Well done 2 - 5/6


その通りだった。
幸村は今、とても嬉しかった。
思いがけず、練習の成果を試せる時がやってきたのだ。

(これはテニスではないにせよ、普段の部活だとここまでラリーがちゃんと続くことはほぼ無いから・・・弦一郎となら偶には続くけど、そういつもいつも弦一郎とばかり試合練習してはいられないし。)

さあ試すぞと意気込めば意気込むほど、幸村の頭は冴え返り尚一層集中が増す。
正のループである。
少女の側としてはたまったもんじゃない。

「ふっ!」

ガシュ!

パッパラ~♪

「はっ!」

ガシュ!

パッパラ~♪


「~~~~~~~~~~~!」


「相当頭に来てるわよあれ。」
「そうでしょうね。頭にもくるでしょう。」

「頑張れー!どっちも頑張れー!」
「おい、幸村の応援をせんか!「どっちも」でどうする!」
「だってー!」
「まあ無理もないというか・・・」
「気持ちはわからんでもないが。」
「かなり一方的じゃからな。」

それでもまあ、吹っかけてきたのは自分なんだから甘んじて受け入れてよ・・・なんて思いつつ、それでもやっぱりちょっと可哀想かなともちょっぴり思いつつ。

こんな事なら財布なんて言い出さなければ良かったのにねなんて一同は思うが、少女の方は最早財布とかどうでも良くなっていた。

これはプライドの問題だ。
この自分が、1点も取れないでおめおめと引き下がれるか。

「負けてたまるか!負けるもんか、負けるもんか・・・・てえりゃあああああ!」

「「「「「「「「「あ。」」」」」」」」

「あ!」

ガキィーン!と鋭い音がして、パックが飛んでいく。
文字通り、フィールドを飛び越して場外に。弾く勢いが強すぎたのだ。

ギャラリーの方に向かって、ギュイン!と勢いよく飛んでいくパック。


「きゃあっ!」
「とっ!」


危ない、人にぶつかる。
そう思われたパックは、スクールバッグにボス!と音を立ててダイブした。

「「「「「「丸井!」」」」」」

「よ!ただいま!」
「遅れてすいません・・・」

幸村は心底ホッとした。
負けるより何より、怪我人の方がひやりとする。

逆に、いつだったかのゲームの日に仁王に怪我をさせてしまった時はそんな心のコントロールが出来てなかったことの表れでもあるが。

「大丈夫?」
「はい、有難うございます・・・」
「丸井、有難う。助かったよ、ナイスタイミングだ。」
「おう!で?勝負ってまだやってんの?勝ってんの?」
「ああ、まだ続いているんだ。悪いけれど、もう少し待ってくれ。」

なんていう幸村だが、もうほぼほぼ完勝であろうことは、ギャラリー含めこの場にいる全員がわかっている。
それは本人も例外ではなかった。

「おい、そこの女。」
「おん・・・え?わ、私ですか?」
「そうだ。ごめんなさい。パック飛ばしたのは俺です。」
「い、いえ!私当たってないですし、謝るのなら鞄にぶつかった丸井君に・・・」
「それもそうだな。そこの男、ごめんなさい。」
「ん?まあ良いけど、もうすんなよ?」
「頑張る。」

「ああいうところ素直なのは好ましいね。子供らしい可愛げがあるというか。」
「まあね。悪い時は悪かったって正直に言えるのは良いんじゃない。」
「ちょくちょく中二病混じってるけどなwそこの女とか男とかw」
「あんな言葉遣いのやつ、男子でも滅多に見ないぜ・・・」
「男らしいというのを何か勘違いしているんでしょうね。」

そもそも謝る側が謝られる側に向かって「そこの女」とかくそ偉そうだが、まあ紫希も丸井もその辺のことをあまりぐちぐちいうタイプでもない。

「つうかお前、女子?男子?」
「女子に見えるかよ!」
「割と見えるけど?」
「あ、あの・・・機械が鳴ってますけど、戻った方が・・・」

「やばい、ちょっとw2人とも戻ってw」
「やばやばー!タイムアウトになっちゃいますぞ!」
「そうだね。それじゃあ再開を・・・」

「いや、良い!」

「「「「「「「「え?」」」」」」」
「今回はもう俺の負けだ!人に怪我させるのは俺は嫌だしな!悔しいけど、ゲーム界に彗星のごとく現れた天才の称号はお前に譲るぜ!」
「・・・そう。」

正直要らない気持ちでいっぱいなのだが、要らないというとこの手の手合いはまた噛みついてくるであろうことを予期して幸村は黙っておいた。

「急に態度が変わったな。」
「人に怪我をさせそうになって、頭が冷えたのだろう。」
「はっ!そうだよ紫希ぴょん!紫希ぴょんもカラオケにいらっしゃーい!」
「ふふふっ!ごめんなさい、遅れてしまって・・・」
「ううん!あ!ねーねー。ごよーじ終わったのー?」

用事。
終わったのかどうかと聞かれると。
そうね、今ならちゃんと答えられる。

「・・・はい!終わりました、もう大丈夫ですよ。」
「やたー!」

「引くわー・・・」
「なんでお前が俺に引いてるんだよ?」
「人間、有能が過ぎると引かれるってもんだぜブンブン君。」
「お前が連れて来いって言ったんだろい?」
「いや、ぶっちゃけ15分縛りが出た時点で出来ると思ってなくて・・・」
「それは俺もそうだけどさ。」

というかぶっちゃけ話をすると、出来るとか出来ない以前に土台やる気がなかったとか言ったら怒られるだろうか。怒られそうだな。

「・・・・・」
「ふふっ。色々言いたいことはあるだろうけど、取りあえず今は引き上げよう。やっと全員揃ったんだ。」
「そうですね、先ずは当初の目的。カラオケです。」
「カラオケ・・・あ!そういえば財布、」
「ああ、そうか。負けたら財布を譲るんじゃったな。」

その約束はどうするの、と言いたげに皆の視線は幸村と少女に集まる。

正直、天才の称号と同じくらい財布も要らない幸村だが。

「持って行けよ!おら!」
「要らないと言ったら?」
「ああ”!?てめえ敵に情けかけてんじゃねえよ!勝ったなら勝った奴らしくしろ!」

ほらな、絶対こう言うと思った。

「・・・仕方がないな。」
「ほら!持ってけどろぼー!」
「何か、どうしても見られたくないものは?プリクラの類とか。」
「ない!そんなこまっしゃくれたもんは男の財布には入らねえ!金しか無い!」
「別に今時、男子の財布にプリクラが入っていたからって誰も責めないと思うけど。」

幸村は皆が見守る中、少女から財布を受け取り。

「両手を出して。」
「?」
「はい。」

少女の両手に、お札と小銭。

「・・・なんだよ。」
「俺は「財布を」貰うという約束をしたんだよ。中身を貰うとは言ってないから、それは持っていれば良いよ。」
「はあ!?」
「これは俺が約束通り貰うよ。それで良いだろう?」
「良くねえよ!話が違うじゃ・・・」
「違わない。君の方こそ俺に勝者らしく振る舞えというのなら、自分こそ敗者らしく言うことに従ってくれないと。」
「・・・・・くそー!」

周りの人達から「良かったねえ無一文にならずに済んで」な視線を向けられながら、少女は悔しさの地団太を踏んだ。