しかし。
「・・・・・・・」
(こ、怖いっ!お世話になっておいてあれだけど、あの子凄く怖いっ!)
気前よく探してくれる甲斐、田仁志と違い、もくもくと無言で探し続ける木手は、こう言っちゃなんだが結構怖い。
元々気乗りしないところを嫌々ながら手伝ってくれてるんだろうなとわかるだけにというか、こうやって探してる間にも、内心では「マジで余計な仕事増やしやがって」とか思ってるんじゃないだろうか。いや思ってると思う。
「・・・・ちょっと。」
「は、はいっ!」
「何ですか。何か言いたいことがあるんならさっさと言いなさいよ。」
「な、何でもありませんっ!」
何でもあるけれど、この場合何でもないと言うしかない。
基本。可憐の立場であれば。
「はあ。」
木手もわかってはいるのだ。
自分がどう見えてるかとか、可憐はどう思ってるかとか。
ただ、それはそれでこれはこれ。
木手としては別に可憐に気を遣う義理などない。
「大体ですが。」
「は、はい・・・」
「家族と来てるんだか友達と来てるんだか知りませんがね、貴方みたいな抜けてるタイプの人間は、一人で行動するとトラブルを呼ぶんだからお止しなさいよ。」
「ご、ごもっともですっ・・・」
「分かってるんなら人様に迷惑かける前に行動で示して欲しいものですね。」
「はいっ。」
「返事だけしてたって何にもならないんですよ、分かってるんですか。」
「・・・はい・・・」
その通り過ぎて何も言えない。
(どうして私、こうなのかなあ・・・なんだか出先なのにいつもと同じ失敗っていうか、上手くいかないっていうか・・・)
居る場所が沖縄か東京かの違いがあるだけで、自分は全くやることが変わってない。
物を失くして、人に一緒に探してもらって、この前関東大会で書類を失くした時と何が違うのか。
考えてみれば惨めな話だ。
折角の沖縄なのに。皆は今頃各々のびのび楽しんでいるのに。
自分はというと進歩もなく、沖縄くんだりまで来てやってることは炎天下の中汗だくになりながら落とし物探し。
「・・・・・」
「ん!?」
「慧君?どうしたさ?」
「あった!あったばぁ!」
「しんけん!?おーい!おーい、こっちさあ!あったってよー!」
おーい、という甲斐の呼びかけに、可憐と木手は顔を上げた。
「あ、あったっ!?良かっーーー」
「確認もしない内から、何を一安心しているんです。ほら、さっさと行きますよ。」
「ご、ごめんね・・・」
ちょっとしょんぼりしながら声のする方に向かうと、合流した田仁志の手には確かに飛ばした帽子が納まっていた。
「これがそうさ?」
「そ、そう、これっ!有難うっ!」
「ちょーっとだけ汚れちまってっけど・・・ま!気にすんなー!」
下に落ちてちょっと泥のついた帽子。それを雑にぱっぱっと払われ、ほい、と甲斐に帽子を手渡されーーーもとい被せられ、頭に刺さっていた日差しの暑さが和らぐのを感じた。
「・・・有難うっ!」
「良いって事やし!なあ?」
「おう!」
「言っておきますけど、もう二度とこんな事のないようにしてくださいよ。」
和やかムードだった3人の間に、木手の冷たい声音が割って入った。
「えいしろー・・・」
「可哀想さあ!」
「何が可哀想ですか。可哀想なのは我々の方ですよ、こんな暑い時にこんな事に付き合わされて。こういうのを俗に「良い迷惑」と言うんです。」
そんなの今更。なあ。と目と目で会話する甲斐と田仁志。
そもそも可哀想という話をするなら、フリーの午後を木手の趣味のボランティアに使われてる時点で可哀想じゃないだろうか。言うなれば帽子探しなんて、その延長でしかないのに。
だが前後の事情を知らない可憐には、甲斐と田仁志のアイコンタクトは木手の発言の裏付けと取れてしまう。そりゃあそうなんだけど。なあ、そうはっきり言っちゃあ・・・のアイコンタクトに見えるのだ。
わかってる。
迷惑以外の何物でもなかろう、彼らにとっては。
「・・・ごめんなさい、有難うございました・・・」
「分かれば良いんです。さあ、用事が済んだら行ってください。我々は忙しいんです。」
「えいしろーーー」
そういう言い方良くないって。
と言おうとした甲斐だったが、言われたことが堪えている可憐の顔に、逆に言葉が詰まってしまった。
じゃあ、本当にごめんなさい、と呟いて、泥のついた帽子を被ってすごすごと畑から出ていく可憐。
とぼとぼした足取り、しょんぼり落ちている肩。
そのままのろのろと畑から遠ざかって行く可憐の背中に、何とも言えない後味の悪さを感じる甲斐と田仁志。
「・・・・えー!ちばりよー!」
「何を頑張れと言うんです。」
「だってよー・・・」
言った田仁志でさえ、何に対してというわけじゃない。
ただ、このスカーンと晴れた明るい明るい夏の沖縄で、あんなどんよりオーラを纏いながらとぼとぼ歩いているのを見ると、意味はないかもしれないが頑張れと言いたくなるのだ。
「あんなに落ち込んでるさー・・・」
「永四郎。やっぱりちょっと言い過ぎたんじゃないさあ?」
「何を手ぬるい事を。ああいう手合いは、あれくらい言わないと効かないんですよ。」
そう言う木手は、流石にカリスマ性というかリーダーの資質に長けている。
相手に対して、どれくらいキツく言ったら自分の思い通りに動くかというのが、なんとなく感性の部分でわかっているのだ。
まあ言われた側がどう思うかとかは二の次三の次として。
「・・・・・」
「・・・・・」
「さあ。ぐずぐずしていないで、作業を終わらせますよ。」
そうは言いつつ、甲斐と田仁志は小さくなっていく可憐の影からどうも目を離せなかった。
あんまり落ち込むなよ。何か良い事あると良いな。と内心で声をかけながら。
それから暫く後の事だった。
もう少し畑から離れた駄菓子屋、そこの日陰にあるベンチで、平古場凛と知念寛は暑いのでかき氷としゃれこんで居たのだが。
(ん?)
平古場はふと気配を感じて顔を上げた。
目の前の道、ちょっと離れた所を少女が一人歩く。
心なしか大儀そうに。
そして何故か帽子に泥がついている。
おニューの帽子がお出かけ一回目で汚れたりしたんだろうか、気の毒に。くらいに思って、すぐ視線を外してメロン味(勿論メロン果汁など入っていない)のかき氷を一口。また一口。
そうしている間に少女ーーー可憐は2人の前を通り過ぎ、去っていった。
平古場にとってはただそれだけの話だったのだが。
「・・・今の女子。」
「ん?」
「でーじ凄かったな。」
「凄い?」
「あんな濃い負のオーラは久しぶりに見たさあ。」
「へ?」
今なんて言った。
平古場はかき氷を食べていた手を止めた。
「負のオーラ?」
「ああ。あれは何か、いかんともし難い悩みがある人間の顔やし。」
「へー。」
そうなのか。
しかし、知念にそう言われるとなんとなく「此奴がそう言うならそうなんだろうなあ」とか納得してしまう。
「彼氏に振られたとか?」
「その線も無きにしもあらずさあ。」
「ほー。夏休み頭だってのに彼氏に振られたんかあ。」
「同情するさ。」
こうして、誰も一言もそうとは言っていないのに、可憐は夏の始めに振られた可哀想な少女ということになってしまった。