Flower drop 2 - 4/7


ほぼ同時刻頃。
千百合は幸村とモダン焼の列に並んでいた。

「偶に思うんだけどさ。」
「うん?」
「こういう時って私もっと可愛いもん食べた方が良いのかな。」
「・・・うん?ごめん、何の話かな?」
「紀伊梨の雑誌にちょいちょい書いてあるからさ。こういう時にあんまりがっつりしたもの食べたら女子力下る的な話が。」
「あははは!」

幸村は別に女子向けの雑誌を見る機会なんか早々ないから遠慮なく笑った。
そんなこと書いてあるのか。

「でも、じゃあ何を食べろっていうんだい?こういうところで売ってるのは大抵ファストフードなんだから、選べないと思うけど。」
「何かかき氷とか。甘いもの。」
「夕食の代わりにならないよ?」
「我慢しろって書いてあるよ。家帰って飯食えって。」
「あははははは!」

ツボに入った。
嘘だろ、そんな事書いてあるのか。
そこまでしないと女子っぽいとみなされないのなら、それはみなさない男の方が悪いと思うのだが。

「別に何をどう食べても良いと思うよ、俺は。」
「そう?良かった。私甘党じゃないから、しょっぱいものなしでもたせろって言われたらしんどいし。」
「何食べていても千百合は可愛い女の子だよ。安心して。」
「・・・・・あ、そう。」

何か可愛いを強請ったみたいになってしまったと遅まきながら気づいた。
くそ、そんなつもりじゃなかったのに。周りの温い視線が嫌だ。

「何食べていても良いし、どれだけ食べても良いよ。千百合が健啖家でも俺は千百合が好きだしね。」
「・・・精市ってさあ。」
「うん。」
「もし私の身長が3mあったらどうする?」
「え?どうもしないし、今と変わらず好きだと思うけど。それも雑誌に書いてあったのかい?」
「いや・・・・」

即答されたのが気恥ずかしくてちょっと下を向いた丁度其の時、ぽてぽてと俯いて歩く小さな女の子が自分にぶつかってきた。

「きゃ!」
「うお。ごめん、大丈夫?」
「うん、ごめんなさ・・・あ。千百合お姉ちゃん、それにお兄ちゃん!」
「あ、なんだ松ちゃん。」

思いがけず知り合いだった。
幸村にきっちり着つけられている浴衣の松は、千百合も可愛いと思う。

「松。何があったか知らないけれど、下を向いて歩くのは危ないし良くないよ。」
「うん・・・ごめんなさい。」
「まあまあ、他人にぶつからなかっただけ良いんじゃない。それより、大丈夫?」
「あ、うん!怪我は・・・」
「じゃなくて、下向いてたから。何か落としたんじゃないの?」

いつも明るい松が下を向きっぱなしで歩くことなんて滅多にない。
何かあったか、じゃなきゃ失くし物か、と当たりをつけて千百合が尋ねると、松はかあっと赤くなった。

「ち、違うの!あの・・・そんな大した事じゃなくて・・・」

((ああ蓮(君)か。))

大体何があったのか察しはつく。
多分祭りで出くわして、その時に何かアプローチされたのだろう。

「良かったじゃないか、松。」
「ううう・・・千百合お姉ちゃん助けてー!」
「何から。」
「男の子から可愛いって言われたらどうしたら良いの・・・?」
「それは私が聞きたい。」
「あははは!」

笑っちゃいけないと思いつつ幸村は笑ってしまう。

「ごめんねいつも困らせて。」
「そう思うなら控えてくんない。」
「結構控えてると思うけど。」
「嘘吐けよ。」
「ねえ!どうしたら良いの!」
「ああ、ええと・・・って言ってもねえ。正解とかある話じゃないし。」
「有難うって言えば良いよ。それで十分だから。」

そう、それで良い。

大体、男が好きな女の子に向かって言う「可愛い」に期待がある筈もないのだ。
別に言っておだてて何かしてもらおうとか、何か出てくると思ってるとかそんなわけない。
ただちょっと頬を染めて嬉しそうにしてくれれば良い。お礼を言ってくれれば尚嬉しい。ただそれだけの話。

「そうかなあ?」
「そうだよ。」

「あ!松ちゃん居た!」
「おーい、松ちゃーん!」

声のした方を向くと、松の友達らしき女の子が2人。
この2人は松と蓮の為にちょっと外して角のたこ焼きの屋台で待っていたのだが、なかなか来ない松を待ちきれなくて引き返して様子を見に来たのだ。

「あ!ひろちゃんにちえちゃん!ごめん!」
「もー、こんなとこに居たの・・・え、誰?」
「あ、ええとこっちがお兄ちゃんで。」
「「お兄ちゃん!?」」

2人のびっくりは、兄が居たなんてとかこんな所で出くわすなんてとかそういう驚きじゃない。
ただただひたすらに、兄美形すぎやしないかという驚きである。

「はじめまして。」
「あ、ええ・・・」
「は、はじめまして・・・」

俯いて、ちょっと赤くなりながら髪を直したりもじもじする仕草に、千百合はちょっと感心した。
まだ小学生、しかも高学年にもなってないであろうに、その様子はもう年頃の女性そのものである。女の子の方が精神的な成熟は早いというが、この光景を見たら成程と言わざるを得ない。

「あ!だ、だめ!」
「「?」」
「お兄ちゃんの彼女は、こっちの千百合お姉ちゃんだからね!2人ともお兄ちゃんの事好きになっちゃ駄目だよ!」
「松ちゃん、庇わなくて良いから松ちゃん。」

幸村は肩を揺らして笑っているが、千百合は笑っていられない。
顔は勝手に赤くなるし、それを松達に見られるのも嫌だし、余計な事言わなくていい!なんて文句も言えない。松は純粋に善意から庇ってくれているのだ。

「えー、そうなの!?」
「付き合ってるんだー・・・」
「そう!もうラブラブなんだからね!お兄ちゃん千百合お姉ちゃんの事大好きだから!」
「松ちゃん、松ちゃん私の話聞いてる?ねえ・・・」
「あはははは!」
「松のお兄さん、そーなんですか?」

幸村は、それは満面の笑顔で言った。

「うん、大好きだよ。」
「「・・・おっとなー!」」

(いっそ誰か殺して)

わかってくれた?と何故かやや胸を張って言う松の、小さな背中の後ろに隠れたい衝動を千百合はぐぐぐと堪えた。