Flower drop 2 - 3/7


「じゃーん☆」

「わあ!すごいですね!」
「確かにすごいな・・・」

量と良い。
色と良い。

「やっぱ祭りの定番だよな、綿あめ。」
「でかすぎないか・・・?」
「嵩張るだけだって、そんな大した量でもねえよ。ん・・・うん、美味い。」
「味がちゃんと違うみたいでしたよね。」
「そ!ここがオレンジで、此処がサイダーで、」

丸井は紫希と桑原と一緒に回って、べらぼうにでかい棒付き綿あめを買っていた。
そりゃあもうでかい。丸井の顔なんて余裕で収まるくらいには。

「色もお綺麗ですね。」
「な!目立つよな。」
(子供が羨望の目で見てくる・・・!)

大人は微笑ましい目で見てくるし。別に良いんだがちょっと恥ずかしい、とか桑原が思っていた時。

「あ、丸井!」

「ん?ああ。よ!」

声をかけてきたのは、3人連れの浴衣女子。
誰だ?と桑原が聞くと、クラスの奴、と丸井は軽く返した。
クラスの奴、なので同クラスではない紫希も桑原も知らない顔だ。

「来てたんだー!」
「おう。」
「部活忙しくないのー?」
「いや?忙しいけど、まあちょっと無理して。」
「えー、だったら誘えば良かったー!」
「サンキュ!また今度な。」

会話が軽快だなあ・・・と桑原はちょっと遠い目で親友を見てしまう。
自分じゃああはいくまい。というか、あれが出来る男子なんてほぼ居ないだろう。浴衣で着飾った女子3人にきゃいきゃい囲まれて、よくああして平然としてられるものだ。

一方の紫希は、やっぱり丸井は友達多くて凄いなあ、なんて思いながら見ていたのだが。

「てゆーか丸井!」
「ん?」
「ちょっと見て見て!ほらっ!」

くる、とその場で一人が一回転して見せた。

「どお?今日のうちら可愛くない?」
「ははは!それさっき五十嵐がやってた。」
「えー!」
「あ、でも紀伊梨は言いそー!」
「でもちょっと、紀伊梨のことは置いといてよ!うちらはうちらなんだし。ね、どう?」

丸井はにっといつもの笑顔で言った。

「良いんじゃん?可愛い可愛い!」
「やったー!」
「丸井のお墨付きだー!」
「え、ちょっとLINEであーちゃんに自慢しよー!」

(えええええええ・・・・)

彼奴阿保なんじゃないだろうか。
桑原は頭を抱えたくなった。

来るまでの道中で、丸井が今日に限って紫希を褒めなかったというのは他の面子から聞いていたが、何故だ。何故今の場面でそんなにつるっと言えてる一単語が、さっきに限って出てこなかった。

「あの、春日・・・」
「はい?」
「・・・その、」

なんて言おう。
気にすんなよ、とか気にしろって言ってるようなもんだし。
そもそも、慰めようにも当の丸井があの態度じゃ、違うから、と言って良いものかどうかすらわからない。
実際のところは丸井しかわからないのだから。
かといって自分が可愛いと言っても、最早解決にならない気がするし。

「はあ、は・・・わ!」
「きゃっ!」

ドン、と紫希の足元に子供がぶつかってきた。
丸井と女子3名を含め、皆一斉にそっちを向いた。

「あてて・・・」
「だ、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい、俺前見てなかっ・・・あれ。春日さんだ!」
「蓮君!」

ぶつかってきたのは、紀伊梨の弟。五十嵐蓮だった。
普段かぶらない野球帽を深く被っていたから、ちゃんと見るまで気づかなかった。

「知り合いか?」
「あ、紀伊梨ちゃんの弟さんで・・・蓮君、桑原君です。あちらが丸井君。あちらが紀伊梨ちゃんのクラスの方です。」
「あ、そうなんだ。こんばんは、紀伊梨姉ちゃんがお世話になってます。」
「何か五十嵐よりしっかりしてねえ?」

全員が思ったことを丸井がさっと一言で片づけてくれた。

「ところで蓮君、何かお急ぎだったんですか?用事なら・・・」
「あ、いや!そうじゃなくてその・・・かっこ悪いけどちょっと逃げてきちゃって・・・・」

帽子をかぶり直しながら赤くなる蓮。

(そうだ、そういえば松ちゃんも来てるんでしたね。)

