「「「「「「「「え!」」」」」」」」
全員がスマホを見た。
嘘だろ、後10分あるのに、と皆思ったが、実際開場されているし、周りの人間が一斉に同じ方向へ歩き始めた。
「前倒しになったんでしょうか。」
「今年は混んどるき、そうじゃろうな。」
「ちょっと待って、皆固まってw流される流されるw」
「というか、流された方が危なくないんじゃないの。」
「そうだね。もう行けるのならそっちの方が良いんだけど。」
「で、でも紀伊梨ちゃん達がまだ・・・」
「あいつ等今どこ居るんだろうなー。」
「遅れるって事は無さそうだけどな・・・真田と柳が居るし、」
「おーい!皆ー!」
人の波の中から紀伊梨がすぽんと抜け出てきた。後続に真田と柳。
「おい、どうした事だ!俺達は遅れとらんはずだが。」
「開場が前倒しになってしまったんです・・・」
「寧ろ、あんたらよくこっちが分かったわね。」
「五十嵐のおかげだ。」
「えへん!皆の声が聞こえたかんね!」
「この混雑でですか?」
「五十嵐は耳が良いから。」
「耳が良いとかっていうレベルか・・・?」
「まあまあwちょっと話は後にしようw今はまずさっさと進むんだw可及的速やかにw」
「かきゅ「後にしんしゃい。しかし、急ぐ意味はあるんか?」
「ああ、寧ろ急がないといけないよ。今はまだ開場したてで人が流れているけど、最後には渋滞になるわけだからね。」
今は皆わーっと会場に向かって進んでいくが、当たり前だが会場に着いたら足を止めて進まなくなる。
そして今流れている人の動きは段々淀んでいき、最後には止まる。
そうなると終いである。前にも後ろにもいけなくなる。
「よし、じゃあ急ごうwなるべく北東目指して行く感じで!」
「北斗を目指す?」
「良いから来い。」
「およ?」
「俺が殿を務めるか?」
「ああ、頼む。」
あっという間に柳に左手首を捕まえられ、真田に背を押される紀伊梨。
「任しといてええんか。」
「なんなら、交代いたしますが?」
「大丈夫だ、気にするな。」
「あれ?ねー、私何かちょっとお荷物扱いされてなーい?」
「ほう、気づいたか。」
「気づいた!?っていうかやっぱりそうなんじゃーん!」
「お前がすぐ迷子になるからだろうが!」
「さ、行こうか。」
「ん。」
差し出される手を千百合はすっと握った。
今みたいな状況は気が楽だ。
誰も人の手元なんかマジマジと見る余裕は無いし。
「北東ってどっちだっけ?」
「あっちだよ。」
「そっちかwサンクスw」
「お前は言い出したのに確認してなかったのかよ・・・」
「いやあ地図上で見ただけでしてw」
あほめ、と千百合が呟いたのが聞こえて、幸村はくすっと笑った。
「焼きそば持ってる?」
「はい。」
「じゃあ苺飴は俺が持ってっから、分けるのは後でな。」
「はい。」
さて、じゃあ行くか。
と思った丸井は、無意識に紫希の右手を捕まえようとして、止まった。
「・・・丸井君?」
「・・・・」
「ま、丸井君?どうなさったんですか?丸井君?」
左手を上げかけて止まる丸井の頭の中では、今でがけに母から言われた事がリフレインしている。
『ふうん・・・ま、いつもの皆で行くんでしょ?気をつけなさいよ?車だけじゃなくて、色んなことにね。』
『色んな事って何に?』
『女の子はイメージを変えたらグッと可愛くなるんだから、無暗に落ちないようにねって事!』
そうそう。
だから母は凄いなと丸井は零したのだ。
思ってた以上に可愛いと思ったけどこれを予期していたのか、流石年の功、とか思って。(実際口に出したら、誰が年だと怒られそうだが。)
しかし気を付けろ。
今こそその注意をする時かもしれない、と丸井の思考の部分が訴えてくるが。
「・・・良いか!」
何が、と聞き返す前に今度こそ紫希の右手は捕まった。
「ちょ・・・ちょっと、あの、丸井君、私大丈夫ですから、」
「大丈夫?何が?」
「だから、その、繋いで貰わなくても逸れたりしませんから・・・・」
「こんなに人居るのに?」
「それでも、誰かの近くには頑張れば行けると思うーーー」
「誰かじゃなくて俺のとこに居て欲しいんだって。」
丸井はいつもこうやって生きてきた。
理性がこうした方が良いんじゃない、という声を聞き。
考え。
そしてその上で無視する。
最終的には心に従った方が結局は近道なのを、丸井は感覚で知っている。
「嫌?」
「嫌じゃないです、けど・・・」
「けど?・・・と!」
「あ、後でにします!取りあえず今は・・・」
「オッケー、離すなよ?」
人の流れの中を早足で進んでいると、ちょっと会話に気を取られただけで足が縺れたり人にぶつかったりする。
だから結局立ち止まれるまで移動に集中するしかない。左手には落とせない焼きそばを持っているから尚更。
でも。
「・・・・・・」
紫希の目は、意識は、すぐに繋がれてる右手に向かってしまう。
丸井は今何考えているんだろう。
紫希にはさっぱりわからない。
ちょいちょいわからない時があるけれど、今日は特別わからない。
今日の自分は可愛くないんだよね?
でもそれならどうしてあんな事言うんだろうか。
こんな事するんだろうか。
嫌かっていつも聞いてくるけど、嫌なのはそっちなんじゃないかと紫希は聞かれた数だけ聞き返したい。
なんて、どうしても性格上色々ぐちゃぐちゃ考えてしまうのだが。
「わ、あ、」
「おっと。」
ぎゅ。と強く握られた手が、紫希を笑い飛ばしてくる。
難しい事を考えなくて良い。
この手の温もりこそが一番真実に近いから。