Training camp – in Hyoutei gakuen -:Change course - 2/5


それから間もなくのある日。
今日も今日とて、もう授業がなくなり常と比べるとかなり静かになった学校で、氷帝学園テニス部は練習に励んでいた。

「よし、集合だ!昼に入る前に、連絡がある!整列!マネージャーもだ!」

跡部の号令でぞろぞろ並び始める部員を見つつ、可憐もスポドリのタンクを戻して並び始めた。

「何の話だろうっ?」
「さあ?わからないけど、あれに関係があるかも、ね?」
「あれだよねっ、あれもよくわかんないよね・・・」

可憐と網代がいう「あれ」というのは、今朝から学校にせっせと出入りしている業者の姿であった。
最初は学校のメンテナンス的な設備業者かなと思っていたのだが、どうも違う。
ロゴを見ると、引っ越し屋さんになっている。
皆今朝から、何だろう、模様替えかな、とか色々好き勝手言っていたが、結局何なのかは誰も知らず。

「連絡が遅くなってすまなかったが、明後日以降に控えている合宿の話だ。」

そう。
可憐達は明後日から合宿に行くのである。

日程は5泊6日、今はぎりぎりまだ7月だが帰ってきたらもう8月に入っているというスケジュール。
行先はイギリス、跡部の実家。
これは余談だが、氷帝の方針として入学の時点で可及的速やかにパスポート取れと言われているので、パスポートは学生全員持っている。

が。

「俺様としても非常に残念でならねえが・・・イギリス行きは中止とする。」

「「「「「「「「ええ!?」」」」」」」」

「理由の方だが、まあ端的に言うと天候の関係だな。大雨が近づいていて、飛行機が何日間かは飛ばせねえ。どうにかならねえかと手を尽くしてみたが、命の危険もある。榊監督も、事故の可能性があるなら辞めておけと言っておいでだ。」

(飛行機かあ・・・まあそうだよねっ!幾らなんでも天気は跡部君でもどうにもならないしっ。)

それこそ無理に強行して事故に遭ったらえらい事である。
そこまでして無理にイギリスに行く意味あるかと言われるとそれもないし。

「じゃあどうするんだ?」
「中止か?」

「中止はしねえ。夏の詰めだ、合宿は必ず行う。同じ理由で短縮も無しだ。2日待てば渡英は可能になるが、その2日が勿体ねえからな。そして順延もしねえぞ。ここに居る全員が明後日から6日間を空けてる。それがずれるとなりゃあ、他の用事と被って参加できなくなる奴が出てくる。よって・・・

合宿はここ。学園に泊まり込みで行う事とする。」

「泊まり込みっ!?」
「あらまあ。」

「まあ、本当の事を言うとイギリスの方がコートの数が揃っているから、効率という意味で本当の代替案とは言えねえんだが・・・まあ今になって打てる手としてはこれが最上だ。各々言いてえ事もあるだろうが、従ってもらうぜ。」

確かに言いたいことは山ほどある。
というか、聞きたいことが。跡部に対する文句は別にないけど。

「じゃあ、あの今行き来してる業者は・・・」
「ああ、宿泊用の部屋が足りてねえからな。合宿の間だけ、空いている教室を寝室として幾つか使うことにした。それの準備だ。」

(本当に学校に泊まるんだ・・・)

「まあ確かに、ここなら食堂も厨房もあるし、ロッカーもあるし。シャワールームもちょっとした(跡部基準)お風呂もあるし、ベッドの問題さえクリア出来れば、下手に他所を手配するより良いわね。」

そう、氷帝学園には部活動に必要なものが大体大凡揃っている。
ネックとして、他の部活も合宿はしないまでも普通に各種設備を使用しているので、貸し切りに出来ないことである。
200人+マネージャーの大所帯を連れて、予約なしで急遽どこかへ合宿となると、どうしても跡部の息がかかった大規模な所でないと対応&収容しきれないのだ。
ある意味、氷帝学園という代替案はもうそれしかなかったという妥協もあっての事。

不本意丸出しの王様に、部員達は十分だよ十分・・・と思いながら呆れたり苦笑したり。

「というわけで、明後日はここに現地集合とする。持ち物は、パスポートだけ抜いておけ。他に変更はない。それから移動時間は無視出来る事になった以上、集合時間に変更はなしとし、即練習開始だ。以上。」

跡部の号令でやっと昼休憩に入れた部員達はめいめい騒ぎながら昼食の準備に向かう。
中にはイギリス行けると思ったのにー!と露骨にぎりぎりしている者も居て、可憐も口には出さないまでも気持ちはわかる。自分も行ったことないし、行きたかった。

「さて、さて!これはちょーっと面倒な事になるわ、ね。まあちょっとだけだけど。」
「えっ?そうかなっ?慣れた場所の方が私達も仕事がし易いんじゃ、」
「いいえ、そうはいかないわ。今回は何せ急な事だったから、普段なら気にしなくて良い問題が発生するわよ。」
「?」

「他部活との兼ね合いよ。」

他の部活だって、設備使いたいのである。
特に氷帝テニス部は元々合宿で学園を使わなくなるという予定だったから、他所の部活だってそのつもりで各種設備を回すつもりでいるのだ。

そこに土壇場でこの大所帯が食い込んでくるとなると、何がしかのトラブルはおそらく起こるだろう。網代はそう踏んでいた。

「それに、それでなくてもちょっとテニス部は、ね。部長様が目立ち過ぎちゃってお客さんが多いから、泊まり込みで部員がここに居るとなると、煩い人も多いわよきっと。」
「ああ・・・うん・・・」

お客さん、というのは関東大会で日吉や鳳がしたような、アポ取っての見学者ということではない。
これは網代のちょっとした皮肉で、勝ち進むにつれて徐々に膨れ上がりつつある、跡部のファンの話だ。

流石に普段氷帝の学生以外基本居ないが、それでも元々人数の多い学校なので集まる女子の数も多い。しかも本学の学生だと学校から締め出すという強硬策も取れないし。
しかもそれに加えて長期休暇となると、他校の学生も来る。本来そういう人間は締め出すのが筋なのだが、夏休みになって色んな部活が他校の生徒と交流を始めると、いちいち確認していられず締め出すに締め出せないのだ。
そうなった時に何事も起こさず過ごせるかどうか。

何も起きてない内から心配していても仕方がない。
とはわかっていても、やはり心配なものは心配。

何事もなければ良いが。