My narrative - 6/6


昼過ぎ、5限の半ば辺りだったろうか。

バラバラバラ・・・という煩い、且つ聞き覚えのある音がしたと思って、ふと生徒達が音のする方を見たら、本館の屋上にヘリが着陸するのが見えた。

ああ、王がご帰還なされたのね。とだけ思う者も居れば、帰ってきたからこれで自分の用事が出来る、あれとこれと・・・とか考える生徒会も居る。

可憐達は勿論、ああ良かったこれで放課後は跡部を交えた練習が出来る。という安堵。

普段だったら別に良いのだ。
跡部が居なくてもメニューは回るようになってる。皆やることはわかってる。

でもそうじゃない。今日テニス部に跡部が必要なのはそういう理由じゃない。

皆、王の声を待っている。




「第5コート、第6コート、第7コート、残り5分っ!」

ピーッ!とホイッスルを高らかに吹きながらメニューの進度を知らせる可憐は、目の端で跡部を追った。

さっきちらりと跡部を盗み見たが、どこか憮然としている。
何が言いたいのか分からないが、何がしか不満な事は確かなようだ。

(跡部君何考えて・・・あっ、監督だっ。監督はそういえばどう思ってるんだろう・・・)

終了の印に長めのホイッスルを吹きながらも、可憐の意識は此処にあらずである。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・?あのっ!時間です、コートから出てくださいっ!」
「ああ・・・」
「おう・・・・」

のろのろと言われたとおりにする2年生。

動きが鈍い。
落ち込んでいるからというよりは、やはり跡部が気になって仕方ないのだ。
期待している。跡部の言葉。

その当の跡部はと言うと、偶然にも可憐達の方へとふいと目をやった。

そして舌打ちをし。
大きくため息をついた。


「練習を中断しろ!」


ビク!と一瞬肩を震わせて全員が静止した。
周りからはチラホラと、可憐のようにびっくりし過ぎて持っていたペンなど落とした音が聞こえてきた。

全員が跡部を見た。

跡部はーーー王は、もう一度深いため息をお吐きになった。

「おい。」

もう怒鳴り声じゃない。
が、200人以上居る臣下が一斉に押し黙ったこの空間では、普通の声でも良く通った。

「今この場で、現実を見ながら練習出来てる奴は何人居るんだ?各自考えろ。自分はどうだ?隣の奴は?マネージャーも例外じゃねえぞ。」

皆が俯く。
目を伏せながら、周囲の部員を伺う。

(現実を見ながら練習・・・)

それって、要は諦めながら練習しろということだろうか。
ますます深く俯こうとした時、跡部が見透かしたように違う!と檄を飛ばした。

「樺地。」
「ウス。」
「俺様は誰だ?」
「跡部様は・・・・王です。」
「そうだ。お前ら、それをわかってるのか?」

(・・・?)


「俺は王だ。最初にお前らの頂点に立ち、王としてお前達をトップへ連れていくと約束をした。だが、俺はあくまで王であって、魔法使いじゃねえんだぞ。」


「・・・・・!」

図星を突かれた何人かの顔を見て、跡部は続けた。

「良いか、俺の事は王だと思え!何でも願いを叶えてくれるランプの魔人だなんて考えるな!
俺は戦って勝つ!だが、俺だけが勝てたっててっぺんへは行けねえんだ!

俺が居れば放っておいても勝手に氷帝は全国へ行くだなんて思ってねえだろうな!俺と一緒に戦って勝つのは自分なんだぞ!
当事者意識をもっと持て!自分が勝てないとトップへは行けないと思えてる奴が、一体この場で何人居るんだ!」

この言葉は何人もの心を深く深く突き刺した。

その通りだった。
ぐうの音も出なかった。

跡部に任せておけば大丈夫、跡部がダメならそれでもうダメ。
考える基準が皆「跡部がどうか」になっていて、自分が向かっていく意識がいつの間にか消えていた。

今日の可憐だってそうだった。
跡部まで回れば、どうやって跡部まで回すかみたいな思考でしか物を考えていなかった。

跡部は、自分が居なくても俺が立海に引導を渡してやる、という気持ちを以て練習に望んで欲しいと思っていたのに。

「・・・・でも。」

可憐ははたと顔を上げた。
今5番コートに居る部員が口を開いたのだ。

「でもそんなの無理だ・・・あんな奴らに敵いっこない・・・現実ってそういう事だろ・・・?」

可憐は再び俯いた。

その言い分も分かる。
というか、可憐も意見としては同じ。

「自分が勝つって気持ちで、なんて・・・そんなの無理だ、あんな奴らに、あんな・・・」
「どうやったって勝てない、か?」
「・・・・・・」
「どうやら俺様の話を聞いてねえと見えるな、良い度胸だ。」
「いやだから、」
「良いか、もう一度言うぞ。現実を見て練習をしろ。」
「だから!」


「恐怖で敵を勝手に大きくするな!」


「・・・!」

「おい。お前が勝てねえと抜かしやがる相手は、立海のプレイヤーか?それとも、お前が脳内で勝手に作り上げてやがる最強の皮を被った幻影か?あーん?」
「あ・・・・」
「言え、どっちだ。」
「・・・・・・・・」
「他の奴らにも聞く。先日の決勝の後、勝つ為の対策を考えてそれを踏まえた練習をした奴はどれほど居るんだ?」

皆俯いた。
返事出来ない。

「まあ・・・もっともこの中には何人か、考えはしたものの時間が足りないと踏んで辞めにした者も居るんだろうが。

良いか、リアリストぶって逃げるのは辞めろ。それこそ現実を見てねえ証拠だ。
目の前の試合に勝つ為の練習が出来ねえ奴は、どんなに練習時間を積み重ねた所で勝てる日なんざ永遠に来ねえんだよ。」

(痛い所突いてくるわ。)

いつか勝つ為に。

それは聞こえは良いが、時に格好の逃げ口上にもなる。

いつか。いつか。
いつかっていつだよ。


「良いか、もう一度言うぞ。現実を見ろ。

先日の敗北も、次に目指す勝利も現実の中のものだ。

誰かがなんとかしてくれる、あんな奴らに敵うわけがない、いつか勝てればそれで良い。そんな夢物語の中を幾ら探したって、勝利なんざ転がってねえんだよ。」


敵わんな。
と忍足は零した。

ものの数分で、皆目付きが変わった。

戻ったのではない。
変わったのだ。

今度こそ勝利を。
この手で勝利を。

その為に出来る事を。

闇雲に進むんじゃなくて。
足を止めるんじゃなくて。
現実を切り開くために、やらねばならない事をやれる。

跡部は分かっていた。
なんだかんだ春から今まで、ずっと自分のやり方についてきて残った者しか此処には居ないのだ。

全員、まだやれる。
立ち上がれる。


最後までこの夏を駆け抜ける事が出来る筈だから。


「・・・結局、芥川が正解やったっちゅう事やな。」
「へ?どうした侑士、ジローがなんて?」
「何でも。」
「?」