Well done 1 - 4/8


・・・・のに、それはあっさり覆された。

「紫希ぴょん居ないのー!?!?」

校門前になんだかんだちゃんと揃っているいつものメンバー。
だが、一人不在。

「用事だって。」
「何の!?」
「さあ。」
「さあじゃなくてー!もっとちゃんと聞いてよ千百合っちー!」
「紫希が言ってこないんだからしょうがないでしょ。」
「でもー!」

「終業式の日に用事・・・?」
「まあ、色々あるのでしょう。」
「色々とやらが何なのかは知らんが、残るべきではないと思うが。」
「なんじゃ、そんなにカラオケに誘いたかったんか。」
「違う!誰がそんな話をしてるというのだ、体調の話だ!」
「ふむ・・・確かに、最近の春日はあまり健康状態が良好とは言えない。79.01%の確率で、慢性的な寝不足だな。」
「寝不足、か・・・・」
「幸村君、何か知ってる?」

知らない。
ただ、知らないながらに当たりはついてなくもない。
何せテニス部の中じゃ、幸村は紫希と群を抜いて知り合い歴が長いのだ。棗の様子も見て総合的に考えると、大体の見当はつくというもの。

「・・・まあ、元々度々春日は寝不足にはなるから。読書だとか作詞だとかでね。今もそうなんじゃないかな。」
「根を詰める性格ですからね。」
「まあ、無理もないといえば無いのかも知らんが。」

なんて口々に言う一同の後ろで、棗はひっそり天を仰いでいる。

(だから遊べって言ってるのにー・・・・)

本当に、こういう所頑固なのだ昔から。
休めと言って休んだ試がないし、遊べと言って遊んだ試もない。

しかし、今回は放置もちょっとどうかと思う。
海原祭近いのだ、だからこそ。

しかし、自分が行ったところで。

「・・・・あの。」
「ん?」
「お願いがありまして丸井様。」
「え、気持ち悪。何だよ急に?」
「気持ち悪い!?酷くない、ねえ!」
「まあ、いつもきもいから今更ではある。」
「世の中広しと言えど俺より邪険にされてる兄が居るだろうか・・・まあ良いや。あのねー、そのー・・・言いにくいんだけど、紫希を連れてきてくれないでしょーか・・・」

困った時のウィザード様頼み。

この件はビードロズの問題なだけにああ情けないという思いもあれど、自分がこれ以上言い募っても詮無い事は分かっている。

というか、その気になればふんじばって連れてくることは出来る。
でもダメ。そうやって連れて行った所で、紫希は楽しまないだろう。
棗が強制できるのは行動まで。心は思い通りには出来ない。

・・・って考えると、じゃあ丸井に頼んでみる?という思考がどうしても頭をもたげてくるのだ。

「ちょっと待って、なんで。そんなに連れて行きたいんなら、私連れて来る。」
「ダメなんだよ、それじゃ意味ないんだよ妹よ・・・!」
「だからなんでだよ!」
「自発的じゃないと意味ないからだよ!」

「・・・・・」
「待て。」
「五十嵐さん?」
「うぐ!」
「おい、お前はどこへ行く気だ!」
「いやー・・・あ!あの、紀伊梨ちゃんちょっと「手洗いにとお前は言うが、一番近い手洗いは逆方向だぞ。」
「お前も連れ戻しに行きたいのか・・・?」
「そーだよ!なんでブンブンなの、紀伊梨ちゃんにも出来るよ!やれるよ!」
「その張り合い精神はなんなんじゃ。」

誰が行ったって用が済むなら別に良いじゃんと真田や仁王辺りは思うのだが、紀伊梨にはそういう問題じゃない。
これはプライドの話だ。親友として、友達になってから3カ月とかそこらの男子にこんなあっさり差をつけられてたまるかという話。
まあこれは話したところで理解は得られまい。

「俺、結局どうしたら良いんだよい?」
「ねえ、丸井。」
「ん?」
「丸井はどうだい?」
「どうって?」
「行くのは嫌かい?面倒?」
「いや?別に面倒とかは。」
「行っても良いと思ってる?」
「うん。」
「連れ戻す自信は?」

