Flower drop 1 - 3/9


「さ、紀伊梨ちゃん次おいで。」
「はーい!」

ワクワクでウキウキなのがオーラでわかるくらい、浮かれモードの紀伊梨はいそいそと雪乃の元へ行く。

「髪型は決まった?」
「まだー!」
「あらら・・・こ、拘りどころだよね!」

でもいい加減決めてあげないと、皐月ちゃんが大変・・・と思いはすれど口には出さず。

「ねえ、紀伊梨ちゃん?」
「うにゅ?」
「紀伊梨ちゃんは、好きな男の子とか居ないの?」

きゅ、という音が紀伊梨と雪乃の間に響く。

「・・・うーん、紀伊梨ちゃんよくわかんないなー。」
「あはは!そうなの?ならまだ居ないんだね。」
「ねーねー雪乃おばちゃん。」
「ん?」

「紀伊梨ちゃんって、好きな人出来ると思う?」

しゅる、しゅる、と軽快に鳴っていた音がぴたりと止まった。

出来ると思うか。
好きな人が。

「・・・お、思うよ?どうして?おばさんちょっとびっくりしちゃったよ、まるで出来ないかもしれないみたいに・・・」
「だってー!皆好きな人居たことあるけど、紀伊梨ちゃんだけ居ないんだもん!今も居ないしさー!」
「あれ?棗君って好きな人居たことあるの?」
「うん!あんまりちゃんと聞いたことないけど!」

現在恋人同士の千百合と幸村は勿論として、今好きな人が居ない紫希と棗にしても、淡い片思いくらいはしたことあるのだ。
それすらもないのは自分だけ。

紀伊梨はそこに珍しく若干の疎外感を覚えたり。
後焦りも覚えたり。

「別に急がなくて良いんだよ?こういう事は無理しても・・・」
「だってー!紀伊梨ちゃんだけわかんないの嫌だし・・・あ、それにそれに!」
「それに?」

「恋ってさ、楽しくって嬉しいんでしょ?そうだよね!」

雪乃はまた手を止める。
何も知らないで、皆は楽しくて良いなー!という紀伊梨にちょっと苦笑。

「・・・どうかなあ、おばさんはそうだよって言い切ってあげられないよ。」
「どーして?」
「恋って、楽しいだけじゃないんだよ。勿論楽しいことも幸せなことも沢山だけど・・・時々、どうしようもなく悲しくて切なくて、泣きたくなる時もあるの。」
「・・・・おばちゃんもそーだったの?」
「勿論。まこ・・・おじちゃんは、モテてたから。」

あまり言うのも手前みそだから言わないが、紫希の父・真はそりゃあモテていた。
大変だった。
馴れ初めが馴れ初めだったので暫くその事に気づかなくて、わかった時には危機感が足りなかったと青くなったものだ。

「あー、大変だよねー。千百合っちも大変そーだもんなー。」
「ふふっ。でもまあ、千百合ちゃんの所はね。幸村君が、すごくしっかりしてるから。」

幸村本人はそんな事全く与り知らないが、幸村は雪乃どころか母親勢3人全員から尊敬の眼差しを集めている。
年頃の男の子でありながら、あんなに堂々と且つ適切に彼女を大事にすることが出来るなんて。プライドだとか意地だとか見栄だとか、それらを優先するあまり恋人を傷つけまくる世の大多数の男子とは雲泥の差だ。

逆に幸村位突き抜けていても、苦労はついて回る。
モテるというのは、つまりそういう事。

「よしよし、良いかな。後は帯留めを・・・」
「あ!紀伊梨ちゃんあっち置いてきちゃった、取ってくるー!」
「走らなくて良いよー。」