プライベートビーチ。
プライベートなビーチ。
つまり、燦々と降り注ぐ太陽に照らされてきらきら光るあの青い海は、白くて熱い砂浜は、今は丸々自分たちのものだということ。
「やっほーーー!」
「きれーーーー!」
「すげーーーー!」
歓声と共に、水着に着替えてワッと散っていく部員たち。
いや、今は部活外だから友人たちか。
その声を聞きつつ、可憐と網代はまだ更衣室。
「・・・よしっ!」
これで準備OK♪とはしゃぐ網代はハイネックタイプの白地にひまわり柄のビキニ。
ハイネックタイプだから普通のビキニより若干露出はなくなるが、大人っぽさはぐぐっとアップしている。
「・・・・・」
「可憐ちゃん?どうしたの?」
「あっ、ううんっ!ちょっとびっくりしてっ!茉奈花ちゃん似合うよっ!」
「そう?ありがと♪」
本当だった。
一緒に水着を買ったのだからお互いどんな水着を買ったのかは知ってるはずなのに、実際こうして着ているのを目の前で見ると、マネキンが着ていたのを見るより何倍も生き生きとして見える。
「でも、可憐ちゃんも似合うわよ?」
「そ、そうっ?そうかなあ・・・」
可憐の水着は、デニム風のフリルの大きめなビキニ。
ビキニと言いつつ本当にフリルが大振りなので、露出度としてはほぼワンピースと同レベル。
「そうよ、自信を持って!折角のプライベートビーチなのよ、沢山楽しみましょ!」
そういって軽く背中を叩く網代だが。
いや、可憐も網代の言うことには同意なのだが、頭ではわかっていてもどうも気持ちの面では気後れしてしまう。女子の友達だけなら兎も角、今日は男子も大勢来ているし。
若干重い足取りで更衣室の扉を開けると、眩し過ぎる太陽に一瞬目が眩んだ。
「わああ・・・・・!」
凄い。
可憐は沖縄の海を初めて見たが、こんなに綺麗だなんて。
飛行機で軽く調べて写真を見ていたが、実物は想像以上だなあ・・・なんて思いながら圧倒されていると、後ろから肩を叩かれてハッとした。
「は、はいっ!あ、忍足君に向日君っ!」
「ははは!口開けてやんの、すげえあほ面!」
「そ、そんな顔してないもんっ!」
「でもほんまにええ景色やな。」
「ほんと。同じ国内とは思えないわ、ね。」
可憐の他にも今日が初・沖縄!な者は結構居るらしく、そこかしこで海に入る前からじっくり眺めてる部員の姿がちらほら見られる。
「ところで侑士君に向日君。」
「「?」」
「海を眺めるのも良いけれど、貴方達は他にも眺めてコメントしなくちゃいけないものがあるんじゃない?」
「へっ?」
「は?」
ね?と言って隣の可憐の腕に抱きつく網代。
と言われても、可憐にも何の事か分からない。向日もポカン顔。
忍足だけが表情一つ変えないで口を開いた。
「よう似合うてるで、水着。」
「えっ!?」
「それ?おい、それかよ!」
「あら、勿論よ!マナーよマナー。ね?」
「ね、ねえって言われてもっ!」
「そんなめんどくせーマナー聞いたことねえよ!」
「じゃあ今日覚えて帰ってくださーい。網代先生の教育的指導でーす。」
網代と向日が言い合う傍ら、可憐は身の置き場がなくてどうしたら良いかわからない。
というか、今網代は向日と話し込んでしまっているわけだが(話の中身は置いとくとして)、忍足はもっとぐいぐい間に割って入るべきじゃないだろうか。
口に出してそう言うわけにもいかないので、可憐はどうにか目でわかって貰えないかなーと視線をちらちら忍足に向けてみる。
ほら。ほらほら。
頑張ってもうちょっと褒めた方が。
忍足はそんな可憐を「?」な顔でちょっとの間見ていたが、やがてああ、と小さく呟いた。
「心配せえへんでも、お世辞は言うてへんで。」
「へっ!?」
「ほんまに似合うてるて。」
違う。違う、そうじゃない。それが言いたかったんじゃなくて。
と内心ではちゃんと突っ込んだのだが、この時思わず口が勝手に動いてしまった。
「そ、そうかなっ!?子供っぽくないかなっ?」
「別にそんな事あらへんよ。元気な感じはちゃんとしてるけど、幼い感じには見えへんし。可憐ちゃんにぴったりやと思うわ。」
「そ、そっか・・・って!」
違う、違うんだってだから!
頭を振る可憐に、網代は忍足を指差した。
「良い、向日君?これがお手本よ、お・て・ほ・ん。女の子を褒める時は、こうやって具体的にちゃんと褒めなくっちゃ。」
「ぜってー嫌だからな!めんどくせえ!」
「まあまあ、岳人も天邪鬼言わへんと。」
「天邪鬼とかそういうのじゃねーの!くそくそ、侑士と一緒にすんなよな!」
忍足や網代と居ると、本当に女子と遊ぶたびにいちいち服を褒めるのがマナーな気がしてきてしまって困る。
いや、そんなわけないだろ。こんなの中1男子のマナーとして出来る奴の方が変なんだ。
「おい!」
向日が頭を抱えたくなったその時、王のお声が4人の間に割って入った。
と、思ったら可憐の視界がいきなり真っ白になった。
「ぷうっ!」
「危な。」
「部長様!なあにこれ?」
「Tシャツ?」
そう、跡部が4人に放り投げたのは白いTシャツだった。
明らかに新品。無地。
「着ておけ。日に焼ける。」
「焼ける?っつったって海なんだから当たり前じゃねー?」
「国内の海と一緒にするな。日差しも照り返しも段違いなんだ、日焼け止めを塗った程度じゃガードしきれねえんだよ。」
「そうなのっ?」
(いうか、これ全員分新品買うて配ってるんかいな。)
(流石部長様、ホストっぷりも規格外ね。)
よく見たら、あっちこっちで跡部家の従者っぽい人間がわーっとTシャツを配って回っている。シャツ持って来いよ、ではなくてシャツ配るから着とけよ、になるところがいかにも跡部。
「そういうことなら着るけど・・・ちょっと残念。ね?可憐ちゃん。折角新しい水着なのに~。」
「うん・・・でもしょうがないかなっ!焼けちゃうのはちょっと嫌だしっ!」
「まあでも、照り返しがきついのは分かるわ。」
「まあなー。こんなきれーな海だもんな!」
白い砂浜も、透明な海も、何もかもが太陽光を反射する。
眩しくて眩しくて。
夏の始まり。