち行っててよ。」
「真田君、まだもうちょっと落ち着くまでかかりますので・・・」
「うあああああん!」
「うるせえw」
「弦一郎。」
幸村の目が、言うならほら早く、と促してくる。
「・・・五十嵐。」
「ああああん!うぐっ、ふええええ・・・ひぐっ、うああああん!」
「わかった!もうこれ以上言わん、泣き止め!」
「ひぐ・・・ほんど・・・?」
「俺は嘘は吐かん。」
「う”ん・・・ひぐ、うくっ!ふぐ・・・」
しゃくりあげながら漸く泣き止んだ紀伊梨に、一同はホッと胸を撫で下ろした。
真田などは、泣かせた本人だけど一番ホッとした。女子に泣かれるのは苦手だ。
「つうかお前ら、親の許可取ってんのかよ?マジ?」
「当たり前でしょw」
「そうしないと、学校から来てないっつって連絡行って詰むじゃん。」
「それはそうだろうけど・・・」
「親はよくGOを出すもんじゃき。」
「滅多に言い出さない事ですし、それに約束もしてますから。成績は落としませんから、って。」
「成績を落とさない、ですか。」
「大きく出たな。」
普通1日休んだくらいで「大きく出た」などとは言わないものだが、言いたい柳の気持ちは全員が分かっている。
とはいえ、実はこれは的外れだったりもする。
何故なら、例え授業に出ていてもさして身についていないから。
「だけど、もうこんな事はしないでね。感心しないよ。」
「「「「はい。」」」」
「・・・・なあ、幸村君。」
「丸井?なんだい?」
「幸村君は、ずる休みって一回もした事ねえの?」
流石に一回くらいは誰しも身に覚えがあるんじゃないか、と思っての質問。
とはいえ、幸村ならないかもとはちょっと思っている。
「幸村はそのようなーーーー」
「あるよ。」
「「「「「え。」」」」」
「でもやっぱり、悪いことだから。帰ったら両親から説教されるし、それはもう仕方がないよ。何か良くないことをしたなら償わなくちゃいけない。」
事もなげに言う幸村。
幸村の考え方は、原則これである。
怒られることを回避しない。大人しく怒られるから、代わりに休むぞという思考回路。
「お前んとこの親、その辺厳しいもんなw」
「因みに、どういった事で休まれるのですか?」
「うん?そうだね、そう何度も休んだわけじゃないけれど・・・ああ。千百合が風邪をこじらせた時とか。」
「あー!覚えでるお、ゆっきー早退じたんだよねー!」
「しゃべる前に鼻拭けw」
「・・・・・」
「覚えておいでですか?。」
「覚えてない。」
「覚えとるんじゃな。」
「覚えてねえっつってんだろ。」
「ほ、他にもありましたよね!皆で幻のオムライス食べに行ったりとか・・・」
「何それ、食いてえ!」
「そういうのがどこかにあるのか?」
「はい。2駅向こうの所のカフェにあって、平日限定なんです。どうしても食べたくて、朝から学校を休んで行きました。」
1日限定10食なのに、内5食が昼一番に小学4年生の腹に消えたのを見た店主は、苦笑しながら明日は学校行けよと言ってくれたっけ。
懐かしい思い出だ。
「食事の為に学校を休むのか?」
「まあ、何に価値を見出すのかはそれぞれだ。平日でしか出来ない事も世の中には山ほどある。」
「おや柳君、理解のあるwさてはお前もやった事あるなw」
「ああ、ある。」
「おー!やなぎーはなんで休んだのー?」
「・・・・・」
「柳?どうしたんだい?」
「・・・いや、大した用ではなかったなと思い直しただけだ。友人に会いに行こうとして・・・しかし会う前に家の門限が近づいてきたの、で結局会わずに帰ってきてしまった。」
これは言い方が正確じゃない。
会う前に時間切れのように取れるが、実際は時間はある程度あった。
