「はあ・・・・」
畑を出発後、当てもなくふらふらと歩いていた可憐だったが、何せ夏の沖縄。
暑いし徒歩だし土地勘無いしで、疲労感を覚えるようになるまではあっという間だった。
(そろそろ帰ろうかなあっ?何か段々外に居るの辛くなって来ちゃったし・・・)
最初こそ見慣れない街並みや風景、気候を楽しむような余裕があったが、疲れてくると段々暑さや拠点の遠さが気になってくる。
お金だってそう幾らもあるわけじゃないし。
(うん、そうしよっ。戻って・・・海に出ないで部屋で涼んでたら良いよねっ。跡部君の別荘快適だし、皆には外を歩き過ぎて疲れたって言っておいて・・・)
「・・・・はあーあ・・・」
なんで、楽しいはずのお出かけ先で「いかに皆を避けるか」なんて考えなくちゃいけないんだろう。皆各々沖縄を満喫している中、こんな寂しいこと考えてるの自分だけだ。
挙句人に迷惑かけて、帽子汚して。
『貴方みたいな抜けてるタイプの人間は一人で行動するとトラブルを呼ぶんだからお止しなさいよ。』
『分かってるんなら人様に迷惑かける前に行動で示して欲しいものですね。』
その通りだと思う。
つくづく自分は、自分の面倒を自分で見られないと感じる。
でも皆と騒ぐ気分じゃないのは本当。
自分でも良く分からないこのモヤモヤを人に話す気にならないのも本当。
なんでもないフリが辛いのも本当。
帰ろう。
帰って、時間までベッドに沈んでしまおう。
可憐はややふらついた足取りで、しかし珍しくも道を間違える事無く帰路につき始めた。
「はー、食った食った。」
「夏は氷に限るさあ。」
「だからよー・・・ん?」
「なあってえーしろー!やっぱり今からでもよー!」
「きつい事言ってごめんなさいしに行くさー!」
「しつこいですよ。」
かき氷を胃に収めて歩いていた平古場と知念は、通りすがった畑の中から知った声がするのに立ち止まった。
「永四郎!裕次郎!田仁志!」
「あれ?凛と知念!」
「こんな所で何してるばあ?」
「俺達はかき氷食べに来てただけさぁ。」
「かき氷!」
「後で好きなだけ食べたら良いでしょう。」
「で?3人は何してるさ?喧嘩?」
「いや、喧嘩じゃ・・・」
そうじゃないけど・・・な目で木手を見る田仁志と甲斐。
「さっきやまとぅんちゅの女の子がよー。」
「畑に帽子落としたさーやー。」
「畑に・・・」
「帽子・・・」
それ、泥付き帽子のあの子では。
距離的にも無理がなさそうだし。
「それで探して拾ってやったんさあ。」
「でも永四郎がよー、迷惑だとかきつい事ばっかり言うもんで落ち込んじまってよ。」
「迷惑なのは事実でしょう。」
((畑仕事に比べたら、言うほど大した迷惑でもないやっし。))
「何か言いましたか?」
「「別に。」」
「ふうん・・・・」
聞きながら平古場は、さっき見た可憐の様子を思い出す。
「それって、帽子は白いやつさ?」
「え?ああ・・・」
「着てるのは、水色でチェック柄のワンピースで。」
「え?どうだっけ?」
「確かそうだったさー。」
「ポシェットはウォレットショルダーのやつ。」
「そうですが、よく知ってますね。」
「本当によく覚えてるさぁ。」
「いや、知念は一緒に見たやし。」
「オーラに目が行って、服は覚えてないさ。」
「ああ、そう・・・・」
まあ、兎に角これであの子なのはほぼ確定だ。
「と言うことは、あの子は永四郎に振られて落ち込んでたってわけか?」
「隅に置けないさぁ。」
「ええ!?」
「そうだったんさあ!?」
「どうしてそうなるんですか・・・振るも何も、初対面ですよ。」
「いや、知念がよー。あの子に負のオーラがどうとかって。」
「「「負のオーラ?」」」
知念は視線を向けられるとゆっくり頷いた。
「あれは悩みごとのある人間の顔さあ。」
「ほら、永四郎・・・」
「ですから、何故私がーーー」
「いや。さっきちょっときつく言われたからって、あそこまでオーラは濃くならないさ。前から何がしかの悩みがあった、と捉えるのが正解やし。」
「はん。ほら、見なさい。」
「ただ、それはそれとして追い打ちになった可能性は高いさあ。」
「・・・・・」
「「ほらあ!」」
「あーあ・・・」
平古場は軽く頭をかいた。木手はどうもこういう所がある。
対自分達なら兎も角、女子にはもうちょっとソフトにしてやれよと普段から思ってはいるのだが。
「・・・なあ。」
甲斐がおそるおそる口火を切った。
「あの子、大丈夫だよな?」
「どういう意味ですか。」
「ほらよー、そんなに悩んでたんだったらその・・・身投げとかしねえかなってーー」
「じ、自殺さあ!?」
「しんけん!?」
「はあ・・・」
木手は大仰にため息を吐いた。
「あのですね。彼女の悩み事とやらが何なのかは知りませんが、人間幾ら悩んでたと言っても自殺まで行くことは稀ですよ。」
「それは俺もそう思うさあ。」
「見なさい、知念君もこう言ってーーー」
「ただ、ああいう時の人間っていうのは、得てして不慮の事故なんかに遭いやすくはあるさあ。」
「「「「・・・・・・」」」」
「まあ、この辺は海から遠いから落下事故は考えにくいやし。信号無視の車が居ない事をお祈りするさあ。」
夏の昼過ぎだというのに、なんだかちょっと背筋がひんやりする一同。
「・・・なあ、やっぱり探して・・・」
「無茶を言わないで下さい。あんな観光客の一人、探すと言ったって無理がありますよ。」
「あい!なあなあ、それならよー。探すんじゃなくて、事故防止を目的にしたらどうさ?」
「「「「?」」」」
「つまりよ。要は探して会うのを目的にするんじゃなくて、どこに居るかは分からなくても事故に遭いさえしなければ良いんさ。」
「そうさあ!あっちの大通りの方をちょっとうろついてようぜ!」
「ああ、事故が起きないかの確認だけ出来れば良いと。そういうわけばあ?」
「おおおお!それなら出来そうさ!」
「私は行きませんよ。」
にべもない木手。
「えー、永四郎・・・・」
「別に、貴方達が行くのは止めませんよ。好きにすれば良いでしょう。その代わり私も好きにします。」
「心配じゃないんばあ?」
「はい、全然。」
「まあまあ。嫌がるのを無理に連れて行っても、効率は悪いさあ。」
「な。俺達だけで行こうぜ。」
「決まりですね。帰らせて貰います。」
どちらかというと情に厚い方の甲斐・田仁志コンビと違って、割とあっさりした所のある平古場・知念コンビはこういう時食い下がらない。
あっさり話は纏まって、5人の集まりは4人と1人に別れることになったのだった。