Well done 1 - 7/8


一同の向かったカラオケは、学校から5分の距離。
とは言っても、徒歩ではなく電車で5分なので別にそう近いわけではない。一駅は離れている。

「ブンブン達来るまで何してるー?」

幸村は説得に15分と言ったが、丸井だって音楽室に移動する時間があるだろうし、行き違いとかですぐには合流出来ない場合もある。諸々含めての総時間差、おおよそ30分くらいは見ておくべきと紀伊梨以外は思っていた。紀伊梨はそこまで考えていない。

「あ!ボーリングしよーよボーリング!」
「時間がかかりすぎる確率100%だ。今度にしろ。」
「えー!」
「真田なんか希望あるかw」
「俺は勝手がわからん、任せる。」
「まあ弦一郎はそうだろうね。」

「ライトに出来るのはやっぱりゲームか?」
「そうなるでしょうね。何分早いですし、切り上げも簡単です。」
「早い?・・・ああそっか、早いのか。そっか、普通はそうね。」
「何か含みがある言い方じゃな。」
「ゲームって偶に長丁場にならない。ステージ進行ありのやつとか。」
「いや、まあ・・・追加で金を入れていけば、延長はどこまででも出来るだろうけど。」
「そうじゃなくてさ。死ななければ続くじゃん、あれ。」
「「「・・・ああ。」」」

ちらりと幸村の方に向く視線。

「?どうしたんだい?」
「ゲーム上手いよねって話してた。」
「俺が?そんなに上手でもないよ。」
「「「それは嘘!」」」

幸村精市という男は基本何でも出来る男だが、それは例えばこういうゲームみたいな俗っぽい事も例外ではないのだ。
何度か皆でゲーセンに行った事もあるが、基本勝つ。

「そういえば前も、スマブラが強いとか言うとったの。」
「そー!そーなんだよー!もー、ゆっきーとゲームやってもゲームになんないよー!」
「そんな事ないよ。」
「では、幸村君、試しに何かやってみてはくれませんか?」
「良いよ、ご期待に沿えるかは分からないけどね。でも何をやろうかな・・・」

少女は、このやり取りを横目で見つつにやりと笑った。
面白い。


「おい、そこのお前!」


一同が声に振り向くと、半袖短パン野球帽ルックの、ポ/ケモ/ンに出てきそうな少年のような恰好をした少女が居た。

少女なのはすぐに分かったものが何人か居た。
恰好は男でも、この年で喉仏が無いのは女子だ。

「お前!俺と勝負しろ!」
「俺が?君と?」
「そうだ!」

(俺?)
(女子だよな?)
(俺女か。)

「どうして?」
「だってお前、ゲーム強いんだろ?って事は、倒したら名が上がるじゃないか!」
「俺を倒しても名は上がらないと思うけど。」
「なんで?」
「なんでも何も、俺は別にゲーマーでもなんでもないからね。ゲームの世界で名前が通ってるわけでもないし。」
「え?強いのに?」
「そんなにしょっちゅうゲームするわけじゃないから。」
「・・・・・!」
「?」
「・・・お前、あれだな!ゲーム界隈に彗星のごとく突然現れた、無名の天才っていう設定でいきたいんだな!くー!その手があったか、それも良かったなー!」

「えっほ!くくく・・・w」
「おいなっちん。こっちも笑うのを我慢しとるんじゃ、ちいと遠慮しんしゃい。」
「無茶言うなw」

「ここまで正統派の中二病初めて見たわ。」
「中二病・・・?」
「おい、中二病とはなんだ?中学二年生になると罹る病気なのか。」
「当たらずとも遠からじだ。」
「まあ、精神的な麻疹のようなものですから。」

「・・・・・」

各々様々な事を思う中、紀伊梨はじりじりと少女に近づいていく。

このタイプの人間は初めて会った。
なんだか動きが未知の生き物に近付いていくようなものになるのも無理はない。失礼ではあるが。

「ねーねー。」
「あん?」
「皆が言ってるけどえーと、中二?中二病?なの?」
「中二病?俺、小6だけど。」
「およ?ちゅーがくせーじゃないにょ?」

この少女ーーーかつて歩道橋の上で可憐と会い、女だとあっさり見破られた中二病の少女の実年齢発言に、立海勢は別の意味でざわめいた。
「中二」病なのにまだ小6。流石子供と言えば良いのか、ある意味大人と言うべきか。

「じゃーじゃー、紀伊梨ちゃん達より年下だね!」
「え?」
「紀伊梨ちゃん達は、もう中学生なんですよっ!」
「ほほう・・・こりゃあ都合が良いぜ。」
「え?なんで?」
「そりゃあ勿論、倒すなら年上の方がかっこいいからな!ゲーム界に彗星の如く現れた天才の・・・の、お前!」
「・・・俺だよね?」
「そう、お前!しかし、実はここにも一人同じように突如として現れた天才が!それは俺!かくして天才同士はぶつかり合い、お前は俺に敗れて俺の伝説の1ページとなるのであった・・・うん、これ良いな!これで行こうぜ!な!」

