「はああああ・・・・・」
浴衣を前に、何が始まる前からげんなりオーラたっぷりの千百合。
「もー!千百合っちどったのー?テンション低いですぞっ!」
「マジでこのくそ暑い中こんなもん着て歩くのかと思って。怠くて怠くて。」
「まあまあ、折角買ったんですし・・・」
此処は五十嵐家。
3人は新品の浴衣グッズを各々広げて最終チェック中である。
隣室から話し声が近づき始めた。どうやら母親ズが集まったらしい。
「お待たせー♡さ!3人とも、ドレスアップでお姫様になるお時間ですよー!」
「あ、どの浴衣も可愛い!ふふ、すぐ着せてあげるからいっぱい楽しんでおいでね!」
ヘアメイクと着付けを両方担当する紀伊梨の母、皐月。
主に着付けをする紫希の母、雪乃の2人に、これから3人は浴衣を着せてもらう。
「・・・じゃ、すみませんけど。」
「ううん、全然オッケーですよう!」
「こっちこそ申し訳ないんだけど、そっちは・・・」
「大丈夫、任されてます。」
へろ、と小さく手を振る千百合の母、純子は着付けが出来ない。
ので、ダイニングでお疲れさまのお茶の準備である。
「さあさあ始めよう!えーと、じゃあまず紫希ちゃんから行こうかな!」
「あ、有難うございます!」
「おかーさん紀伊梨ちゃんはー?」
「紀伊梨は先ず、今日の髪型のイメージ決めてから!」
「千百合ちゃん、こっちにおいで。紐はあるかな?」
「一応此処に。これで全部ですけど。」
「うん、本数はあるね!よし、じゃあ浴衣を先に着ちゃおう!」
こうしてわちゃわちゃと始まる夏祭りの準備。
とはいえ毎年の事なので、もう親勢は慣れたものである。
「よ・・・と。」
「ん、」
「大丈夫?きついかな?」
「大丈夫です。」
「そう?ならこのままやるね。」
きゅ、と締められていく浴衣。
ああ、暑い。いや、今はクーラー効いてるのだが、気分として。
「千百合ちゃん、背が伸びたね?」
「ああ、まあ・・・・・・まあ。」
「?」
「・・・・・・」
「・・・女の子はちっちゃい方が可愛い、かな?」
「!」
「ふふ。」
こういう時の雪乃の微笑みは、似たもの親子の筈なのにとても紫希に似ていないと千百合はいつも思っている。
「大丈夫だよ?」
「・・・・・」
「幸村君は背が小さくても大きくても、千百合ちゃんが一番大好きだよ。」
「・・・・・」
「もしも千百合ちゃんが身の丈3mの高身長系女子でも、幸村君は千百合ちゃんの事だけを見てるに決まってるよ。」
「それ高身長ってレベルなんですか。」
ギネスが狙える身長だぞ。
思わず突っ込むと、雪乃は可笑しそうにクスクス笑った。
「ごめんね、笑っちゃって。」
「いや・・・」
「千百合ちゃんは可愛いなあ。」
「どこがですか。」
「こうやって気にしてる所、おばさんはすごく女の子っぽくて可愛いと思うよ?」
「・・・・・」
「とはいって、も、」
キュ、と又浴衣が巻きつく。
「千百合ちゃんは当人だから、やっぱり悩んじゃうよね。」
「・・・・・・・」
「気にしないで良いよって言われても、安心しきれないよね。」
「・・・・・・・」
「でも今日は大丈夫。」
「・・・どういう事ですか?」
「だって、千百合ちゃんは今とびきり可愛くなってる真っ最中だから。」
雪乃も、あっちで着付けをしている皐月も、動作ごとに思いを込めて着付けている。
可愛くなあれ。
可愛くなあれ。
気になる男の子が可愛いねって言ってくれるような、素敵な夏の夜が似合う女の子になあれ。
毎年夏の度に、母親がかけてあげられるおまじないをかける。
自分では出来ない純子の分まで。
「大丈夫だよ、おばさんが保証しちゃう。」
「・・・そう、ですか。」
「うん!」
雪乃がにっこり笑うと同時に、腰にく、と一瞬力が加えられた。
浴衣のリボン部分が固定されたのだ。
「うん、もう良いよ。」
「有難うございます。」
「ふふっ、どういたしまして。千百合ちゃんとっても可愛いよ!」
にこ、と微笑む雪乃に、千百合はほんのり赤い顔で小さく頷いた。