多分その辺の絡みだろう。
微笑ましくて紫希は穏やかに笑った。

「そんなことありませんよ、蓮君はいつもかっこいいですよ。」
「いや駄目だよ・・・もうこうやって逃げてる時点でダメじゃん。もー、女子とか褒めた後どんな面してて良いのかわかんねーよー。」

やけくそ気味にぼやく蓮に、皆が丸井に視線を移した。

「ほら、丸井教えてやんなよ。」
「俺?」
「ブン太はいっつも余裕綽々だもんな。」
「余裕っつうか、まあそうだけどさ。」

しかし、どうしてれば良いのかと言われると。

「普通に笑ってたら?」
「無理・・・」
「ちょ、ちょっと難しいのでは・・・・」
「そお?こうさ、世間話みたいな感じで可愛いって言ったら良いじゃん?」
「兄ちゃん、それマジで好きな女の子に向かって出来んの?」

蓮の切り返しに。
丸井は思わず言葉に詰まった。

「俺だって、友達の女子だったらなんとか普通に言えるけどさー。なかなk「かっこいい・・・」え?」
「ちょっと紀伊梨の弟君かっこよくない!?」
「分かる!かっこいい!こんな彼氏欲しいー!」
「え、いや、ちょっと・・・」
「ふふっ。ほら蓮君、蓮君はかっこいいですよ。」
「いや、」
「まあまあ。自信持てよ、な?」
「えー。」
「大丈夫だって、少なくとも俺よりはお前の方がかっこいいから。」

丸井はしゃがんで、被り直しすぎて逆にポジションが変になっている蓮の野球帽を戻した。

「・・・俺、お前ほどちゃんと女子のこと褒めたことなかったからさ。」
「あれ?そうなの。」
「そ。適当なこと言って悪かったな。」

例え人生の中で女子に向かって「可愛い」と言った回数は丸井の方が圧倒的に多くても、その人にだけの大真面目な「可愛い」を言った回数は多分蓮に圧倒的に劣る。
経験もないのに知った風な事を言ってごめん、とちょっと反省。

「お、彼女居ない男が謝罪しましたよー。」
「うっせ!」
「え、兄ちゃん彼女居ないの?」
「今居ねえよ?」
「マジで!?勿体ねー!兄ちゃんかっこいいんだから、その気になったらすぐ彼女出来そうじゃ・・・あ。」
「?」
「・・・ごめん、なんでもない。」

蓮は紀伊梨から紀伊梨の日常の話をよく聞いている。
その中で、その丸井という奴は春日さんの事好きなんじゃないの?と蓮は何度か思ったことがある。
ただ口に出すと何がしかのトラブルのトリガーになるかもしれない。沈黙は金。

「俺、もう行くよ。友達も来てるし。」
「そっか。」
「お気をつけて下さいね。ふふ、今度走る時は前を見て。」
「はあい。ごめん春日さん。」
「いいえ。ではまた。」
「うん、またね。」

そう言うと、蓮は駆けていった。
その後姿が思えば記憶よりしっかりしてて、大きくなったなあ・・・と親でもないのに紫希は思ってしまう。

「・・・春日?どうしたんだ?」
「あ、いえ。蓮君、大人っぽくなったなあと思いまして。」
「大人っぽいっていうか、大人びてるよねー。」
「分かるー、紀伊梨より大人っていうかうちのクラスの男子より上じゃね?」
「それ!」
「だな。」

本当にそうだと思う。
さっき丸井は、素でびっくりした。まさかああ返されるとは。

「じゃ、私らも行こっかな。」
「またね、丸井ー。」
「今度は一緒行こ!」
「おう!」

クラスメイト女子3人とバイバイと手を振って別れ、又元の3人に戻る。

「・・・何か、嵐みたいだったな。」
「結構、色んな人に会いますよね。もしかしたら一条さんも居るかも・・・」
「居るか?彼奴来なさそうじゃねえ?こういうの嫌いそうじゃん。」
「お友達に誘われたいらっしゃるんじゃないでしょうか?」
「ああ、まあそれはそうか?一人じゃねえもんな。」
「林さん、でしたっけ?林さんはどうですか?」
「あ、確かに!林はこういうの好きそう。」

(ふう・・・)

可愛い云々の話から上手く話題が逸れて、桑原はホッとした。
ついでに、なんで俺がこんな胃の痛い思いしなきゃいけないんだ、とちょっと心の中で親友に愚痴ったのであった。