朝休み。
紫希は自クラスを出ていた。
「あのう・・・」
「ん?」
「一条さんは居ますか?」
「ああ、郁?居るよ、呼んだげるね!おーい、郁ー!」
「有難うございます・・・・」
はあドキドキしてきた。
心臓が口から出そう。
でも言わないと。
今日がラストチャンスだ。
「やあ、春日さん。どうしたんだい。」
「あ、一条さん・・・す、すみませんお呼び立てしてしまって・・・・」
「いや、構わないよ。それより、用件は何かな。」
「ええと、あの、そのう・・・」
人見知りには辛い。
落ち着いて落ち着いて。
深呼吸を一つ。
「あ、の・・・」
「うん。」
「ご迷惑でなかったら、その・・・LINEを交換して頂きたくて・・・」
「へ。」
「そ、それから!あの、もしも良かったらその、全国大会も・・・その、ご一緒しま、せん、か・・・」
言った。
そう、今日はもう夏休み目前の最後の登校日なのだ。
授業はもう午前中しかない。
今日の間にLINEの交換をしておかなければ、休みの間中コンタクトを取れない。それは困る。
(い、勢いで言ってしまいました・・・いえ!良いんです、これで良いんですよ、私みたいな意気地なしは勢いに任せてさっと言ってしまわないと・・・)
どうしよう、迷惑かな、とドキドキして返事を待つ。
鬱陶しいとか馴れ馴れしいとか思われませんようにと願う紫希の目の前で、郁は全く別のことを考えていた。
「・・・春日さん。」
「は、はい!」
「ええと・・・取りあえず、うん。LINEの件は分かった。僕としても春日さん「だけ」なら交流はやぶさかではないから、交換しよう。」
「あ、有難うございます・・・」
これは諸手を上げては喜べないが、それでも断られるよりはずっと良い。千里の道も一歩からだ。
(それに、丸井君はもう一条さんと随分話せる仲になってるみたいですし・・・)
「それから春日さん。」
「はい。」
「全国大会は・・・ちょっと保留で良いだろうか。」
「あ、はい!そうですよね、ご予定もあるでしょうし・・・すみません。なんだか今返事が欲しいみたいな言い方をしてしまって・・・」
「ああ、いや・・・うん。良いんだ。気にしないでくれ。うん・・・」
実際は予定なんてほぼ無い。
友人の林はそれこそ全国終わるまで部活にかかりきりだし、コンピューター部の活動なんて長期休暇中は0だ。それでなくても幽霊部員だし。
だから、行こうと思うならそれこそ今の段階からなら幾らでも都合がつく。
ただ、うん行く行くと言うのがちょっと・・・もとい、かなり躊躇われるのだ。
(いかんせん春日さんは押しが弱いからな・・・もっとぐいぐい来てくれたら僕も「そこまで言うならしょうがない」的な流れで行けるんだが・・・)
なんて自分勝手なことを郁が考えている間に、紫希はすっかり表情が落ち着いた。
良かった。用事が全て済んだ。
「では、私はこれで。すみません、お忙しいところを・・・」
「あ、待ってくれ春日さん。」
「はい?」
「・・・・・あの。」
「?」
「・・・・・・・」
「??」
噂を知っているか。
と聞こうかどうか郁は迷った。
正直聞きたかった。
知った上で自分を誘っているのか、それはおおいに気になった。
ただ、聞いてしまうと転じて「自分は知っているし気にしている」と相手に伝えることになる。それはすんごく嫌だった。
「・・・すまない、何でもないよ。呼び止めて悪かったね。」
「?そう、ですか?」
郁は聞かなかった。