「ライブ感がwやべえw」
「ここまで突き抜けられるといっそ清々しいな。」
「どういう人生を歩んだらこうなれるんじゃ。」

「・・・やべえ、言ってる意味が一つも分かんねえ。そこそこ日本語わかるようになってきたつもりだったんだけどな・・・」
「気を落とすな。分からんのは俺も同じだ。彼奴の言ってる事の方がおかしいのだ。」
「まあ、おかしいかおかしくないかと言われますと。」
「おかしくない所一つもないからね、今の所。」

突っ込みどころが多すぎて、もう何か半分どうでも良くなってきている者がちらほら。
特に渦中の幸村は、なんだかよく分からないけどやりたい事があるならもうお好きにどうぞ感がある。

「兎に角、君は俺とゲームをしたいという事で良いんだね?」
「おう!」
「ルールはどうする?」
「ルール?」
「どのゲームをするとか、何回するかとか。好きに決めてくれていいよ。俺は従おう。」
「・・・・・」
「?」
「なあ、今のセリフかっこいいから俺が言い直しして良いか!?」
「好きにおしよ。」

「もう腹が痛いw」
「ついてくの怠そう。」
「そりゃあそうじゃろうな。」
「正直な所、まともに相手をしてあげている分幸村君はお優しいと思いますよ。」

「??よくわかんにゃいんだけど、ゆっきーとゲームでしょーぶするって事でいーんだよね?」
「多分・・・?」
「おそらくだが。」
「そのくらいの認識で良い。ああいう手合いの言うことは、あまりまともに考えない事だ。」

中二病患者の中二発言なんて、半分は意味がないものと捉えるくらいで十分。いちいち考えていたって、本人もあまり深く考えていないのだから。
ましてあそこまで重症だと尚更。

「で!そーだな、どのゲーム・・・何が得意だ?」
「俺は別に、何が特別得意だとかは。」
「それはそれで困るな・・・なんせ俺はゲームの天才だからな。俺の得意分野じゃお前が可哀想だな?」
「君の得意な物はなんだい?」
「そりゃあ全部に決まってるだろ!俺はゲーム界に彗星のごとく現れた「強いて言うなら、で良いから。」・・・・強いて言うなら・・・・格ゲーかな!」

早くもあしらい方を掴み出す幸村。
中二病患者のあしらい方なんて、まさか覚えることになろうとは。一生要らなかった気もする。

「じゃあそれで良いよ。」
「なんだと!お前、ハンデのつもりか!」
「そういうわけじゃないけど。」
「それはフェアじゃないだろ!お前も何か強いて言うなら得意なのをあげろよ!」
「そうは言っても・・・そうだね、じゃあ・・・」
「来い!俺はどんなゲームでも「麻雀かな。」
「・・・・・」
「麻雀。」
「・・・・・」

「wwwwwwあの顔よwwww」
「其処を突かれるとは思っていなかった確率98.90%だな。」
「いや、確率がどうの以前に顔に出過ぎてて・・・」

「およ?ゆっきー麻雀得意だっけ?」
「いや、今言った通り得意も不得意もないんじゃない。」
「おそらく、可も不可も無いからこそ強いて言うなら相手の苦手そうな分野を上げたのでしょう。」
「成程。流石は幸村だな。」
「まあ見るからに頭を使うゲームは不得手そうぜよ。」

その通りだった。
不得手「そう」ではなくて、少女は実際不得手だった。

「・・・麻雀はなし!」
「どうして?」
「それはほら、あれ・・・ほら!天才同士の派手な対決にはちょっと合わないだろ!何やってるかいまいちわかんないし!」
「あ、分かるー!麻雀っていまいち見てて楽しくないよねー!」
「だよな!ほら!なしなし!麻雀以外!」

麻雀以外とか言ってるが、例えば此処でクイズだとかテトリスだとか言ったらまた「地味だから」と言って却下されるのだろう。

「派手なゲームというと、例えばなんだい?」
「色々あるだろ!ほら、ポ/ップ/ンミ/ュージ/ックとか!」
「じゃあそれで良いよ。」
「む!・・・まあよし!」

じゃあ、という文言が気に入らなくて「じゃあって何だよ」と言いかけたが、又麻雀を押されても困るので少女は引っ込んだ。

「じゃあ格ゲーとポップンで勝負だ!」
「引き分けになったら?」
「え?」
「1勝1敗になったらどうするつもりだい?」
「あー・・・あ!じゃあもう1個ゲーム追加しようぜ!何か!」
「何を?」
「何でも!派手で、後なるべくどっちかだけが得意とかそーゆーの無い奴な!あ!そーだ、そこのお前!」
「ん?紀伊梨ちゃん?」
「そう!お前とはゲームの好みが合いそうだからさ、何か3つ目考えといてくれ!俺は早くゲームしたい!任せた!」
「おお!えーと、何かしょーぶのゲームを探したら良いんですな?格ゲーとポップンはやるから、音ゲー無しで格ゲー無しで後麻雀とかも無しで、うーん!DDRがいーけど被っちゃうなー!」
「はいはいはいwじゃあ俺審判に立候補wまあほぼ要らないとは思うけど、何かあった時用にw」
「乗るのかよ。」
「良いじゃん、何か面白そうじゃんw」

