Wet lips 3 - 1/5


「えっとおー。皆さんにいー。残念なお知らせがありましてえー。」

ここは更衣室の外。
もう皆私服に着替え、ここへ来た時の格好でロビーに集合していた。

本来、もうここから帰るだけ。
だったのだが。

「何かあったのかい?」
「かいつまんで言うと、この大雨で駅が一部封鎖されているんだ。」
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
「俺達も、風呂場のテレビのニュースで少し見ただけだ。詳しくは知らんが、雨漏りの酷い箇所があるらしく、そこはもう通行が止められている。」
「つまり?」
「つまりねw最寄り駅に最短ルートで行けないわけよw」

このプールは、ほぼ駅と併設されていると言っていい距離にある。
駅から連絡通路を歩けばそのまま屋内の駅中広場に出て、そこから外へ行ったり併設のショッピングモールに入れたり。その選択肢の中にプールがある。

が、今問題になっている雨漏りの箇所がまさにそこ。
プール側から広場を通り連絡通路を通って、駅に入った丁度その地点が雨漏りにやられているのである。

当然、駅側はそこを乗客に通らせるわけにいかない。
滑って怪我人が出ると、それはもう駅側の責任になるからである。

「えー、じゃあどーすんの?」
「逆側から入る。それしか方法はない。」
「逆側と言いますと・・・つまり此処が北口ですから、南口から入るということですか?」
「そうだ。南口は封鎖されとらん。それは駅に問い合わせて確認済みだ。」
「ちょっと待ってよ。南口って簡単に言うけど、南口って言ったらーー」


「はいw俺達はこれから屋根のない大雨の中を徒歩で10分は歩かねばなりませんw」


この駅は、線路を挟んで北と南ががっつり分かれている。
ここから駅中を通らないという条件付きで向こう側に行くのなら、どうしたって屋根のない屋外を進むのは避けられない。

「マジかよい!?」
「残念ながら他に方法はない。ああ、因みに傘を持ってる者も居ると思うが、あまり勧めないぞ。風もそれなりに強い。折り畳みは壊れる。」
「あ!ではあの、雨合羽を買って・・・」
「売ってくれとるとええがの。」
「確かに、売り切れてそうだな・・・」
「同じことを考えてる人は多いだろうしね。」

残念ながら、今この状況において一同は出遅れてしまったという他ない。
雨が降ってるのだから雨合羽は売ってるのが普通だが、そもそも今日は予報では段々晴れてくると予想されていたのである。
だからこそ一同はのんびりしていたし、周りもそうしていたし。
つまり、殆どの人間が備えていなかった。気づいたのが早かった者から同じ行動を取るわけなので、果たして今から対処に回って間に合うかどうか。

どうしようかなあ、と皆が考える中、紀伊梨だけがあっけらかんと言った。


「じゃー皆で頑張って駅行こうよ!」


「行こうよって、あんたね。」
「大丈夫だよー!夏だからちょっと濡れてもそんな寒くないし、ほら!どうせさっきまで皆びしょびしょだったしさ!それにそれに、皆でならずぶ濡れもきっと楽しーですよっ!」

ともするとなんだか普段より輝いてるような顔で言う紀伊梨。
お化けが絡んでいないと、紀伊梨は本当に逆境に明るくなる。

そして、つられてなんだか皆の空気も弛緩しだす。

「・・・ま。どうせ他にやりようもねえんだし?」
「ふふ。帰ったらお風呂に直行だね。」
「沸かしといてって頼もっかな。」
「それよりもw家の最寄りまで辿り着いたら車持ってきて貰おうぜw」

「比較的乾いているハンドタオルがあるなら、雨で濡れないよう出来るだけ鞄の下にしておけ。」
「バスタオルは、マントの代わりにした方が良いですね。」
「ああ・・・夏とはいえ冷えるからな。」
「そうですよね、この後クーラーの効いた電車に乗るとなると特に・・・」

「む?仁王、お前は準備をせんのか?」
「ああまあ、多少濡れた方が涼しいかと思うての。」
「そうか。」
「あ、良いなー!紀伊梨ちゃんもやるー!」
「お前はするな!女子は体を冷やすものではない!」
「怒り方が婆さんじゃき。」
「む?何か言ったか?」
「いや。」


「よーし!じゃあ皆腹括るよー!」


いざ行かん、大雨の屋外へ。