ピシュ。
と幸村がボタンを押す音がする。
《タイムアウト!》
《K.O!》
《ウィナー・・・臥鬼!》
この流れを綺麗に後4回繰り返し、幸村はあっさり勝った。
「やったー!ゆっきーが勝ったー!」
「勝ったっていうか。いや、勝ったんだけどさ。」
「どちらが初心者だか分からんな。」
真田のその一言は、完全に少女をプッツンさせた。
「おい!」
「なんだい?」
「なんでだよお前、おかしいだろ!お前、嘘吐いただろ!これプレイした事ないとかほざきやがって!」
「本当だよ。負けたからって嘘吐き呼ばわりは止してくれないかな。」
「負けたからじゃねえよ!初心者の動きじゃねえだろ!」
「ある意味、怒り方はまともではありますね。」
「初心者の動きじゃないっていうのはその通りだもんな・・・」
「信じて貰えんのも無理はないがの。」
自分達だって、何も知らない一ギャラリーとして成り行きを見ていたら多分少女側の方に同意しただろう。それくらい幸村の操作は自然だった。
これが初回で出来る男だから、幸村とまともに対戦ゲームをする気にならんとビードロズ達は思うのだ。
「まあまあwどうどうw」
「止めるな審判!」
「おい、さっきもやったぞこれwまあ落ち着いてw結果は変わらないよw」
「んだとお!?」
「そりゃそうでしょwだっておたくは、幸村が初心者だと思って手加減してたっていうのw」
ピタ。
と少女の動きが止まる。
「・・・・・」
「そうでしょw此奴が初心者なのは本当だけど、仮に百戦錬磨のリアファイのプロだったとしても、別に貴方の戦闘スタイルとか意気込みがさっきと変わるわけでもなんでもないでしょw」
「・・・・くそがー!」
「審判、必要だな・・・」
「ああ、よく働く。おかげで話がスムーズだ。」
「というか、彼奴も兄貴が審判な事に異論はないわけ。」
「まあ本人が審判と呼んでいるあたり、お認めなのでしょう。」
「・・・おい。」
「んお?」
「俺の気のせいやも知れんが、先から何か見られている気配が、」
「気のせいでもないじゃろうな。」
「なんだと?」
「ギャラリーじゃ、ギャラリー。目を引いとるんじゃろ。それでなくてもあの中二病が騒がしいしの。」
「あー。でもゆっきーが外でゲームするのも目立つよー。ダブルで目立ちますなあ!」
「他人事みたいに言うとるが、お前さんもじゃぞ。」
「あり?」
土台、これだけの人数であるというだけである程度は普通にしてても人目を引くのだ。
それなのに騒がしいわ、美少女が居るわゲームべらぼうに強い美形の少年が居るわ、もう見るなという方が無理があろう。
「さあw騒がしくなってきましたよ、サクサク行きましょうw」
「ああ。次はリズムゲームだったね?」
「・・・そうだよ!くそ!次は絶対負けないからな!見てろよ!」
びしい!と指さす少女だが、幸村はちょっと困ったように笑うだけでさして動じもしない。
そしてその涼しい顔がまたギャラリーを呼ぶのだ。
「ね、ね、あの子かっこよくない?」
「中学生?」
「あれ立海の制服だよね?」
「こっち見ないかなー!」
(面倒くせーもう・・・)
偶に千百合は思う。
自分は面倒なの嫌いな筈なのに、どうしてこんな面倒ごとに好かれている人を恋人にしちゃったんだろうかと。まあ誰が悪いわけでもないからしょうがないんだけど。
「千百合っち、気にしちゃダメですぞ!」
「気にはしてない、そもそも。面倒なだけで。」
あんまり、と語尾に付け加えるのは止めておいた。
そりゃ全然気にならないというと嘘になるよ、付き合ってるんだもん。
「ん?」
「ん?」
くりん、と少女が千百合の方を向いた。
「なんだ、さっき言ってた好きな女ってお前か!」
「なんだって言われても、私別にそうじゃないって言った覚えないし。」
「でも、何かあるだろ!」
「何かって何よ。」
「好きな男の財布がピンチなんだぞ!戦ってるんだから応援の一つもしろよ!素寒貧になったらどーするんだよ!」
「すかんぴ・・・?なーに?」
「素寒貧、ですよ五十嵐さん。」
「まあこの場合、一円も持っていない貧乏くらいに思って居れば良い。」
「おお!なるへそ!」
「確かに、財布を賭けてるわけだから・・・」
「素寒貧になるやも、というのは当然の指摘ではあるな。」
「まあ、負けたらの話じゃき。」
そう、負けたらの話。
勝ったら逆に素寒貧になるのは少女の方。
そして、勝ったらとか負けたらとかそういう話になると。
「・・・別に、わざわざ気合い入れて応援しなくてもこっちが勝つと思うし。」
おお、という声と共に背中からどよめきが広がる。
「彼氏の事信じてるのねー・・・」
「良いなあ、純愛・・・青春・・・」
「お前もあれぐらい可愛げがあれば・・・いってえ!」
「あのくらいの美形になったら私だって可愛げ出るわよ!」
(違う、そうじゃない。)
確かに信じてるけど、それは恋人だからとか純愛だとかそうじゃない。
例え恋人じゃなくたって、こっちサイドの人間は皆幸村ならまあまず負けないと踏んでいるに違いない。
幸村精市とはそういう男なのだ。