でも、置いていった側としてはどんな顔して会えば良いのかわからなくて、迷った。
そうしている間に帰る時間になってしまったのだ。
近況を知らなくなってずいぶん経つが、あいつは今も元気にテニスしているだろうか。
「ていうか、言い出したあんたもあるんじゃないの。」
「俺?あるぜ普通に。俺健康なのに学校行かねえ事も、結構多かったもん。弟が熱出したりしてさ。」
「丸井君の所の弟さん、まだ小さいですもんね・・・」
「そうそう。じっと寝てろって言ってその通りにする年でもねえし、しんどいからって愚図るし、片方は元気なもんだから遠慮なくうるさくするし、母さんはパートだし?」
「うわ、カオス。」
「ブン太のとこはそういうのが大変そうだよな。」
「私も覚えがあります。妹の看病で休んだ記憶が。」
「紀伊梨ちゃんもあるよー!おねーちゃんがインフルだから、紀伊梨ちゃんもかもってがっこー休んでた!」
身内が病気だったりすると、親はしばしば大人の都合で健康な方も休ませたりする。
まあしょっちゅうとは言い難いが、稀によくあるパターン。
「兄弟が居るとそういうのは多くなるの。」
「仁王は兄弟が健康でもサボってるよね?」
「・・・・」
「偶に、朝練が終わったらスッと学校を抜けてるのを見るよ。」
(これでも見られんように細心の注意は払っとるんじゃが)
「仁王!」
「勘弁してくれ、これでも小学校の頃に比べたら出席しとる方なんじゃ。」
「仁王君・・・」
「お前はブレねえなあw」
仁王には、学校というのは基本行くものという概念がないのである。
だって面倒だし。授業面白いかって言われたらそうでもないし。別に出なくたって勉強わかるし。
でも。
結構最近の出席率は良いのだ。
それこそ幸村は偶にと言ったが、昔は偶になんてもんじゃなかった。
中学に上がってからだ。学校行くと面白いなと思うようになったのは。
言わないけど。
「真田っちはがっこー休まにゃいのー?」
「無論だ。俺が健康且つ学校に赴かん時は、冠婚葬祭かもしくは学級閉鎖の時だけだ。」
「かんこんそー・・・?」
「結婚式とか、お葬式とかご法事の事です。」
「桑原は?」
「俺も休まないな。」
「真面目だねえお前もw」
「真面目というかその・・・その分授業料が無駄に支払われてるんだと思うと、行かないとなって気になって・・・」
「「「「「あー・・・」」」」」
立海は私立である。
それ即ち授業料がかかっているのだ、公立と違って。
これを言われると、ずる休みが急に罪悪感のあるものに思えてくる。
涼しい顔をしているが、仁王なんて内心じゃ結構今罰が悪い。
「すみませんでした・・・」
「もーしまちぇん・・・」
「なんかごめん。」
「申し訳ない。」
「え?え?どうしたんだ急にしおらしくなって?」
「ほら真田、ジャッカルみたいにしたら良いんだって。」
「確かに、良いお手本ですね。」
「どういう意味だ!」
「北風と太陽だよ、弦一郎。」
「真田は少々北風の方に偏りすぎるな。」
「桑原だから出来るような気もするがの。」
わいわい盛り上がるボックス席を見て、店主夫妻はホッとため息を吐いた。
「良かった、落ち着いたみたいで・・・」
「・・・俺が悪かったのかよあれは。」
「悪いとは言わないけれど、そもそも別々で来たお客さんに対して、みだりにお互いの所在を知らせちゃ駄目よ。あの子達だって年頃なんだし、色々あるんだから。」
そう、今回は偶々仮病で大会を見に行ったという話だったけど、それこそこれからもっと色々ややこしい事になる時もあるかもしれない。
思春期ってそういう時期なのだ。
「わかった?」
「へいへい。ちっ。」
「舌打ち禁止よ、勇。」