Training camp – in Hyoutei gakuen -:Change course - 4/5


忍足は昼食後、休憩の間に水道で顔を洗っていた。
どんなに暑くても、基本頭から被ったりとかそういう真似はしない。育ちの良い男の子。

「ええと、水道水道・・・あっ!忍足君っ!」
「ん?ああ。可憐ちゃん、お疲れさん。」
「お疲れさまっ!」

可憐はお茶用の水を汲みに来た所であった。
普段は体のためにスポドリだが、やっぱりご飯の時はお茶も欲しい人間が多いので、マネージャーが用意しているのだ。

「さっき、なんや楽しそうやったな。」
「えっ?」
「茉奈花ちゃんも一緒に、4人で意気込んでたやん。甘いものとか頑張るとか。」
「・・・あ、ああっ!あれっ!あれね、この間言ってたお菓子作りの話だったんだっ!紫希ちゃんが監督してくれるのっ!」
「ああ、ええよて言うてくれたんや。」
「うんっ!」

(ダイエットの話と違うたか。)

姉がこの季節になるといつも似たような感じでダイエットへの決意表明をしているから、可憐達も多分そうだろうなと踏んでいたのだが意外や意外。作る方の話だったか。口に出さなくてよかった、失礼極まる。

「あっ、そうだっ!忍足君、お菓子作りの日は私も頑張るからねっ!」
「せやな、上手いこと出来たらええな。応援してるわ。」
「うんっ・・・じゃなくてっ!茉奈花ちゃんの話っ!」
「うん?」
「作ったお菓子だよっ!真理恵が黒羽君にあげたがってるし、きっと誰かにあげるみたいな話になるから、茉奈花ちゃんに忍足君にあげるように勧めておくねっ!」
「ああ・・・」

それって可憐が頑張るような事かなあ・・・なんて忍足は思う。

そもそも論だが、可憐はたまにこの件に関して自分より気合入ってるのではないかと思うことがある。
理由は知りたいかと言われればどっちかというと知りたくないので聞きはしないけど。

(まあ友達の恋路を応援しとうなる年頃やんて言われたら、それで済むねんけど・・・)

「それでね忍足君・・・聞いてるっ?」
「聞いてるで。」
「あのねっ、茉奈花ちゃんはお菓子がそんなに得意じゃないから、もしちょっと不格好でも美味しいって言って食べてあげてねっ!」
「ああ、それはまあ。当たり前やけど。」

その辺の事は、忍足にとってはもうマナーである。
出されたものをまずいからってまずいとばっさり言うような神経は持ち合わせてない。あの従兄弟相手になら言えるだろうけど、女子相手にそれは流石に。

「そう言うたら可憐ちゃんは。」
「えっ?」
「誰かにあげるん?」
「私っ?私・・・」

考えてなかった。
確かに。
今網代に絡めて誰かにあげるという話になるだろうと言ったけど、よくよく考えてみれば自分にだって話題が回ってくるのは自然だ。

「ええ・・・でも、特に考えてなかったかなっ!別にこれといって当てもないし・・・うう。」
「?どないしたん。」
「ううん、ちょっとこう・・・当てがないことに一抹の寂しさがっていうか・・・」

いや実際当てはないのだが、この場合当てがないというのも誇らしいこととはあまり言えない気がする。年頃の女子としては新城のように、あの人にあげるの!ときらきらした目で言ってみたいなあ的な憧れがないではないので。

「・・・まあ、そんな真剣に考えんと。気が向いたら、誰かあげたい人にでもあげたらええんやし。」
「あげたい人・・・」
「そう。あげたい人。」

あげたい人。

お世話になってる人。
仲の良い人。

自分の手作りで、笑顔になって欲しい人。


あげたい、人ーーーーー


「侑士!」

思考に割って入ってきた向日の声で、可憐ははたと意識を現実に戻した。
岳人、と呟いて忍足は水道から離れていった。

「どないしたん。」
「なあ、こないだ買いに行ったグリップテープもう巻いてんの?ちょっと振ってみてーんだけど。」
「ああ、ええで。」

「・・・・・・」

お茶用のタンクを片手に、可憐は暫し立ち竦んだ。

あげたい、人は。