Island of sun 2 - 1/8


ご飯を食べてからもう少しだけ泳ぐと、可憐達4人は一先ず別荘に戻り身支度を整えた。
シャワーを浴びなおして髪と体を洗って、私服に着替えて手荷物の準備をして。

「よしっ!ええと、時間・・・」

あてがわれた豪奢な客室のふかふかベッドに座り込み、これまた高価そうな壁掛け時計に目をやると、時計は14時15分を指していた。

待ち合わせは、跡部家別荘の玄関に14時30分。
なのだが。

「可憐ちゃーん!居るー?」

ノックと同時に扉の外からかけられた声に、可憐はびくりと肩を揺らした。

「は・・・はあーいっ!」

扉は開けない。
ベッドの上で座ったまま返事をする。

「支度どう?何か手伝うかしら?」

暗に此処で合流して一緒に行きましょうよ、という事だ。

しかし。

「あっ・・・あ、のねっ!ちょ、ちょっと今からお母さんに電話しないといけなくなっちゃってっ!なるべく早く切り上げるけど時間には遅れちゃうと思うし、先に玄関に行っててっ!」

嘘である。
電話する用事なんてない。

この嘘の上手い所は、「あらそうなの?じゃあ待ってるわね!」の流れに非常になりづらい所である。

この状況で待ってると言って相手の用事が電話では、お前わざわざ立ち聞きするつもりなのという事になる。それは友人とはいえ基本的には失礼なので、待ってくれるつもりとしても、部屋の前からは立ち退いてくれる。
加えてこう言っておくことで、気の利く性格の網代は「じゃあ先に言っておいて、可憐ちゃんが遅れる事情を説明するべきね」と判断してくれるのが期待出来る。可憐のスマホが電話で塞がると考えるので尚更だ。

果たして目論見通り、扉の向こうでは何も知らない網代があっさりと返事をした。

「そうなの?なら私、先に玄関に言って皆に連絡しておくわ、ね?」

よし。
玄関にさえ行ってくれれば、後はもうこっちのものである。

理由はどうあれ嘘を吐くのは若干気が引けるし、そもそもばれやしないかというどぎまぎもある。そういうのを全部飲み込んで、可憐は精一杯普段通りの声を出した。

「あ、有難うっ!そうしてくれると助かるよっ!ごめんねっ!」

「ううん、良いのよ!じゃあまた後で、ね?」

遠ざかっていく足音に、可憐はふうぅ・・・と安堵のため息を吐いた。

良かった。
ここでお得意のドジをして何もかもバレたらどうしようかと思った。ただでさえ網代は聡い方で、引っ掛けるには難しい相手なのに。

(よしっ、よしっ!後はこれで、もう出て良いよって連絡がくるまで待っておいて・・・)

「・・・・・」

一応、電話の演技とかしといた方が良いだろうか?

何か馬鹿みたいに見えなくもないが、念には念を入れておくべきかと思うし。どうせ今のこの場には誰も居ないんだし。

可憐はスマホに手を伸ばし、耳に当てた。
勿論どこにも繋がってない。エア電話。

「・・・あっ!も、もしもしお母さんっ?」

(わ、私何やってるんだろうっ・・・!)

いざ始めると馬鹿な事やってる感が想像よりぐあっと襲い掛かってきて、始めたばっかりなのにやっぱり辞めようかなという気になってきてしまう。
いやいや負けるな。やっておくに越した事はないんだから。

「う、うんっ!うんっ!うん、楽しいよっ!わ、忘れ物もしてないよっ、今の所はっ!」

ある程度母との会話を想定しての会話。
遥ならきっと、そっちは楽しい?とかトラブルは無い?とかやっぱり沖縄って綺麗?とか聞いてくるだろう。

「うん、沖縄綺麗だよっ!それでね、えと・・・い、今から沖縄の観光に行くんだっ!お土産買うねっ!そう、いつもの皆、で・・・」

段々語尾が小さくなる。

そう、わかってる。
いつもの皆じゃない。

そう仕向けてるから。






「侑士君。」
「茉奈花ちゃん、お疲れさん。」

待ち合わせの玄関ホールには忍足の姿しかなかった。

「皆まだなの、ね。あ、そうそう可憐ちゃんがねーーーー」
「遅れるんやろ。」
「あら、知ってたの?」
「岳人から聞いたわ。」

ふうん。ふうん?

誰か可憐が男子を一人選んで連絡するなら、向日でなくて忍足じゃないだろうか。
網代の心の中で若干しっくりこない何かが生まれたが、まあそんな気にするほどのものでもと思いすぐ無視した。

しかし、その引っかかりは次の忍足の一言ですぐに解消された。

「岳人も遅れるて。」
「あらまあ。そうなんだ?」
「ほんで宍戸も来たいて言うてんねんけど。」
「あら!良いじゃない良いじゃない!そうそう、宍戸君もどうかと思ってたのよ、ね。芥川君はまあ、潮風に吹かれて寝てる方が良いでしょうけど。」
「でも宍戸も遅れるて。」
「・・・ん?」
「せやから2人で先行っといてって。」
「・・・・・・」

流石に。
ここまで聞いて、ああそうなの偶然ねと思う網代ではない。
某古畑何某も言ってるように、「たまたま」が続いて良いのは2回が原則とすると、3度目から向こうは人か神かはたまた運命の悪戯か何かが強く由来している筈。

まあ。

「行こか。」
「待たなくて良いの?」
「皆「先行け」て言うてんねんし。」
「侑士君てば薄情ねえ。」
「いう事は、情に厚い茉奈花ちゃんは来てくれへんいう事やな?」
「そうは言ってないじゃない。」

働いてる力が何由来でも、別に関係ない。
手を貸してくれるというなら、有り難く貸してもらおう。

「私だって、結構薄情よ?」

網代は自然な動作で忍足の手を取った。