此処で棗が「面白そう」とか言ったのがいけなかったのかもしれない。

なんだかんだイタい脳内設定の下、年上とゲームで勝負する。それだけで少女は十分といえば十分だったのに、その一言が切っ掛けで、彼女は絶対切ってはいけない方向に舵を切ってしまった。

「面白そう・・・」
「?」
「・・・よし!より面白くする為に、何か賭けようぜ!」
「何を?」
「何か!そーだなー、何かでかいもんが良いな!派手でー、かっこいい感じの・・・あ!

良いこと考えた!好きな女とかどうだ!」

そんなむやみに、あたら若い命を散らすこともなかろうに。

「あ!でも俺は好きな女居ないからー・・・じゃあ俺はこの財布を賭けーー」
「却下。」
「え?」
「断る。俺の恋人は賭け事の賞品にされて良いような人じゃないんだ。」

幸村からすればとんでもない話である。
何故千百合がそんな目に遭わなければならないのか。ましてこんな、そうなる必然性0の状況下で。

「・・・・・」
「そういう条件なら俺は勝負しない。どうしても何か賭けるなら他の物にしよう。」
「・・・他の何?」
「何でも良いよ、俺に関する物ならね。それこそ君と同じように財布でも構わないけど、ゲームのベットに人間を置く趣味は俺には無いよ。まして恋人なんてあり得ない。」
「・・・・・・」

「おー!ゆっきーかっこいー!」
「こういう時に、即座に毅然とした態度が取れる所が流石ですね。」
「素直に凄えよなwなかなか出来んぞあの対応はw」

「む、相手が黙ったな。」
「まあ・・・この場合黙るよりどうしようもないんじゃないか?」
「向こうとしては、かなり軽い気持ちでーーーそれこそ「聞こえがそれっぽい」だの、そういう理由で持ち掛けただけなのだろうな。」
「やらかしたの。まあある意味では未遂で止まっとるダニ、命拾いは出来たようじゃが。」

「・・・・・」

千百合はこういう時どういう顔をして居れば良いのか分からない。
物凄い恥ずかしいし照れくさいのだが、幸村自身はそれはもう真剣に自分の為に言ってくれてるのだから、恥ずかしいから止めてと止めるのも却って失礼な気がするし。
でもかといって、素敵!流石!有難う!と手放しで人前で褒めるのはあまりにもハードルが高すぎて無理。
結果、こうして大人しく黙り込んで、事の成り行きを見ているしかなくなる。
一応当事者なんだから、何か言った方が良いかとも思うのだが。

「・・・・・・」

少女は目線を下げて・・・俯いているのではなくて、思案した結果目線だけを下げて何か考え込んでいたが、その内きろりと視線を戻した。

「お前はそいつの事が好きなんだよな?」
「そうだよ。」
「だから賭けの対象にされたくないと。」
「そう。」
「それは負けるかもしれないからか?」
「それ以前に失礼だからだよ。人を物扱いしているんだから。」
「ふむ・・・成程な。うん、それは俺が悪いな!ごめん。」

そこは素直なんだな、と全員が思った。
イタい上にアクの強い少女だが、根はどうやら然程悪人というわけではないらしい。

「じゃあ財布だ!お互い、財布を賭けようぜ!」
「良いよ、それなら乗ろう。」

「おおお!やばいおやばいお!ゆっきーのお財布がピーンチ!」
「まあ、これでデート代とかすっ飛んで行くのもあり得るからなw間接的には「好きな女を賭けてる」状態と言えなくもないのかもねw」
「というか、もし負けたらそれ以前に今日これからのカラオケ代が出せないだろ・・・」
「そうなると頭割りで俺達が建て替えるしかない。とはいえ、人数が多いから一人一人の負担はそう大きくもない。安心して良い。」

「しかし財布とは大きく出たもんじゃな。」
「幸村家のお小遣いのシステムは存じ上げませんが、一時的に0になるリスクはあるわけですからね。」
「問題ないだろう。勝てば良い。」
「そう簡単に言うがな。」
「俺はあまりよく知らんが、幸村はこういった事も上手いのだろう?」
「うんまあ。多分勝つけどね・・・ん。」

スマホが一斉送信で動いた。

発信者丸井。

『取りあえず延長で!』