Flower drop 1 - 6/9


紫希と紀伊梨は、すっかり整った姿で待ち合わせ場所までの夜道を歩く。

千百合と棗は居ない。
棗は皐月に飾られるのを警戒して、自宅で自分で着ると言って譲らなかったので別行動。千百合は幸村に呼ばれてるからと言ってサンダルを引っ掛けて先に出て行った。

「お祭り行ったら何食べよーかなー!とりあえずたこ焼きでしょー、かき氷でしょー、冷やしきゅうりでしょー、」
「うふふっ!迷っちゃいますね。」
「ねー!紫希ぴょん何食べるの?」
「私ですか?私はやっぱり苺飴・・・」


「絶対リベンジしようぜ?」


そうだ。
今日は決めてたんだ、リベンジするって。

「・・・兎に角、苺飴が食べたいです。他のは、後で考えます。」
「おお!拘りですな!紀伊梨ちゃんも苺飴食べよっかなー?あ、でもでもふつーに林檎飴も良いなー!」
「うふふ。最近、ブドウやミカンもありますよね。」
「え!紀伊梨ちゃんブドウ見たことない・・・あ、何かブドウジュースがけのかき氷食べたくなってきた!やっぱりブドウ味はかき氷にする!飴はみかんにしよー♪」
「い、一気に食べちゃ駄目ですよ・・・?」

他愛ない話をしながら、星空の下歩を進める。

不思議な空だ。
もう頭上には綺羅星が輝いているのに、あっちはまだオレンジのまま。
正しく夏の日の長い空の色の中、最近もうすっかり見慣れたシルエット達が佇んでいる。

「あ、皆ー!乙にゃーん!」
「お疲れ様です。すみません、遅れてしまって・・・」

待ち合わせ場所には、真田と柳と柳生と仁王がちゃんと浴衣を着て待っていた。
真田、柳辺りはいかにも慣れたものという空気でリラックスしているが、逆に仁王は暑さにやられて若干大人しくなっている。

「む、いや。遅れてはいない、時間まではまだ10分ほどある。」
「あれー?ゆっきーと千百合っちは知ってるけど、ブンブンと桑ちゃんとなっちんはー?」
「丸井は普通に家が遠いだけじゃろ。」
「黒崎は、桑原の家で合流して一緒に来るそうだ。」
「そうなんですか?」
「桑原君が、一人で着られなくなってしまったようでして。誰か寄越してくれと言われたので、黒崎君が名乗りを上げたんです。」
「ああ、成程・・・」
「貸した時に一通りは説明したのだが。」
「まあ、着慣れない物は辛いだろう。桑原の家の場合は、親も詳しくはない可能性が高い。」
「お2人は自分で着付けを?」
「ううん!紀伊梨ちゃん達はおかーさん達にやってもらいました!そーそー、髪もやってもらったんだよ!どお?どお?可愛い?可愛いっしょ!」

紀伊梨は白地に花火柄の浴衣を着ていた。
赤、水色、黄色の三色入り混じったカラフルな花火が鮮やかに咲く浴衣はどこか幼さを感じさせるような可愛らしさがあり、紀伊梨の雰囲気にとても良く合っている。
そして、下駄も帯もパステルのイエローなのに、髪留めだけが真っ赤にゆらゆら揺れているのがとても目を引いた。

「ね!可愛いよね!」
「「「・・・・・・」」」
「あり?ねーちょっとー!なんで黙っちゃうのさー!」
「あ、いえ。お似合いですよ、とても。」
「ただ、気が進まんダニ。」
「気が進まない!?何それー!ちゃんと褒めてよー!ねー、やなぎーってばー!」
「おい、引っ張るな!崩れるだろうが!」
「だってー!」
「わかったわかった。似合ってるから一旦離れろ。」
「ちょっと、今の気持籠ってない!気持籠ってないよ、もー!もっと心を込めて可愛いっていってよー!」
「春日に褒めて貰えば良いじゃろ。」
「紫希ぴょんはもー何回も可愛いって言ってくれたよ!だからニオニオも言ってよ!」
「気が進まん。」
「もー!」
「紀伊梨ちゃん、紀伊梨ちゃんはちゃんと可愛いですから・・・」
「こうなると、黒崎君達が不在なのが響きますね。」
「ああ、今居ない3人は気負いなく褒めてやれるだろうな。」

