Flower drop 3 - 4/6


「本当に大丈夫なのか・・・」
「まあ、今何ともないと言うことはそれほど大事ではない可能性が高いですから。」

千百合は後ろから漏れ聞こえる柳生と桑原の会話にぽつりと呟いた。

「息がしづらい、ねえ。」
「気になるかい?」
「まあ友達だし。それに、今年の大会は出ないっつっても部員でしょ?本当に病気だったらロスになるんじゃないの。」
「まあ確かに、体調は良いに越した事はないね。でも今平気なら、騒ぐのは却って良くないかもしれない。気のせいということもあり得るし。」
「気のせいで息が苦しいとかある?」
「そりゃあ勿論。」
「丸井ってそんな繊細なタイプかな。」
「あはは。どんなタイプだってそんな時はあるよ。気のせい、っていうのは案外馬鹿に出来ないから。」
「ふうん。」

千百合にはあまり「気のせい」がない。
そもそもあまり周囲に関心を払ってないから、気にする事が人より少ない。

思えば物心ついた時からそうだった。
親曰く、小さい頃から幼稚園の先生などに「あまり遊ぶことに関心がないようで・・・」と言われ続けてきた幼少時代だったらしい。
同じように育ってきた棗は全然そんな事はないから、これはもう性格なんだろうと思う。

こうして花火を見上げていると、千百合はふと自分がどうしてこんな格好でこんな所に居るのか不思議になる。
別に浴衣も花火も嫌いだとか見たくもないとか言う気はないが。

でも着替えるの面倒だし。
暑いし。疲れるし。
花火にしたってそうだ。
綺麗だとは思うけど、見てどうするんだろうと昔から思っていた。
あー、綺麗。それでお終いの産物でしかなかった。

「小学校からかな。」
「うん?」
「花火をまともに見る気になったの。」

そもそも、黒崎家は4人家族だがその内の2人はデフォルトでローテンションなのである。
ほら、楽しいだろ!と父が何か娯楽を提供してくれても、棗はそこそこ楽しむが自分は母から「どう?楽しい?」と聞かれて「まあ。」と答える、それでお終いな感じでずっと過ごしてきた。

ところが小学校に上がって一気に忙しくなり、ぼーっとしていられない日々が始まって、今はこうして浴衣着て人ごみの中花火を見ている。
人生とはつくづく不思議なものだ。

「ふふふっ。」
「何?」
「懐かしいなと思って。会ったばっかりの時は、結構困ってたんだよ。千百合が何に対してもノーリアクションだから。」
「そうなの?」
「そうだよ。春日も大人しい方ではあったけどリアクションという意味では素直だったから困った事はなかったけど。でも千百合は何を考えてるのかよくわからなくて、どうしようかなって思ったことも一回や二回じゃなかった。」
「そうだったんだ。」

まあそれも無理からぬこととは思うというか。

「当然っちゃあ当然だけど。」
「当然かな?」
「だって私、物事に好き嫌いが出だしたの小学校上がってからだからね。」

これは推測に過ぎないが、思えば母・純子は自分に似た性格をしている。
それ故に、「これはきっと千百合の好みには合わないだろう」と思うものがぼんやり掴めていて、それを無意識に排除していたのではないだろうか。

わが子が徒に不愉快な思いをしないよう。
それは親としては間違った事ではないけれど、そのせいで千百合は知らぬ間にぬるま湯に浸かっていた、のかもしれない。

「じゃあ今は?」
「今?」
「お祭りは好き?」
「まあまあ。」
「花火は?」
「まあまあ。」

まあまあ、とだけ言いながら花火を見上げる千百合の顔は、色とりどりの花火に照らされてくるくる変わっていく。
その口元には確かに微笑みが浮かんでいて、それが千百合の本心が「まあまあ」でない事を語るから、幸村も満足げな笑顔を零した。

「そういえば精市は?」
「うん?」
「お祭りとか花火とか。」

小さい頃から紀伊梨が行こうと言い出したら、特段反対も嫌な顔もしなかった幸村。
だから少なくとも嫌いでは無いことは知っているが、好きかどうかは聞いた事がなかった。

幸村は優しい笑顔で言った。

「普通程度には好きだったかな、昔は。」
「昔?」

「今はこうして居られるから、もっと好きだよ。」

そっと、バレないように指を絡ませて繋いでくれる。

千百合も好きだと思う。
幸村がここに居てくれるから。