・・・なんて事があったのが、ついこの間の事。
夏休みの中でほぼ終業式の直後の日、スケジュール的に一番最初に消化する事になった予定。
可憐は今、いや、氷帝テニス部で「行きます!」と名乗りをあげた者は今。
皆、機上の人。
「茉奈花ごめん、ちょっとそっちよけてくれない。」
「ん?こうかしら?」
「そうそ!ごめんね、すぐ済むから!あ、可憐!悪いけどこのゴミ袋ちょっとだけそっち置いて良い?」
「こう?」
「そうそう!よしよし、良いな!」
「あかりは何してんのよ。」
「え?そりゃーインスタに自撮りを上げんのよ!」
「飛行機の中で自撮り撮ったって意味ないでしょ?」
「わかってないなー、真理恵は。こういうのは、画像じゃなくて事実関係の証明に必要なんだって!・・・よしっ!加工しといて・・・プライベートビーチへ行ってきます♡・・・っと!」
そう、今皆で向かっているのは沖縄。
跡部家所有のプライベートビーチである。
「なんだか現実感がないなあっ。」
「そうよねー。海へ行きたい奴は連れてってやる、って言われてやった!ってその時は思ったけどさ。」
「まあ確かに、部長様が言い出す時点でただの海への旅行だとは思わない方が良かったかも、ね。」
「まあびっくりはしたけどさー、こんな機会滅多にないんだし、楽しも楽しも!」
「良いわよね、あかりは呑気で。」
「はあ!?真理恵に言われたくないんだよ!大会中に倒れてバタンキューした挙句に、皆が心配してるのほっといて六角の「あああああ!」
「あはは・・・また始まっちゃったねっ。」
「最近はいつもこうねえ。」
もうすっかりこのやり取りも見慣れだしたなあと思いながら可憐は窓から外を見た。
とはいっても今は雲しか見えないが、それが却って「今自分は飛行機に乗ってるんだ」感を覚えさせる。
「沖縄かあっ。」
「可憐ちゃん、行ったことある?」
「ううん、ないのっ!だから楽しみでっ!」
「そういえばさ、沖縄観光って出来るの?」
「出来るでしょ。プライベートビーチに行くって言ったって、別に隔離されてるわけじゃあるまいし。」
「まあ確かに、友達の家から出て遊びに行くっていうだけの話だもの、ね。」
「そういう言い方だとなんだか急に身近な感じになるなあっ。」
「よし!じゃあ海で遊んだら、暇を見て皆で沖縄観光って事で!」
「あっ、賛成っ!」
「私パス。」
「あら?真理は行かないの?」
「まあ折角だから海は行くけど、ちょっと観光って気分じゃないのよねー。はあ・・・」
(片思いすんのは別に勝手だけど、こうも自分に酔われるとムカつく・・・!)
(ま、まあまあっ!真理恵にも色々あるんだよっ。)
(自分に酔うのも恋の醍醐味よ?放っておいてあげましょ、ね?)
(えー!)
