Flower drop 3 - 5/6


「ブンブンお喉大丈夫かなー?たーまやーって言えなくなっちゃうよねー。」
「ポイントはそこなんか。」
「えー、大事じゃーん!」

紀伊梨がそう言ったとき、丁度3尺玉が上がった。


ドオ・・・・ン パラパラパラ・・・


「かーぎやー!」


(うん?)

紀伊梨は後方を振り返った。

「ねーねーニオニオ。」
「何じゃ。」
「かぎやってなーにー?」
「何と言われてものう。掛け声じゃろ。」
「掛け声はたまやでしょー?」
「・・・・・」

面倒である。
昔小さかった弟になんでなんで攻撃を食らった事を思い出す。

大体仁王だって詳しいことは知らない。
掛け声には「たまや」と「かぎや」がある、程度の認識しかない。

「・・・そもそもたまや、っちゅうのはじゃな。」
「うん。」
「花火に向かって「もっと高く上がれ」っちゅう励ましの意味なんじゃ。」
「え!?そーなの!?」
「ブフッw」
「あり?なっちんどしたの?」
「別に・・・w」

知らないのなら知らない、柳に聞けと躱せば良いのに、知らないとは言わずしゃあしゃあと適当なほら話を吹く仁王。
勿論そんな意味は全くないことを棗は知っている。

「それに対してかぎやの方じゃが。」
「うんうん!」
「かぎやっちゅうのは、もっと明るくて大きいやつを頼むっちゅう注文の意味なんじゃ。」
「へえー!そーなんだ、知らなかったよー!」

知らなくて当たり前である。
そんな事実はどこにも無いからだ。

「じゃあじゃあ、さっき上げてた奴もっかいあげて!っていう意味の奴は?」
「さあ、そこまでは知らんのう。」
「えー、そっかあ・・・さっきの土星形のやつ良く見えなかったからちゃんと見たかったのになー。」
「あんなもんが見たいんか。」
「え!?ニオニオ嫌い?」
「嫌いとは言わんが、派手さに欠けるぜよ。普通の花火の方が好きじゃ。」
「えー?そうかなー、面白いじゃーん!紀伊梨ちゃんどっちも好きだなー!」
「そうか。」

仁王はどうしても、ああいう型物の花火は嫌いというか引っかかって仕方がないというか。
あの、型物特有の角度がついていて潰れて見える現象が気になって気になってしょうがないので、どうも進んで見る気にならないのだが。


ドオ・・・・ン パラパラパラ・・・


「あー!ハートだハート、可愛いー!」

(ハート・・・)

仁王はここで、ふと悪戯心が沸いた。

「五十嵐、知っとるか。」
「およ?」
「掛け声の話じゃないが、あのハートの花火は見た人だけが出来るおまじないっちゅう奴があっての。」
「おおお!知らなかった、何それー!」

そんなの誰も知ろう筈がない。仁王の創作である。

紀伊梨の声が大きい故に、仁王と紀伊梨の会話はなんとなく周りも聞こえているが、皆次は何言い出すんだろうかとちょっとワクワクもしている。

「ええか。もしお前さんにこれから先、片思いの男が出来たとするじゃろう。」
「うんうん!」
「もしそいつと花火を身に行けて、ハート型の花火が打ちあがったら・・・」
「打ちあがったら?」

「背中から抱きついてお互い何も喋らんと3分じっとしていられたら、きっと両想いになれるじゃろう、ちゅうやつじゃ。」

「おー!そーなんだ、すごーい!」

棗は堪え切れず紀伊梨と仁王から背を向けた。

(あほかw何がwそうなんだやねんw)
(何故ああも見え透いた嘘に騙されるのだ、彼奴は!)
(まあ、嘘としては比較的害のない方だろう。おそらく。)

その条件で達成出来たら両想いって、そりゃあもう当たり前というかそりゃあそうでしょうとしか言いようがない。もし本当に女の子に後ろから抱き疲れて3分もじっとしていたら、それはもうそいつはその子の事が好きなんだろう。

言うなれば好きです付き合って下さいと言ってはいと返されたらきっと両思いだよレベルの事しか言われてないのだが、紀伊梨はすっかり信じ込んで目を輝かせている。

「ああ、因みに予行練習とかはしちゃいかんぜよ。本番の効果が無くなるき。」
「む!オケーです!」
「それから無暗に人に広めるのもいかん。秘密じゃ。」
「ラジャ!」

(無駄にw用意周到w)
(しかし、五十嵐に口止めが果たして通用するのか?)
(口止め以前に、いずれ忘れるだろう。そもそも状況が夏に限定されすぎている。)

ふと棗、真田、柳の3人が改めて夜空を見上げると、紀伊梨と仁王が話題にしているハートの型物花火はとっくに消えていて、次の花火が堂々と打ちあがっていた。

「む?」
「どうした。」
「ねーねー、人に言っちゃいけないんなら、ニオニオはどーして教えてくれたの?」
「そりゃあお前さんは特別(面白そう)じゃからな。」
「おー!そうなの!?紀伊梨ちゃんって特別なん・・・ん?今ニオニオ、特別の後になにかくっつけなかった?」
「気のせいじゃろ。」

絶対気のせいじゃないが、何がくっついてるのかなんてちょっと考えればすぐわかるので3人は何も言わなかった。