Flower drop 2 - 5/7


「むー・・・」
「どうしました?」
「何か、思ってたより後ちょっとしかお金ないなーって。」
「あ、ははは・・・」

紀伊梨と合流して歩いている紫希はもう何も言えない。
紀伊梨の両手には「花火見ながら食べたい!」と言って買いまくったあれやこれやがぶら下がっており、さらにくじなどのゲーム系の出店もよく回るため、あっという間に軍資金は底をつきそうになっていた。

(でも本当に最近は色々出店がありますよね・・・目移りしちゃうのも無理はないです。)

「あ!ねーねー紫希ぴょん、焼きそばあったよ、食べよ!」
「え?焼きそばはまだだったんですか?」
「うん!何か今年焼きそばとかたこ焼きとか逆に少ないよねー!」
「ああ、確かにそう言われればそうかもしれません・・・」

そう、実は紀伊梨は大分色々な露店を回ってるのにまだ焼きそばを見ていなかった。
新しいものが流行りすぎて逆にスタンダードなのが少なくなるという逆転現象。

「紫希ぴょん要らない?」
「はい、私も欲しいです!」
「よっしゃー、並ぼう!」

列に並ぶと、明るい屋台の奥でおじさんが焼きそばを焼いている。
隣の鉄板には乗せてくれる用の目玉焼き。
ジュウジュウという熱そうな音、野菜から出る水蒸気、それに乗って香ってくるソースの匂い。
ザ・焼きそばな屋台の足元には、1パック幾らみたいな値段が書かれている。

「あー、どうしよっかなー!ジャンボパックにしよっかなー!でももうお金がなー!」
「お、お腹が痛くなりますよ紀伊梨ちゃん!普通サイズでも多分大丈夫ですよ・・・」
「そお?じゃあ紫希ぴょんはジャンボにする?あんま食べてないよね?」
「いえ、私紀伊梨ちゃんと合流する前に少し食べたので。私も普通サイズで・・・あ。」

どうしましょう、2つにしましょうか。

普通なら誰にも聞こえない程度の呟きを、紀伊梨の耳はばっちり拾った。

「紫希ぴょん2つ食べるの?」
「え?あ、いえ違いますよ。GWに丸井君と約束したんです。」
「約束?」
「はい。私達、結局焼きそばも苺飴も食べられなくて。だから夏祭りではリベンジしよう、って。でも今年は、紀伊梨ちゃんの言う通り焼きそばが少ないですから・・・」

結構広く出店が多く、しかも花火のアップグレードに伴って混雑している今日、焼きそば一度も見なかった、は十分あり得る事態だと思う。
そうと限ったわけじゃないが、丸井がそうなってしまったらなんだかリベンジを誓った仲として捨て置けない感じがする。

「余ったら余ったで良いんです。お兄ちゃんかお父さんが食べるでしょうから。」
「・・・・・・・」
「紀伊梨ちゃん?」
「ねー紫希ぴょん。」
「はい。」
「・・・紫希ぴょんって紀伊梨ちゃんの事好き?」
「えっ?」

唐突な話題と切り出しに、紫希は思わず聞き返してしまう。

「ねえ好き?」
「勿論ですよ!紀伊梨ちゃんは私の大切な友だ・・・」

言いかけて紫希はちょっと言葉を止めた。

友達。
いや。


「・・・紀伊梨ちゃんは、大切な・・・親友、です。ただの友達じゃなくて、もっと大切な。私、そう思ってます。」


元々大切な友達だったけど、中学に上がって紀伊梨や千百合や小学校からの友達の大切さがより深くわかった気がする。

お前なんかそんな大層な存在じゃねーよ。
なんて紀伊梨が言うわけない、と思ってはいる。
いや、信じている。

でも、もし万が一紀伊梨ちゃんはそこまででもないかな!とか言われても良いと今は思える。紀伊梨がどうでも、自分にとっては紀伊梨は親友なんだから。

「ですから、勿論好きですよ。私、紀伊梨ちゃんの事大好きです。」
「・・・・・・」

紀伊梨はとても珍しい表情で紫希をじっと見ていた。
真っ直ぐな目はいつもの事だが、口が少し開いていて、静かに驚いている顔。

実際、紀伊梨は今驚いていた。

「・・・紫希ぴょんはかっこよくなったね!」
「え。」
「そんでもって可愛くなったね!」
「え?え?え?」

さっきから話が唐突且つ飛んでいると思う紫希だが、紀伊梨の中ではがっちり繋がっている。

丸井のためにと焼きそばを買う紫希を見た時、紀伊梨は紫希が見たことのない優しい目をしていると思った。
もし約束をしたのが紀伊梨でも紫希は焼きそばを買ってくれただろう。
でも今と同じ目は果たしてしてただろうか。してくれないんじゃないだろうか。

そう思うと寂しさと焦燥感が生まれて、つい自分を好きかと紀伊梨は聞いてしまった。
勿論紫希は好きだと言ってくれると思っていた。分かっていても聞いて安心したかった。紫希は自分をないがしろにしたりしない、その確認がしたかった。