不満げな金町に、網代と可憐は顔を見合わせて苦笑する。
金町は新城と仲が良い。小学校からの付き合い。
そもそも跡部のネームバリューに釣られて金町が新城を引っ張ってくる形で2人とも入部してきたわけだが、此処にきて自分は片思いなんて気配も無いのに、一番の友達がまさかの「他校の男の子に助けられて片思い」なんてドラマチックな展開になってることに些かのやっかみもあるのだ。
「あーあ!どっかにかっこいい男の子居ないかなー!」
「あかり、よくそれ言ってるけど、部の男子は皆かっこいいんじゃないかなっ?」
「んー、いやそれもわかる!分かるんだけどー、何かちょっとこう・・・」
「運命的な要素に欠ける?」
「そうそれ!茉奈花ドンピシャ!」
「運命かあ・・・」
運命的な要素。
まあこの場合、少女漫画的な展開、と言い換えても良いかもしれない。
要は普通の成り行きというか、同じクラスや部活で友達から徐々にとかそういうよくあるパターンだとちょっと嫌というわけだ。
可憐的にはそういう問題か?と思わんでもないが、金町的にはかなり重要そうなので口には出さない。
「ふっ。」
「おい。」
「何よ。」
「何じゃない!聞こえなかったと思わないでよ、今鼻で笑った!」
「だあって、ねえ?あかりが運命的な恋とか・・・ぷぷっ。」
「ム・カ・つ・く~~~~!言っておくけど、真理恵の片思いだって助けてもらったとか言ったら聞こえは良いけど、結局のところ自分のドジが発端じゃん!そもそものミスを棚に上げて偉そうに!」
「なんとでも言ったら~?少なくとも私に「他校のかっこいい男の子」と繋がりがあるのは事実だし?」
「言わせておけば・・・!」
「2人とも辞めようよ・・・」
「まあまあどうどう。ねえあかり?真理の片思いはともかく、運命的な恋っていうんなら今日だってチャンスはあるわよ?」
「「「え?」」」
網代は悪戯っぽく笑った。
「やあね、私達が今どこを目指してると思ってるの?沖縄よ、お・き・な・わ♪つまりー。沖縄観光をして、現地の男の子ともしも仲良くなれる機会があれば・・・」
「・・・・!旅行先で会った男の子との間に生まれるロマンス!良いね茉奈花、めっちゃ良いじゃん!」
「え、えええ・・・」
「あれ?可憐ときめかない?」
「ううん、ときめかないとは言わないけどっ。でも距離がちょっと遠すぎて・・・」
「まあねー。言い出しておいてなんだけどこのケースだと、ロマンチックな思い出になりやすい反面、真面目な恋になっても後が続き辛いのよね。普通にしてても遠距離恋愛なんて難しいのに。」
「あ、でもあかりっぽくはあるんじゃない?ぱっと花開いてすぐ消える感じとか。」
「いちいち煩いなもう!」
「そこへいくと、やっぱり可憐ちゃんは考えが手堅いわよ、ね?」
「えっ?」
「あー、わかる!可憐は逆に身近な男子の方が安心するタイプだ!」
「そ、そう?かなあっ?あんまり考えた事ないけどっ。」
ただ、ちょっと考えるだけでも一夏のロマンスに対して憧れよりも腰が引ける感覚の方が強いのは我ながらわかる。危ない人だったらどうしようとかいう気持ちもあるし、良い悪い以前にそういうのが好きな人とはタイプが合わないのがもう目に見えているし。
「まあ、恋の障害を「スパイス」と捉えるか「無い方が良いもの」と捉えるかは人それぞれだから、ね。」
「結局好みの話になるのか・・・成程、そう言われると身近な恋は身近な恋で良いこともあるな。」
「そうやって選べれば良いけどね。」
新城が何気なく言った一言は、この場に居た誰の胸に刺さったのか。
そうだね、選べればとても楽になる。
それが叶わない場合があるから怖いのだ。
「まぁーた、知ったかぶっちゃってさ。あーやだやだ。」
「知ってますー。少なくともあかりよりは「真理恵の話とかどうでも良いからさ、可憐の話の続きしようよ。あ、茉奈花の話でも良いよ!茉奈花の話しよ!」無視するな!」
「何よ、うるさいなあもう!結局自分の話がしたいんじゃないか!」
「うるさいとは何よ!」
「やるか!」