正直なところ、可愛いのは先ず間違いない。
はっきり言って美少女と称して全然構わないと皆思っている。
でも何か気が進まないのは、日頃の行いという奴だろうか。

「春日さんも良くお似合いですよ。」
「あ、有難うございます!すみません気を使って頂いて、無理しないで下さい・・・」
「いえそんなつもりは。」
「お前さんはお前さんで別方向に振り切れとるな。」

可愛いと言えとねだる紀伊梨に、褒めてもまともに受け取らない紫希。
らしいと言えばらしいけど。

「紫希ぴょんも可愛いよー!ね?可愛いっしょ?」
「ああ、良いと思うぞ。真田もそう思うだろう・・・真田?」
「・・・いや、駄目だ。」
「え、」
「春日!浴衣は良いがもう少ししゃんとしろ!」
「は、はいっ!」
「縮こまるな!胸を張れ!前を見て肩を後ろに引け!」

大体お前はいつもそうなんだ、小さくなろうとするんじゃない堂々としてろ、と説教かましながら真田は紫希の背と肩を抑えて伸ばしている。
千百合がまだで良かった、と一同は思った。この場に居たら絶対またひと悶着あっただろう。

「こんな日まで小言言わんでもええと思うがの。」
「まあ、真田なりの友情だ。」
「そうですね。お似合いだからこそ、姿勢で損してらっしゃるのが許せないんでしょう。」
「お!でもでも、紫希ぴょんいい感じだよ!」
「そ、そう?ですか・・・?」

確かにというかなんというか、矯正された通りの姿勢になると心なしか浴衣のラインが綺麗に見える気がする。
ちょっとしんどいし、なんだか偉そうな態度に見えてないかなと心配になっちゃうけど。

「うむ、よし!良いか、常にそうしていろ!」
「は、はい!」
「五十嵐さんは・・・」
「うにゃ?」
「此奴は姿勢もへったくれもないじゃろ、いつも跳んだり走ったりしとるきに。」
「む!なんですか、その紀伊梨ちゃんに対する扱いの雑さはー!」
「雑さは置いておいて、お前も今日は大人しく歩け。いつも通りに動いていると、途中で足を痛める確率は89.06%だ。・・・む。」
「あー!ブンブンだ、やっほー!」

「よ!」

近づいてくる足音に一同が振り向くと、ちゃんと浴衣着てこっちに歩いてくる丸井。

もっとも、一同は丸井であると知覚するのに若干時間がかかった。
もう暗いので、それなりに接近しないと視認しづらいのだ。

「本丸のご登場ぜよ。」
「本丸?」
「何の本丸だ?」
「何のと聞かれると困りますね。」
「ブンブン!ブンブン!」
「お?」
「ねーねー紀伊梨ちゃん可愛いっしょ!可愛いって言って!もー、誰もまともに言ってくんなくってさー!やーぎゅだけだよ、似合ってるって言ってくれたの!」

そう言われて、丸井は紀伊梨を上から下までざっと眺めて見る。

いや、可愛いよ。
可愛い。
可愛いけどだな。

「・・・何か、素直に褒めたら負けって感じすんな?」
「同感じゃ。」
「なーにそれもーーー!皆してさ、もー!」
「ははははは!じょーだんじょーだん、可愛い可愛い。」
「そーいうじょーだん要らないんだってー!っていうか言い方が何かてきとーだよ!」

「鮮やかに褒めますね。」
「そもそも、ああいった事は言えと詰め寄るものではないだろう!」
「まあまあ・・・丸井君はそうじゃないですけど、詰め寄らないと言ってくれないタイプの人も居ますから・・・」

誰のことと言って、兄のことである。
あの兄も今頃お祭り会場のどこかに居るのだろうか。粗相してないだろうか。多分してるな。

「お前はもう少し詰め寄っても良いと思うが。」
「そんな悪いです、言わされる方も迷惑ですよ・・・」
「お前さん、本当にこういう事に関しては強情じゃな。」

「あ!そーだそーだブンブン!紫希ぴょんも可愛くなったんだから褒めてよ!」
「あれ、居んの?」
「春日!後ろに隠れるのを止めんか!」
「か、隠れてるつもりじゃないんです、つい癖で・・・」

トン、と誰かの手に背中を押されて、よろっと前へ出る紫希。

紫希の浴衣は濃い青地。
そこに薄桃色の桜がふわっと華やかに咲いている。
帯と下駄、それから皐月に勧められたヘアアクセは全部ピンクで揃えた。
統一感はある筈。多分。

「・・・・・・・」

丸井は無言。
且つ真顔で紫希を見詰める。

ああ居たたまれない、うちわか何か持って来れば良かった。顔を隠したい。

「ほら、ブンブン!」
「・・・・・・」
「あ、あの・・・無理なさらないで・・・」
「・・・・・・」
「・・・おい!」

しびれを切らした真田が丸井の肩を小突いた。

「!え、何?」
「何ではないだろう、意見を求められているのだから言わんか!」
「丸井君、何を思っていらっしゃるかはわかりませんが、無言は失礼ですよ。」
「あ、悪い悪い。いや、母さんすげえなと思って。」

((((母さん・・・!?))))

