昼食時。
海から上がった3人は、さて食べるぞと意気込んだが。
「待った!」
向日がストップをかけた。
「えっ?なあにっ?」
「桐生、網代!ちょっと先言っててくれ!」
「えっ、やだ。何?」
「ちょっと侑士に話があるんだよ!」
「俺?」
「そう!」
パシ、と忍足の手を取ると、向日は可憐と網代を振り返りながら指さして、飯食っとけよ!と言い残して歩いて行った。
「・・・な、なんだったんだろうっ?」
「うーん、何か男同士の話でもあるのかしら、ね。まあ良いわ、行けって言われたし行きましょ?」
「あっ、うんっ!私お腹ペコペコ・・・」
「私も!海ってお腹が空くわよね~。」
「泳いでる間は気にならないのにねっ!」
「わかるわ!上がった途端急に何か食べたくなっちゃうのよ。」
楽しくお喋りしながらビュッフェに向かう2人は、今別れた2人の方が大変な事になろうとしていることを知らない。
「・・・おし、誰も居ないな。」
向日が忍足を引っ張って来たのは更衣室である。
今はお昼時。
皆ビュッフェに行ってて、更衣室になんて誰も用事がない。
まさか跡部家のプライベートビーチで財布を取りに来る人なんて居ようはずもないし。
「どないしたん。」
そう言う忍足にはすぐ返事をせず、念入りに無人を確認して、向日は向き直った。
「あのな。」
「おん。」
「もう今しか聞けねえから聞くけど。」
「?」
「侑士って網代が好きなのか?桐生が好きなのか?」
ドン、と心臓が一つ大きく跳ねた。
「・・・何や急に。いうか、なんでその2人ーーー」
「なんででも良いんだよ!っていうか、別にどっちもそういう意味で好きじゃないんだったらそれで良いから!ほらどっちだ!」
「・・・・・・・」
「ほら。」
忍足は向日がこういう性格だから親友になった。
そして同時に極めて苦手な所でもある。
向日は駆け引きが嫌いである。
そもそもそんな気の長い方じゃないし、めんどくさい。相手の出方を伺って、押したり引いたりああだのこうだの、知ったことか。やってられるか、鬱陶しい。
放っておこう放っておこうと思ってたけど、放っておくにはあまりに全員身近すぎて向日はもう諦めた。
「・・・答える前に質問返ししてええ?」
「何?」
「聞いてどうすんのん?」
聞くからには何か目的がある筈だ。
まさかここまで熱心に聞ける状況を作っておいて、「なんとなく気になって」もあるまい。
一番可能性として高いのは、向日自身が今挙げた2人のどちらかが好きで、自分とかち合うかどうか確認を取りたい、というところだろうと忍足は踏んだ。向日の性格的にも頷ける話だ。
だが、勿論向日の真意は全然違う。
「俺は聞いたら侑士の味方をする。」
いずれにしろ、である。
網代が好きでも可憐が好きでも、現状この問題に絡まっているのは男が1人で女が2人なのだ。
もし網代が好きなら、網代も忍足を好きなのだからそれで良し。
可憐を好きなら、友達3人の内2人は片思いが確定するわけだが、どうせどちらか泣かねばならないのなら、より仲の良い親友である忍足の思いが実れば良いなと思ってしまうのは否めない。もし他に好きな人が居ても同じこと。
今は別に好きな人とかはと言われたら、条件が元に戻るだけである。いつか忍足が恋した時に味方になってやれば良い。
要は、向日は身の振り方を探る作業が面倒になったのである。
ずばーっと言ってくれたら手伝うから、さっさと言ってってなものだ。
だから向日はこの返事をごく自然にした。
理由はどうあれ、親友が味方になると言ってくれてるんだから、忍足が気を悪くする要素などどこにもないと思った。
だが、実はこれが大きな間違いである。
いや、流石に気を悪くしてるわけではないけども。
「・・・・・・」
言ってくれたら自分の味方をする。
というのは、言い換えれば自分がブースト役をやってあげるから進む方向はお前が決めて、という事である。
そして忍足はそれが苦手だ。
どこか一方に向かって突き進むというのが、基本的に忍足は気が進まないのである。
逃げる足は最後まで残しておきたい。
だから可憐に協力すると持ち掛けられた時も、わあいやったぜなんて諸手を上げて喜べなかった。忍足はあくまで自分のペースで進みたいのであって、人に背中を押されると計算が狂うのだ。
ただ。
ただ、だ。
逃げる足を残しておきたいというけれど、逃げるってどこへ逃げる気なんだろうか、自分は。まして可憐にはもう打ち明けてるのに今更。
逃げようとしたところで、今足を少しでも後ろにずらしたら、そのまま踏み外して真っ逆さまである。
忍足は自分で自分のことを良く分かっている。
あくまで自分を自分のコントロール下に置きたいのなら、足を前へ運ぶ以外に最早方法は無いのだ。
だから。
「分かった、言うわ。」
「おう。」
「俺は・・・」