「まあまあ、2人ともその辺にしましょ?これ以上待たせるのも気の毒だわ。」
「「待たせる?」」
「ごめんね向日君、そろそろ切り上げるわ。お話どうぞ♪」
「あっ!向日君、忍足君っ!」
回転させて後方の金町、新城と対面になっていたのでわからなかったが、網代が振り向いた方向ーーーつまり本来前方にあたる座席には、向日と忍足が座っていた。(因みに本来飛行機の座席は回転しない。跡部家所有のプライベートジェットだから有効な仕様だ。)
「おー。やーっと終わったかよ話。」
「まあまあ、そない言わんでも。」
「えっ?えっ?何か話しかけたかったのっ?っていうか声をかけてくれたら・・・」
「無茶言うな!」
幾らコミュ力高くても、女子のコイバナがヒートアップしてる所にズカズカ入っていくみたいな真似は流石にできない。何か雰囲気が怖いというか、外野は黙ってて!な空気をひしひしと感じるし。
「それで?用事の方は何かしら?」
「そうそう!お前らさ、どっかで時間見つけて観光行くんだろ?」
「え、向日君聞いてたの?」
「立ち聞きじゃないか?いや、盗み聞き?」
「違う!くそくそ、あんなでかい声で喋ってたら聞こえて当然だろ!」
「まあまあ。」
後ろを向いて身を乗り出す向日のシャツを忍足は軽く引っ張りながらいなす。
何か犬とその飼い主っぽく見えなくもない。
「話戻すけど、折角やし俺らも観光行こか思うてて。あれやったら一緒に行かへん?」
「・・・・・!」
可憐の脳内でシナプスが繋がる。
先ず、一緒に行くと言っても新城はパスと言ったので実質5人になる。忍足と向日と、女子は自分、網代、金町。
更に更に、である。
ここから、「沖縄男子」との恋を求めて街に繰り出そうかとしている金町は恐らく一人行動をしたがる。ナンパ待ちするならやはり男子抜きで女子のみ行動をとるべきだし、もっと言うと何人も連れだって歩くよりソロの方が成功率は若干上がる。
ということは、一緒に行動が出来るのは結局4人になる。女子は自分と網代しか残らないわけだ。
そうなると後の話はとても簡単。自分が素知らぬ顔して向日を引っ張っていけばそれで良し。
忍足は自分がどういうつもりなのかわかってくれるだろうし、向日もそこまで極端に強引な成り行きでなければ「?」とは思いながらも左程深く考えないで、自分と観光してくれるだろう。
良い。
完璧な計画だ、と思うが早いか可憐はこの話に飛びついた。
「行くっ!行きたいっ!」
「・・・そうなん?」
「うんっ!ねえ、茉奈花ちゃんも行こっ!」
そこまで行きたかったんだ、とでも言いたげに忍足は少し目を見開いた。
そう、行きたいんだよ。目的は観光じゃないけど。
「私も良いわよ。楽しみだわ♪」
「やったあっ!向日君、ありが・・・向日君?」
「・・・なあ。」
「?」
「後ろの2人は来ねえの?」
「えっ?あ、多分・・・」
だよね?と目で問いかけながら視線を戻すと、新城は私パスーと素っ気なく良い、金町は私は別行動で!と気合十分な目で言った。
なあに、向日君はこの2人のどっちかが好きなの?なんて茶々が入りそうな場面だが、それを上回る向日の疲労顔に皆が疑問符を浮かべた。
(この4人かよ・・・)
凄い面倒そう。
新城と金町を勘定に入れてたからまあ良いかと思ったのにまさかの離脱をかまされて、でも今更じゃあ良いやとも言えず向日は悪いと思いながら嫌な顔をしてしまう。
一応向日にあれやこれや伏せている可憐だが、最早伏せても伏せてなくてもさして変わらない程度には向日は色々知っているし、当たりがついている。
ああ面倒くさそうな予感。
もう成り行きに任せるしかないけど。
「・・・分かった!じゃあ4人で、時間はまた後でな!」
「「はーい!」」
席に座りなおしてまた騒ぎ始める可憐と網代を背後に、向日は軽く溜息を吐いてずるる・・・とシートに凭れ掛かった。
「なんや、えらい疲れてそうやな。」
「・・・・・・」
「いた、何やねん。」
「別に!」
「?」
パシ、と軽くはたかれた忍足は、自分に原因があるなど知る由もない。