丸井は幸村のこういう所、本当に凄いと思う。
ピンポイントで核心を突いてくる。


「・・・実は全然なかったり?」


幸村精市。
この、時に何考えてるんだかわからないどこか不思議な友人は、今みたいな変なタイミングでにっこり笑う。

「じゃあ丸井、悪いけど頼まれてくれるかな?」
「今俺、自信無いって言ったつもりだったんだけど?」
「うん。でも、きっと上手くいくと思うんだ。なんとなくね。」

丸井は今初めて、「なんとなく」で指針を決められるのが存外頼りないことを知った気がした。

「ねー、なっちん!行って良いっしょ、」
「だからダメなんだってば!」
「じゃあ連れ戻さないでも良いじゃん。」
「それも駄目!」
「「なんで!」」
「だーかーらー、」
「おい、お前もお前だぞ黒崎棗!事情があるのなら説明せんか!」
「出来るならやっとるわい!」
「言えないなりに、もう少し何か話した方が良いのでは?」
「そうだな。駄目だ駄目だばっかり言ってても纏まらないし、」

「ねえ皆。」

どんなに皆がわいわい騒いでいても、幸村の声は不思議と通る。とても便利。

「丸井に任せようと思うんだ。良いよね?そもそも棗はそのつもりだったんだろう?」
「おおお・・・流石、お話が早くていらっしゃる幸村様・・・!」
「やだ!」
「まあまあ、落ち着いて。もう一つ提案があるんだよ。」
「「「「「「?」」」」」」
「丸井。」
「ん?」
「説得は原則、15分まで。それでどうかな?」
「は!?」

今のは!?は丸井ではない。棗だ。

「15分?」
「そう。そしてこれも但し書き有りだ。15分経った時点で、説得に手ごたえがある・・・もう少し時間をかければ連れていけそう、と踏んだら延長は可。」
「無理そうだったら?」
「不可。15分で切り上げだ。千百合に五十嵐。」
「・・・・・」
「にゃーにー・・・」
「2人とも、自分達を差し置いて丸井だけ春日と遊んでるようなのが気に入らないんだろう?これならどうかな?たった15分だよ。延長したって、そこまではかからないだろう。」
「・・・・まあ。」
「千百合っち良いの!?」
「妥協案としては、かなり譲って貰ってる方じゃない。」

(おお、大人しゅうなったぜよ。)
(見上げた手腕だな、流石は幸村!)
(凄え・・・丸め込んでる・・・・)

しかし心穏やかでないのが此処に一人。棗だ。

「幸村・・・」
「うん?」
「せめて40分・・・」
「駄目だ、15分。」
「15分であの頑固者に何が出来るんですかー!」
「頑固者?春日さんは素直な性格だと思いますが。」
「行動は素直かもね!でも彼奴基本思ってることは曲げないから、ああ見えて頑固なんですよ!」

今回は、連れていきさえすれば良いというものじゃない。
それこそ、そんなんで良いんだったら、皆で押しかければ良いのだ。

でもそうじゃない。
紫希が何も心づもりなく、全力でカラオケ楽しめるように持っていかないといけない。
他の人間が相手でも相当難しいのに、紫希を相手取ってそれをやれなんて無茶な。

「って、言ってっけど?」
「良いよ、無視してくれ。春日が頑固なのはその通りだから、15分でどうにかならないのなら、40分でも1時間でも同じだよ。」
「ま、そうかもな。」
「よし、じゃあ決まりだ。丸井は行ってくれ。俺達は先に行ってるから。ほら五十嵐、どこへ行くんだか先導してくれないと。」
「はーい・・・」
「ほらもう、決まったんならぶー垂れるな。」

「しかし、少なくとも丸井君は遅れて来るわけですね。」
「ああ。ブン太が来るまで何か他の事してても良いな。」
「まあ待つとしても15分かそこらじゃしな。」
「先に始めていれば良いのではないか?」
「真田、カラオケという所は居る時間と料金が比例するんだ。」
「そうなのか・・・」

なんて言いながら散会の段取りを決める一同。

仁王が何気なく言ったことは、全員同意していた。
そう、たった15分かそこら。
延長するとしてもそんな1時間も2時間も延長はしないだろうし、どうせ今日はもうフリーなのだ。だから好きに待っていれば良い。

と、思っていたのだが予想外の事態になってしまう事を、一同はまだ知らない。