「あ!来た来たー!」
千百合はこういう時紀伊梨が居るととても便利だと思う。
目立つから目標がどこなのかすぐ分かる。
「やあ、ごめんね待たせて。」
「問題ない。まだ1分ある。」
「ねーねーゆっきー!」
「うん?なんだい、五十嵐?」
「可愛いって言って!」
「まだやっとるw」
「たわけめ、諦めの悪い・・・」
「ちゅうか、幸村は言わんのじゃなかったんか。」
「ダメ元じゃねえ?」
最早似合ってる?なら可愛いって言って!のステップさえも飛び越して、取りあえず可愛い発言をくれと強請る紀伊梨。
やっぱ断るのかな、と一同が見ていると、幸村大層綺麗ににっこり笑った。
「良いんじゃないかな。」
「可愛いは?」
「それは言わないよ。」
「もーーー!ほら、もー!こうなるから皆に言って欲しかったのー!」
「何の話してんの、さっきから。」
「その・・・あんまり皆、紀伊梨ちゃんに可愛いと言ってくれなくて・・・」
「へー。あんたらそうなの?なんで?」
「一応俺と柳生は褒めたんだけどな・・・」
「黒崎君が煽るんですよ。無理しなくて良いぞ、などと言って。仁王君辺りも面白がっていますし、丸井君の可愛いは軽いそうです。」
「あー。」
丸井の可愛いが軽いのは千百合も想像がつく。
言ってと言ったら誰にでも可愛いって言いそう。
「・・・そういや、紫希は?」
「え?」
「丸井に可愛いって言ってもらった?」
「いや、それがな・・・」
「はい、着付けを褒めて頂きましたよ。お前らのお母さんは凄いな、って。」
「何か違うくない?」
千百合は丸井のこういう所が本当に嫌いである。
何なのお前、何なのなの。
可愛がるのか可愛がらないのかどっちかにしろよ。
「え、あんたらももっと突っ込んでよ。話題ずれてるだろってさ。」
「いや、俺はその場に居なくて・・・」
「お恥ずかしながら、何をどう指摘したものか迷ってしまいまして。」
「わからんでもないけどさ。」
「千百合ちゃん、良いんですよ。無理に言って貰う方が心苦しいですから・・・」
「そこまで言うほどの無理じゃないってば。」
こういう事があると紫希みたいなタイプはいっぺんに自信が萎むのに、何やってくれてるんだろう。
もしも本当に自分の琴線に丸っきり掠りもしなかったとしても、可愛いって世辞で一言言うことも出来ないのか。
(普段あんなに色々言ってるくせして・・・)
(まあまあ、何が好みで何がそうでないかは本人しか預かりわからぬ所ですから・・・)
「おーい、そろそろ行きますよwもう揃ったからねw」
「よっしゃ!しゅっぱーつ!」
棗の号令で、一同はぞろぞろと歩き出す。
出発すると話題は自然と「行った後どうするか」の話にシフトしていき、浴衣がどうかの話は入れ違いに消えていった。
「楽しみだなー!紀伊梨ちゃん食べたいものたーくさんあるんだよねー!くじとか射的もやりたいしー。」
「くじなど引いても当たらんだろう。」
「いや、五十嵐は当てるよ。」
「真田っち当てたことにゃいのー?」
「む!一度くらいはあるわ!・・・もう随分昔だが。」
「スーパーボールすくいやりてえな。」
「ブン太は得意だよな。」
「因みに、掬ってどうなさるので?」
「いや、普通に遊ぶけど?俺がっていうか弟が喜ぶし。」
「お前、弟喜ばすためにボールは掬うくせに・・・」
「ま、まあまあ・・・」
「抑えて下さい、お気持ちはわかりますが。」
「?」
「近頃はピンボールを見かけんの。」
「回転率が悪いから仕方がない。出店も商売だ。」
「型抜きも最近見ませんよね。」
「まあ、あれは低回転率の見本のようなものだからな。」
「判定に疑惑が多いしの。」
「そ、そうなんですか?」
「何じゃ、お前さんは恩恵に預かったことがないんか?」
「確かに、小さい子供だから女子だからという理由で多少の粗は大目に見てもらっているのを昔は見かけたな。」
「ああ、そういう・・・」
そういえば昔はそうだった。
皆で見せに行ったら的屋のおじさんから頭を撫でられて、よし、お嬢ちゃん達は可愛いからおまけしてあげよう、なんて。
「・・・・・・」
別に自分が可愛いとは思っちゃいない。
本来これがあるべき成り行きなのだということも分かっている。
でも。
ほんのちょっと、今日の自分はいつもよりは可愛いんじゃないかと思っていた。
それだけに。
(・・・いえいえ、おこがましいですよ。)
紫希はもう忘れることにした。
そうだ、自分が可愛くないのなんて今に始まった事じゃない。
世辞言って貰えなかったからってしょんぼりする方がどうかしてるのだ。
それよりも気合を入れないと。
今日は、リベンジだから。