でも紫希はただ好きだと返しはしなかった。
ただの友達じゃない、大好きな親友だと言ってくれた。

今の紫希の目は、いつも湛えている友情や気遣いの中に、今まで殆ど見えなかった勇気や自信の色が混じって見え隠れしている。

紀伊梨はそれを綺麗だと思った。

そしてその目を自分にも向けてくれるのなら、その表情を自分も見られるのなら、それで良いかなと紀伊梨は今初めて思えたのだった。

「私別に可愛くは・・・」
「えー、そんな事ないよ可愛いよ!」
「可愛いのは紀伊梨ちゃんの方ですよ。」

色んな意味で。と紫希は内心で付け加えた。

友達だから、紀伊梨の可愛いところを人よりよくよく分かっているから余計に可愛いというのは自覚してる。
でも、それはそれとして紀伊梨は客観的に見ても可愛い。
こうしてる今だって、視線がちくちくちくちく。

(でも、良く分かりませんけど好きかどうかのお話は分かって貰えたみたいで良かったです。)

はあ、と安堵の一息を吐いたところでねえ。と後ろから声をかけられた。

「は、はい・・・」
「?誰?紫希ぴょんの友達?」
「い、いえ、」
「君ら2人連れ?俺らも2人なんだけど遊ばない?」

慣れた、且つ久しぶりのパターンだ。
紫希は紀伊梨を隠すようにしつつ、なるべく素っ気なくなるように言葉を選ぶ。

「あの、私達友達と来てますので・・・」
「でも今居なくない?」
「後から皆でしゅーごーするお!」
「じゃ、それまで!ね?ね?」
「いえ、あの、」

困った。
いつもなら引きそうにないなと思ったら紀伊梨の手を引いてどこかへ逃げるのが常套手段なのだが、今みたく列に並んでる最中とかはまずい。離れようとすると紀伊梨が悪気なくどこ行くの?どうして離れるの?と聞いてくるので、その間に向こうに良いじゃん良いじゃんと押し切られてしまうのだ。

どうしよう、こういう時はやっぱり男子の友達が間に入ってくれるのが一番効果覿面なのだが。誰か都合よく、男子の友達が近くに居てくれないだろうか。

「おい。」

そうそう、こう言って間に入ってくれて・・・って。

「え?」
「お前誰だよ。」
「この流れでわからないわけ?そこに居る2人の連れだよ。」
「え。」
「分かったら行けよ?よ、遅くなって悪かったな。」
「えー?d「ああああ!あ、あの、遅かった・・・ですね!待っちゃいました、よー・・・」

男の子だ。
全然知らない子。

でも助けようとしてくれてるのはわかるので、遠慮なく「誰?」と聞きそうになる紀伊梨を頑張って抑えつつ紫希は口裏を合わせる。

その子が目で行けと促すと、しぶしぶといった感じでようやくナンパの男達はどこかへ消えていった。
ここまで来て尚も渋る様子からして、かなりしつこい手合いだったのだろう。間に入ってくれて本当に助かった。

「ぷは!ねー、紫希ぴょん!誰ー?」
「私も分からないんです・・・あ、あの、どこのどなたか存じませんけれど、有難うございました。本当に助かりました。」
「いや、別に良いさ。可愛い女の子を助けるのは、良い男の義務なんだから。」
「は、はあ・・・」
「ただ、後ろの子はわかってなさそうだから兎も角、君。君はもっと強気でいかないと、あしらえるものもあしらえないぜ?自力で振り切る気があるんならね。」
「すみません・・・・」

その通り過ぎてぐうの音も出ない。

「ま、次から気をつけなよ。」
「はい・・・・」
「?ねー、何に気を付けるのー?後誰ー?お名前はー?」
「おっと。これは逆ナンなのかな?」
「ち、違います違います!他意はなくて・・・」
「あはは!ま、名前くらい言ったところでどうって事ないけどな。俺は樋井海斗。」
「樋井君・・・あ!」
「これはお代って事で。貰ってくぜ?」
「あー!ちょっと、それ紫希ぴょんの苺飴ーー」
「良いんです紀伊梨ちゃん!良いです、良いですから!」

苺飴で済むんだから安いもんだ。
良かった、紀伊梨が連れていかれなくて。

取り返しに行こうとする紀伊梨を良いからと宥めながら、紫希はもう一度振り返って背中に頭を下げた。












「よ。」
「帰ってきたのか。トイレにしちゃ遅かっ・・・なんだそれは。」
「買ったんじゃないぜ?」
「見ればわかる。お前、苺飴なんか食べるキャラじゃないだろう。」
「えっ?苺飴・・・ああ、くそ。確かめれば良かったな、飯系だと思い込んでた。」
「何なんだ。」
「いや、ちょっとな。困ってるお姫様を助けて、それのお礼に貰ったってわけ。」
「さして好きでもないものをか。」
「だからそれは確認不足だったんだよ。流石に甘すぎるなあ・・・要るか?」
「嫌いじゃないが、今は良い。」
「そうか?じゃあ、七里辺りにでも。女の子は甘いの好きだろうし・・・おお、怖い怖い。冗談だよ睨むな。五十嵐にやるよ、それなら良いだろ?」
「ああ、それは良い。」
「此処まで露骨だっていうのにどーして七里も五十嵐も分かんないかな。」
「何か言ったか?」
「いや、何も?」

赤い飴にコーティングされてキラキラ光る、あんまり興味のないそれを、樋井はなんとなく眺めた。

(・・・まあでも、結構可愛かったな。)

そうじゃなくても助けてはやっただろうけど、どうせなら好みのタイプのが良い。
そして今回はそうだった。

それで良しとしよう。