Wet lips 2 - 5/7


「なあ・・・」
「・・・・・」
「やっぱり、今からでも降りた方が、」
「だ、大丈夫です、こうして居れば・・・」
「・・・ぷっ、ははは!はははは!ははは!」

スライダーの登り途中。
紫希は通路の内側にへばりつくように手すりにしがみついて上っていた。

「おー!すごーい、あっちまで見えるー!」
「お前は身を乗り出すまでするんじゃない!」
「五十嵐、いつか落ちるよ?」
「お守りも大変ね。」

足して2で割ると丁度良いのに。
片やこれで片やこれだもんなあ・・・なんて思いながら桑原が目をやると、紫希は丸井に遠慮なく笑われている。

「そんな怖えの?」
「はい・・・」
「こっち向くのも無理?」
「凭れ掛かってる人を見るのも怖いんです・・・!」
「ああ、居るねそういう人は。」
「あれでしょ、展望台の上にあるガラスの床に乗ってる人が見られないタイプ。」
「やめて下さい・・・」

もう想像しただけで胃がひゅっとなる。
おお怖い。

「・・・なあ。」
「はい・・・?」
「ほーら。」

丸井は背中から外側の手摺に寄りかかって見せた。

「ひぃんっ!」
「はははは!悪い悪い、冗談だって。」
「ブン太・・・」
「あー!ブンブン意地悪なんだー!」

「ああいう事してて信用失くさないもんかしらね。」
「まあ、春日は悪戯好きには慣れてるから。棗とか。」
「・・・・・」
「うん?」
「いや。精市は悪質な悪戯しないから安心と思って。」
「・・・・・」
「・・・どしたの?」

「・・・したらどうする?」

え。

あまりに素でびっくりしすぎて、え?と問い返す声は半分言葉にならなかった。

ふふ、もしそんな事したらどうする?俺は意外と意地悪かもしれないよ?みたいな、そんな悪戯っぽい軽いニュアンスじゃない。

幸村は大真面目だ。
今、真面目に真剣にもし本当にやったらどうするか聞いてるのだ。

「・・・それは。」
「うん。」
「悪戯なの?」

正直に言うと、ぶっちゃけ事と次第によっては幸村は「悪質な」事はするかもしれないとは思う。今のところ見た事はないけど、どうしてものっぴきならなくなったら、腹を括った上で性格的にやりかねない。

ただ、それと「悪戯」が両立するとは考えにくい。
悪質だけど真剣にやってる事か、さして悪質じゃない悪戯か、そのどっちかじゃないだろうかと千百合はまず当たりをつけた。その確認である。

案の定というか、幸村は手すりに軽く凭れながらちょっと思案顔になった。

「・・・そうだね、確かに俺は悪戯のつもりはないかな。」
「ほら。」
「でも悪質な事には変わりないかもしれないし。」
「でも自分では真剣なんでしょ?」
「そうだけど。」
「ならそれで良いんじゃない。私は良いけど。」

千百合がそう言うと、幸村はそう。と納得したようなしてないような微妙な顔で言った。

何なんだろう。
結局、具体的にその悪質かもしれない事とやらの中身は言ってくれなさそうだし。
それが余計に不安を煽るというか、ちょっと怖いというか。今これがちょっとで済んでるのは、偏に幸村が普段優しすぎるくらい優しいから、少なくとも自分に対して滅多なことはないだろうという些か甘い見通しによるものだけど。

「・・・あ。」
「うん?」
「ないと思うけど、デートの行き先を昆虫博物館にするとかそういうのは止めてね。」

大概の事は何とか許容出来る自信があるけど、これだけは無理そう。というか無理。頑張れって言われても無理、出来ない。

千百合なりに一生懸命寛容になれなさそうな悪質な事を考えた結果だったのだが、幸村は一瞬きょとんとするとすぐいつもの笑顔で声を立てて笑った。

「しないよ、そういう事はしない。」
「なら良い。」

話し終えたタイミングで大きく列が動いたので、なんとなくこれで千百合は話を切り上げた。

結局何の話だったのかはわからないまま。