Wet lips 3 - 2/5


なんて決めたは良いが、いざさあ行けと言われると。

「おー!すごーい!」
「これは・・・なんていうか・・・」
「色々無駄って感じ?」

丸井の一言はかなり的確だった。
こんな雨で徒歩10分もしたら、まあまず全身濡れ鼠は避けられまい。

「しかし、ここで止まっていても始まらん。」
「そうだね、行こう。皆、はぐれないように。それから、走るのは危ないから厳禁だよ。特に五十嵐。」
「えー!走っちゃダメなのー?」
「急ぐ気持ちも分かるが、人も多いし事故の元だ。」

「・・・・・」

紫希はそろ・・・と履いていたビーチサンダルを脱いだ。

今から行く南口への道のりは、屋外ではあるが下はアスファルトではない。
空中連絡通路を歩くので、タイルになるのだ。
そして、濡れたタイルの上を履きまくったビーチサンダルで通行は非常に危険。まあ間違いなく、自分のような鈍は滑って転ぶ。知ってるのだ、今まで何回もやった事あるもん。

(スニーカーで来れば良かったです・・・)

「紫希?どうしたの?」
「あ、いえ。何でも・・・」

「おーし!じゃあ皆、行くよー!各自周りとぶつからないように注意してねー!」

何かこんなのこないだのお祭りの時もやったなあ・・・とか思いながら、一同は雨の中にとうとう足を踏み入れた。




「ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、」

紀伊梨は軽快な足取りで先頭グループを行く。
この視界のド悪い雨風の中、ほぼ晴れてるのと変わらないスピード。

「大した者だな、彼奴は。」
「ああ。今日はそう混雑しているわけでもないし、特に気を付けて見ていなくても良さそうだ。」
「何か言ったーあ?」
「おい、今は前を向かんか!」
「五十嵐!」
「え?うおっとお!」

柳にシャツの襟首部分を引っ張られて、1歩下がった直後にさっきまで紀伊梨が居た場所を誰か見知らぬ通行人が駆けていった。

「おお!ありがと!」
「話は後にしろ。今は取りあえず駅まで行くんだ。」
「ほーい・・・」
「今は見逃してやるが、着いたら迎えがくるまで説教だぞ!」
「えー!?」




「はあ、はあ、はあ・・・」

のろのろ真ん中辺りを進む紫希は、紀伊梨とは逆に進むだけで一苦労である。
雨に降られるというのは、それだけで体力を消耗する。
でも良かった。裸足だから、ビーサンよりは転ぶ心配は少ない。

ただ。

「はあ、は・・・いた!」

小石を踏んだ。そう、転ばない代わりに裸足だとこういう事がある。
いやそれでも、痛い、で済むだけマシとしておこう。こんな雨の中思い切り転んだら目も当てられない。

「おい、大丈夫か。」
「仁王君・・・大丈夫です、有難うございまーー」
「お前さん、靴はどうしたんじゃ?」
「あ・・・」

見つかった。
いや別に隠すような事でもないのだが。

ビーチサンダルが滑るので・・・というと、仁王は合点がいったという顔でああ、と呟いた。

「ただ、靴を脱ぐ前に出来ることがあるじゃろ。」
「え?」
「手を貸してと口に出して言う練習が必要じゃな。ほれ、サンダルを履きんしゃい。よろけたら引っ張ってやるき。」
「いえ、でも、」

紫希の腕を掴む仁王に、近くにいた柳生がおかしそうに笑った。

「珍しい事をしておいでですねえ。」
「この場合、転んだのを放っておいても睨まれるじゃろ。どうせ睨まれるんなら、面白そうな方向へ転がした方がお得じゃ。」
「???でも、あの、」
「まあまあ春日さん、仁王君もこう言ってるんです。甘えておけば良いんですよ。」
「???」

紫希は言われるままにサンダルを履いた。
会話の意味はよくわからないまま。




そしてその頃、千百合は一番後ろに居た。
幸村に手を引かれて、小走り気味に進んでいた。

「千百合?大丈夫?」
「うん。」

別にそんなに確認しなくても逸れたりしないのに。
心配性なんだから。

なんて、ちょっと意識が逸れた時だった。

「っ!」
「千百合!」

ドン、と誰かにすれ違いざま鞄同士がぶつかり、千百合は体ごとよろめいた。

幸村が手を引いてくれたから、転ぶのは免れたものの。

「うわ・・・」

勢いで思わず鞄を取り落とした結果、全部とは言わないがそこそこ鞄の中身が零れ。
その上殆ど濡れていなかったハンドタオルが転がり出て、あっさり雨を吸って一瞬でびたびたになってしまった。

「大丈夫?」
「うん。ごめん、ぼーっとしてて。」
「いや、こういう事もあるよ。それよりも、ケガはない?」
「それは平気。」

幸村も荷物を拾うのを手伝ってくれる傍ら、ハンドタオルを拾い上げるとずっしり重い。
ああくそ、他はもうそれなりにプールで濡らしたバスタオルとかしかないのに。こんなところで無駄に一枚消費するなんて。

「そのタオル、もうダメかな?」
「うん無理。水が染み込みきってる。」
「そう。まあ、兎に角後にしよう。今は駅まで辿り着かないと。」
「ん。」

千百合は手を引かれてまた歩き出した。
駅はもうすぐそこ。