「・・・・よし。はい、良いよ。」
「わああ・・・お兄ちゃん有難う!」
「ふふ、どういたしまして。」
幸村松は着つけてもらった浴衣を着て、くるっと一回転してみせた。
「お金はあるかい?」
「うん!」
「鍵は?」
「持った!」
「よし。じゃあ行っておいで。そろそろ待ち合わせだろう?」
「うん!・・・お兄ちゃんは着替えなくて良いの?」
浴衣の松は、帰ってきて制服姿のままの兄を若干心配そうに見つめた。
「俺も着替えるよ?」
「でも今からじゃ時間が・・・」
「大丈夫。男の浴衣は女の子のよりも随分簡単だから、直ぐに着られるよ。」
「そう?」
「そう。ふふ、松は優しいな。有難う、心配してくれて。」
頭を撫でると松はちょっと恥ずかしそうにはにかんで、照れ隠しにちょっと意地悪を言う。
「お兄ちゃんも急がないと駄目だよ?」
「うん、急ぐよ。」
「遅れたら、千百合お姉ちゃんに嫌われちゃうよ?」
「あははは!なかなか言うじゃないか。」
「ぷきゅ!」
軽く鼻をつまんでやったら、もう!と言って松は用意しておいた巾着を手に取り玄関へ小走りに駆け出す。
「行ってきまーす!」
「気を付けて。」
パタン・・・と玄関が閉まる音を聞いて、気持ち的に一段落。
とはいえ、自分もさほど時間があるわけじゃないのは本当だ。
ちんたらしていたら本当に遅刻する。
さっさと着替えてしまおうと、この前見繕った浴衣セット一式が入っている紙袋を開けると、中には自分の浴衣のあれこれが。
それと。
「・・・ふふふっ!」
喜んでくれるかな。
「準太と健太は?」
「もう行ったわよー。」
祭囃子を聞きながら着替える丸井。
を、見守りながら母の直美は夜食づくり。
祭りで何やかんや食べたとしても、どうせ我が子は帰ってきたら何かくれと言うのだから。
「しかし、まさか中学に上がって浴衣を出すことになるとはね。」
「何か変?」
「変っていうか男の子は浴衣とか鬱陶しく思う年ごろでしょ、ブン太くらいだとね。実際、ブン太だって小学校上がってすぐくらいの頃にもう飽きてたじゃない?動きづらいとかって。」
「ああ・・・まあ。」
そう考えると、つくづく今の友人達は稀有な人種だと思う。
皆年頃の男子達だけど、「浴衣が鬱陶しい?なんで?風流で良いじゃない?」と素で返して来そうな者が何人も。
「デートじゃないのよね?それならまあ、彼女に合わせて浴衣っていうのもわからなくないけど。」
「デートじゃねえよ。まあ付き合いっつうか、皆着てくるみたいだし?」
「ふうん・・・ま、いつもの皆で行くんでしょ?気をつけなさいよ?車だけじゃなくて、色んなことにね。」
直美はブン太にそっくりな明るいウインクを飛ばして言った。