何で今のタイミングでその単語出てくるんだろう。
わけがわからない。

何なのお前、と皆が思う中、紫希は一人だけ得心した顔をした。

「そうなんです、今日は皐月おばさ・・・ええと、紀伊梨ちゃんのお母様に全部やって頂いて。凄いですよね、髪とか・・・」
「ああ、そっか。何かやってもらうみたいな話してたな。」
「はい。」
「えっへん!紀伊梨ちゃんのお母さんは凄いんですよっ!」
「何でお前が威張ってんだよ。」

普通に会話が進んでいるが、他の4人はどうして良いか分からずお互いに顔を見合わせる。

(おい、あれは褒める所が見つからんと遠回しに言ってるのか?)
(いえ・・・流石にそういうわけではないと思いますが・・・)
(お世辞にも褒められん程酷い見目っちゅうわけでもないじゃろ。)
(これは予測不可能だったな・・・)

そもそも普段からちょくちょく紫希には可愛いと言ってるくせに、何故メイクアップした今になってそんな変な単語しか出てこないんだろうか。
着飾る方向がおかしいとかいうのなら兎も角、フラットな目で見て順当にいつもより可愛くなってるのに何故。

こういう時に棗が居ないのが痛い。
いやいやおかしいでしょ、どういう事なの、といつものふざけた笑みを浮かべながら突っ込んでほしい。自分達はちょっと、情けないが二の足を踏んでいる。

「で?後誰居ねえの?」
「後は、棗君と桑原君とーーー」

「おーい!来たよー!」
「悪い!遅くなった!」

「あ!来た来た、やっほー!」

だからそれを控えめにしろと言われてるのに、丸っきりいつもの調子で紀伊梨はぴょんぴょん飛び跳ねる。
そういう所だぞ、皆思いはすれど言ってももうさして意味はないので。

「やー、間に合ったセフセフw」
「本当に悪かった・・・」
「まあ遅刻にはなっとらんき、気にしなさんな。」
「ふむ・・・うむ、きちんと着られているようだな。」
「ああ良かった・・・」
「ねーねー2人とも!」
「「?」」
「紀伊梨ちゃん可愛い?」

可愛いって言って、と顔に書いてある紀伊梨に桑原は苦笑、棗は大爆笑。

「先ほどからこの調子でして。」
「お前wそんな言えって強請って吐き出させた「可愛い」がそんなに欲しいかよw」
「だーって皆心をこめて可愛いって言ってくれないもーん!」
「いや、似合ってるぞ?」
「可愛い!が良いです!」
「桑原、無理すんなw」
「無理って何さ、もー!」

「棗君も、普通に可愛いって言ってあげれば良いと思うんですけど・・・」
「いや、難しくねえ?」
「言うたが最後、彼奴はずっと「○○が可愛いと言ってくれた」と騒ぎ続けるじゃろうからな。」
「一言礼を言って胸にしまっておけば良い物を。」
「まあそれが出来ないから今ああなっているんだろう。」

年頃の男子としては、可愛いと一言褒めてやる所までは出来ても、それを声高に叫ばれ続けるというのは許容できない。

「ねー!お願いー!」
「何でそんな拘るんだよw」
「だって、後残り千百合っちとゆっきーだけだよ!ゆっきーは絶対可愛いって言ってくんないじゃん!だから今のうちに!」

「あれ、言ってくんねえの?」
「幸村君、普段は多少言いますけれど、こういう時は千百合ちゃんにしか「可愛い」とは言いません。誤解の元なので。」
「うむ、流石幸村だ。徹底しているな。」

確かに徹底はしている。
ちょっと引くくらいが丁度良いのだ、幸村のモテぶりを考えると。

「・・・で、その「2人はまだか?とお前は言うな桑原。だがもうそろそろ来るだろう。」
「まあ、あのお二方に限って遅刻は考えづらいですからね。」
「後10分以内には来るじゃろうな。」

ふいと見上げる夏の空。

星を纏う紺色が濃く。
深く。