「・・・おし、送信。」
「あの、今のアラーム・・・」
「ん?ああ、ほら。15分のやつ。」
「え?もう・・・」
本当だ、15分経ってる。15分早い。
「どうする?」
「え?」
「カラオケ。行く気になった?」
「あ・・・えっと・・・」
なったか、と聞きつつなったんだろうなという確信が丸井にはあった。
顔つきがさっきと随分違う。
それは紫希自身もそう自覚がある。
さっきと違う。
いや、技術的には何も進歩していないんだけど、明らかにさっきまでの自分とは違う。
(楽しかった・・・)
初めてちゃんと掴んだ気がする。
音楽が形になる姿。メロディが乗る曲の全貌。
今まで棗と必死にやってきた、いわば土台の部分。下地。礎。
その上に、仮のものとはいえ乗るべき何かが乗ったのを感じた。
勿論、さっきだって間違えたし穴だらけだった。
走ったところも遅れたところもあった。
でも、あれで良いのかも。
あれで良いのなら。
今ならきっと、楽しんでやれる。
(棗君が言ってらしたのはこういう・・・いえ、これじゃなかったとしても良いんです。私には、これが私の正解なんです。)
棗に話してみよう。
それじゃ駄目って言われるかもしれないけど、そうする価値はある。
「春日?」
「あ、はい!ええとカラオケですよね、はい、行きたいですけど・・・」
「けど?」
「・・・あの、延長ってどれくらい出来るんですか?」
「え?延長って説得の延長?」
「はい・・・」
「どれくらい・・・別に決めてねえけど。なんで?」
「あ、いえ!急ぎなら・・・」
「そこまで急ぎでもねえけど。どうせ今日は午後が丸々空いてんだしさ。」
「・・・その。」
「うん。」
「・・・丸井君が良ければ・・・・」
「おう、良いよ。」
「まだ言ってません。」
「ははは!で?」
「・・・もう一回、歌って頂きたいんです。駄目ですか・・・?」
丸井は目を丸くした。
もう一回。
歌えと、自分に。
「・・・それって、今のをもう一回やりたいって事?」
「はい・・・あの!私、あの、今ので何か、凄く大事な感覚を掴んだ気がしていて・・・その、勿論私が急に上手くなったわけでもなんでもないんですけれど!それは分かってるんですけど、でも・・・棗君が言ってた、資格の話がやっとちゃんとわかった気がして・・・」
「資格?」
「ビードロズの基本方針です。楽しくやろうっていう・・・私、忘れてたというか・・・忘れていた上に、わかってなかったんです。皆で音楽をやるっていう楽しさが・・・」
これは作詞ばかりしていたからわからなかった事。
例えお手本で歌を歌っていたとしても、自分はいつもお手本でしかなくて、言うなれば仮初のもの。
自分の演奏する土台にメロディを乗せて貰える楽しさがやっと分かった。
きっとこれなんだ。自分が知らなければいけなかった事は。
「皆と楽しむ自身ならあるとか言っておいて、全然分かってなくて・・・お恥ずかしいんですけど・・・」
「ははは!ま、今わかったんなら良いじゃん。で?」
「え?」
「後もう一回?」
「あ、はい。丸井君が良ければ・・・」
「俺は良いけど、一回で良いわけ?」
「え・・・」
「本当は?」
「・・・・ご迷惑でなかったら、二回・・・」
「からの?」
「も、もう良いですから!二回もして頂ければ十分で・・・」
「良いよ、どうせなら四、五回くらいやっちまおうぜ?こーいうのって、出来てる内にさっさと身にしとかねえと。」
「でもカラオケが、私は良いとしても丸井君のカラオケの時間が・・・」
「・・・くっ、」
「・・・丸井君?」
「ぷっ・・・ははははは!あはははは!」
「どうして笑うんですか・・・!」
「だってお前、カラオケより贅沢な事してんのにカラオケ行かないんですか、はないだろい?」
「贅沢?」
「生音演奏じゃん?」
そうかもしれないけどさ。
「・・・拙い伴奏ですけど。」
「良いよ。俺はそれが良い。」
後20分くらいで学校出るから、そのくらいでシクヨロ。
パパッとLINEを打ったら、二回目を急ごう。